言語・情報コース ゼミナール(5)
言語と認知:ドイツ語における共感覚表現―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
岡本 順治 教授 2 3~4 第1学期 3

授業概要

「共感覚」(synesthesia)とは、心理学的には「一つの感覚が他の異なる領域の感覚をひき起こす現象」であるが、言語学的には、「一つの感覚における表現を使って他の異なる領域の感覚を表現する」ことである。
日本語の例「黄色い声」について考えてみよう。
 
(1) 若い子なら[...]ミュージシャンが登場しただけで「キャー!」と黄色い声で声援を送る。
   (おちまさと『図解 相手に9割しゃべらせる雑談術』PHP)
(2) Ihre grelle Stimme war nicht zu überhören.
Lutzeier, Peter R. (2012) Wörterbuch des Gegensinns im Deutschen. Berlin/New York: Gruyter.
 
「黄色い」は「色彩」表現であり、それぞれを「声」という聴覚領域に写像している([色彩→聴覚])。「黄色い声」とは、(1) の例で分かるように「(典型的には若い女性や子どもがあげる)かん高い声」を表す慣用句だが、ドイツ語では、*eine gelbe Stimme とは言わない。その代わりに eine schrille Stimme、あるいは eine grelle Stimme(かん高い声)と言うが、schrill がそもそも「音の高さ」を表すのに対して、grell は、「明度が極端に高い」ことを表す形容詞である。つまり、(2)は「彼女のかん高い声は聞き逃すことはなかった」という意味ではあるが、 eine grelle Stimme は「明度」表現を聴覚領域に写像している([明度→聴覚])。
 
今学期は、具体的なドイツ語の文章を読みながら、(a) 主に「色」、「光」、「音」に関する表現を共感覚表現という視点から分析する。また、(b) ドイツ語の表現が、和訳した時に同じように成り立つのか、(c) 成り立った場合も果たして同じ意味になっているのか否かを考える。

到達目標

・「共感覚表現」について理解し、ドイツ語の実例を見つけて説明できるようになる。
・日本語とドイツ語の「共感覚表現」の比較をして、その共通性と違いを考察し、説明できるようになる。

授業計画

1 イントロダクション(授業の進め方、一般的注意)
発表の割り振り、テキストの概略説明
2 学生による発表とディスカッション
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14 授業の総括
15 予備日
(a) こちらで用意したドイツ人作家による推理小説の中の文章を題材にする。
(b) 毎回、担当の学生が担当箇所を和訳するとともに、「色」、「光」、「音」に関する表現を見つけて説明をする。
(c) 全員でディスカッションをする。

授業方法

ゼミ形式で、個人発表とそれに対するディスカッション。

準備学習

口頭発表が割り当てられていない人も、事前に授業で読む範囲の文章を自分で知らない語句を中心に調べておき、ディスカッションに加われるように準備しておくこと(60分程度)。

成績評価の方法

レポート:40%(テーマ設定、構成、論理性、実証性、独創性)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):20%(出席点、ディスカッションへの積極的参加、質問)
口頭発表:40%(明確な構成、ドイツ語の正確な解釈、実証性、独創性)
授業中の口頭発表、積極的な授業参加、レポートの総合評価で最終的な成績を決めます。

参考文献

第1回目の授業で、認知言語学関係の参考書を紹介します。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

・さまざまな言語に興味を持ち,知的好奇心にあふれた積極的学生の参加を希望します。
・なんとなくフィーリングで読むのではなく、きちんと理詰めでドイツ語の文章を読むことを求めます。
・ドイツ語が好きな人を歓迎します。