哲学演習Ⅰ
ミル功利主義における正義と利益―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
下川 潔 教授 4 2~4 通年 2

授業概要

 近現代の倫理学の基本問題を扱う演習である。昨年度に続き、本年度もミルの功利主義を検討するが、別の主題を扱う。まずミルの功利性の原理と彼の功利主義の主要な論点を整理し理解した後で、『功利主義論』Utilitarianismの第5章「正義と功利性の関係について」('On the Connection between Justice and Utility')を読み、正義の立場からの功利主義批判に対してミルがどのように応答しているかを学び、その応答がどれほど成功しているかを検討する。
 功利主義批判の一つの重要な論点は、今日でも、正義と関連する論点である。すなわち、全体の利益や幸福という観点は、正義(ないし諸個人の権利の平等な保障)という価値を説明しえないという論点である。ミルがこの批判にどう応えているかを検討することを通じて、全体の利益や幸福と個人の権利の関係、あるいは前者と権利の平等な保障との関係を考え直したい。この点を考察するために、ミルとスペンサーの間の議論にも踏み込んで、ミルの応答が十分であるかどうかを検討したい。さらに、功利主義を擁護可能な形に修正する試みも考察し、功利主義と権利論的(あるいは義務論的)な正義論との間で交わされている現代の論争にも少しは触れてみたい。

到達目標

●毎回テクストを予習し、高度な英文を読解する能力を身につける。
●ミル功利主義の主な論点を理解する。
●正義の側からの功利主義批判へのミルの応答を理解し、これを評価する。
●ミニ発表を行う。

授業計画

1 導入 演習の方針とテクストの説明、役割分担
2 ミルの功利主義の主要論点の整理
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4 ミル『功利主義論』第5章を読む。
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14 総括
15 自主研究
16 ミルの『功利主義論』第5章を読む
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20 ミルの応答の評価(スペンサーとの論争の評価とあわせて)
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24 現代の論争と功利主義の修正
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29 総括
30 自主研究

授業方法

演習形式でメインテクストの読解を進める。随時、発表を割り当て、討論の時間を設ける。

準備学習

(1)英文テクストの読解にあたっては、毎回、全員、十分な予習をしてきてほしい。
(2)発表者は十分時間をかけて準備し、人数分のレジュメを準備すること。

成績評価の方法

レポート:50%(学年末論文を提出してもらう。)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):25%
口頭発表:25%(口頭発表をやってもらう予定。)

教科書

J.S. Mill, George Sher (ed.), Utilitarianism, Hackett
Mill, Utilitarianismには色々な版があるが、この演習に参加する人には、Hackettから出された安価で良質な版がおすすめする。各自、この版または別の信頼できる版を購入してほしい。

参考文献

授業中に紹介する。