アーカイブズ学理論研究Ⅰ
基礎となる理論と知識―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
保坂 裕興 教授 4 D/M 通年 1

授業概要

人間は、文字等の記号を使って記録情報を作成し、それらを保存し利用することによって社会をより豊かでダイナミックに構築してきた。アーカイブズとは、個人・団体が自らの活動の中で生み出した記録のうち、持続的な価値をもつ重要記録のことであるが、またその保存・活用を行う機関やプログラムのことをも指し示す言葉である。現代社会の中でアーカイブズは、個人・団体の存在や権利を守り、意思決定や説明責任を支え、さらには過去から未来へ人間の経験と知恵を伝える役割を担っている。このアーカイブズの業務を担う専門職:アーキビストは、記録を的確に把握し、使用できるようにするとともに、その中の重要な記録を最終的に<人類共有の記録遺産>として保存し、過去の省察、人間・社会の理解と共感、未来社会の創造のために利用できるようにするのである。本研究は、このような観点からレコード・コンティニュアム(記録連続体論)と呼ばれる概念モデルを軸とし、アーカイブズ学における基礎的な考え方、論点、およびその<知識の所在>等について講じ、検討するものとする。

到達目標

アーカイブズ学の基本的な考え方、知識の所在、並びに国家・社会におけるアーカイブズ及びアーキビストの役割について理解し、自らその初期的研究に取り組むことができるようになる。

授業計画

1 オリエンテーション 授業の目的、教科書の使い方、授業の進め方、他の授業科目との関連などについてアーカイブズ学序論(1)アーカイブズ学の構成および用語について
2 アーカイブズ学序論(2)アーカイブズ学の二大原則と概念モデル(ライフサイクル論とレコード・コンティニュアム論)
3 アーカイブズ学序論(3)教科書 Keeping Archives (以下、KAとする)による補足
4 アーカイブズ学理論の発展(1)前史(文字の活用をめぐる議論、王のための記憶の諸制度、闘う道具としてのアーカイブズ等)
5 アーカイブズ学理論の発展(2)情報公開と近代の国家・社会-スウェーデンの報道自由法(1766年)-
6 アーカイブズ学理論の発展(3)フランス革命と市民のアクセス権、「フォンド原則」、「二大原則」
7 アーカイブズ学理論の発展(4)20世紀における世界への拡がり-様々な保存・活用プログラム-
8 アーカイブズ学理論の発展(5)電子記録とインターネットによるアーカイブズ活動の変貌
9 アーカイブズ学原論(1)oralityとliteracy
10 アーカイブズ学原論(2)記憶・記録・真実
11 アーカイブズ学原論(3)記号学による情報とコミュニケーションの理解
12 教科書 KAによる補足(講読)
13
14 総括討議
15 理解度の確認
16 アーカイブズ制度(1)日本における現状と課題:法制度の観点から
17 アーカイブズ制度(2)日本における現状と課題:市民活動と企業活動という観点から
18 アーカイブズ制度(3)世界における現状と課題:ゴール、方策、残された課題
19 アーカイブズ制度(4)教科書 KAほかによる補足
20 アーカイブズ専門職(1)その歴史と教育・研修
21 アーカイブズ専門職(2)アーキビストの倫理規定(Code of Ethics)
22 アーカイブズ専門職(3)博物館・図書館・アーカイブズの連携-文化遺産の保存活用への貢献
23 アーカイブズ専門職(4)教科書 KAほかによる補足
24 普及活動(1)利用者研究とさまざまなコミュニティづくり(教科書 KA 第14章 Advocagy & Outreach)
25 普及活動(2)出版(リーフレット、パンフレット、年報、目録、資料集、研究紀要等)の作成と活用
26 普及活動(3)アーカイブズにおける展示活動-業務活動あるいはその成果の展示-
27 普及活動(4)教科書 KAほかによる補足
28 普及活動(5)教科書 KAほかによる補足
29 総括討議および授業のとりまとめ
30 理解度の確認

授業方法

講義を中心に進めるが、一部に文献講読を織り交ぜる。これにあたっては受講生に分担発表をしてもらう。各回のテーマに関する理解を問うために、発言を求めたり、小テスト(レポート)を課したりすることがある。

準備学習

教科書及び配布資料を指示に従って読み進めておくこと。

成績評価の方法

レポート:50%(授業内容の一部をふまえ、自分なりに課題を展開させる。)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):50%(授業への積極的参加とテキストの分担報告。)
上記により総合的に評価する。
博士前期課程学生については博士前期課程科目の基準により、博士後期課程学生については博士後期課程科目の基準により成績を評価する。

教科書

記録管理学会・日本アーカイブズ学会『入門アーカイブズの世界』、日外アソシエーツ2006
国立国文学研究資料館史料館編『アーカイブズの科学』、上・下、柏書房2003
Jackie Bettington eds., Keeping Archives, 3rd Edition, Australian Society of Archivists, 2008
『アーカイブズの科学』は、現在のところ日本語で読むことのできる最も重要な研究書であり、他の授業においても普通に参照が求められる。Keeping Archivesは、世界中で最も広く用いられている教科書の一つである。このうち、本授業では第1、3、4、11、14、16、17、18章を対象とする。他の章は他の授業で扱うこととなる。Keeping Archivesは共同購入する予定である。

参考文献

青山英幸・安藤正人編著『記録史料の管理と文書館』、北海道大学図書刊行会1996
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会編『日本のアーカイブズ論』、岩田書院2003
安藤正人『記録史料学と現代』、吉川弘文館1998
高山正也編『公文書ルネッサンス-新たな公文書館像を求めて-』、国立印刷局2005
ジャック・ル・ゴフ『歴史と記憶』、法政大学出版会1999
Sue McKemmish eds., Archives: Recordkeeping in Society, Charles Sturt University Centre for Information Studies, 2005
ポール・リクール『記憶・歴史・忘却 上・下』、新曜社2004・2005

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

アーカイブズ学専攻では、本授業科目を博士前期課程第1年次に履修すべき科目に指定している。