※映像芸術批評研究
映画における同性愛表象―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
溝口 彰子 講師 4 D/M 通年 5

授業概要

この授業では、基本的な理論の講義、具体的な作品についての論文の講読、抜粋映像の分析を通して映画における同性愛表象を考察する。その際、いかなる表象も現実の単純な反映ではなく、現実と、ファンタジー(ドリーム、偏見などとも言い換えられる)の複雑な交渉から生まれるものだという認識がひとつのキーとなる。また、セクシュアリティとジェンダーについての議論も関与してくる。ホモフォビア(同性愛嫌悪)と異性愛規範に対抗する視点を持つ誰しもが、誠実な想像力を駆使して、フェアな同性愛者像を描きうるという、本質論からの脱却も軸である。
従って、この授業は、レズビアン&ゲイ映画批評、フェミニスト映画理論に加え、クィア理論、ビジュアル・スタディーズ、ジェンダー・スタディーズなどに依拠する学際的なアプローチをとる。学生それぞれが、基本的な理論を学んだ上で、自身の関心に応じて、映像作品を理論的かつ具体的に分析考察する能力を身につけることが目標である。その際、「何が描かれているか(what)」だけではなく「どのように描かれているか(how )」にも注意を払う姿勢を身につけることが求められる。
なお、誰かの現実を直接的に反映していないことがあらかじめ前提となっている点で、女性クリエーターによる主に女性読者のためのBL(ボーイズラブ)マンガは本授業の根幹となる理論的前提を体現するジャンルといえる。この認識から、本授業における主な分析対象は映画だが、映画分析の手法を応用してBLマンガを分析することもある。(授業内容は変更することがある)

到達目標

*「ホモフォビア」「異性愛規範」「クィア」概念について理解し、自分の言葉で説明できるようになる。
*映画(やマンガ)における同性愛表象を、異性愛規範やホモフォビアを乗り越えているかどうかによって判断できるようになる。
*映画(やマンガ)で何が描かれているかというあらすじの理解だけではなく、視覚的にどのように描かれているかを具体的に場面ごとに分析し、視覚表現による印象の差を的確に考察できるようになる。
*現実とファンタジーと表象がイコールではないが、作品ごとにどう関連しているかを考察できるようになる。
*レズビアン&ゲイ映画批評やフェミニスト映画理論のアプローチによる英語論文を読む経験をとおし、日常会話や映画レビュー記事とは異なる次元の英文を読解する力がつく。

授業計画

1 プロローグ『セルロイド・クローゼット』の発見とその先へ:竹村和子「ハリウッドと同性愛表象」
2 「リアルで肯定的な同性愛者のイメージを」から反ホモフォビア、反異性愛規範への転換
  「何が(what)描写されているか」だけでなく「どのように(how)描写されているか」も分析すること
*異性愛物語をレズビアン・リーディングするとは映画『砂の女』
*反ホモフォビアの進化形BL作品例『同級生』シリーズなど
3 本質主義から誠実な想像力へ&作品ごとの虚構度&画面内の運動の方向性がもたらす印象など:映画『マイ・プライベート・アイダホ』『最終目的地』『46億年の恋』
  *文献講読発表者のスケジュール決定
4 ゲイ・キャラクターからの/へのオペラの簒奪/奪還:ダグラス・クリンプ「Demoralizing Representation of AIDS」抜粋。「クィアqueer」概念の把握。映画『フィラデルフィア』『MILK』
5 美しき殺人モンスター?:キース・ヴィンセント「恋する男たち、人殺しをする男たち」映画『御法度』
6 アクション、任侠、ヤンキー映画におけるホモセクシュアリティとホモソーシャリティ:『男達の絆、アジア映画:ホモソーシャルな欲望』抜粋1
7 アクション、任侠、ヤンキー映画におけるホモセクシュアリティとホモソーシャリティ:『男達の絆、アジア映画:ホモソーシャルな欲望』抜粋2
8 映画『ボーイズ・ドント・クライ』におけるトランスジェンダーとレズビアニズムの混乱? :
ジュディス・ハルバースタム「あの空の下で生きたい」1
9 映画『ボーイズ・ドント・クライ』におけるトランスジェンダーとレズビアニズムの混乱? :
ジュディス・ハルバースタム「あの空の下で生きたい」2
10 「口先だけの(セリフのみで行動をともなわない)」ゲイ・キャラクターやレズビアン・キャラクターがなぜ描かれるのか:映画『メゾン・ド・ヒミコ』『カケラ』
11 原作マンガと同じレズビアン物語である映画版がレズビアン観客を疎外する例:『LOVE MY LIFE』
12 インディペンデント映画における同性愛表象1:バーバラ・ハマー、セディ・ベニング、シェリル・デュニエ、デズリ・リム監督など
13 インディペンデント映画における同性愛表象2:デレク・ジャーマン、今泉浩一監督など
14 理解度の確認
15 自主研究
16 日本初の男性同性愛監督?:石原郁子『異才の人 木下惠介:弱い男たちの美しさを中心に』抜粋1
  *レポート・プロジェクトで扱う作品(映画もしくはBLマンガ)のタイトルおよび分析アプローチを申告
17 日本初の男性同性愛監督?:石原郁子『異才の人 木下惠介:弱い男たちの美しさを中心に』抜粋2
18 ゲイ/レズビアン家庭とセックス描写の男女非対称:映画『ハッシュ!』(&河口和也エッセイ)映画『キッズ・オールライト』1
19 ゲイ/レズビアン家庭とセックス描写の男女非対称:映画『ハッシュ!』(&河口和也エッセイ)映画『キッズ・オールライト』2
20 ポストコロニアルなフェティッシュとしての「男が作り上げた女」『M.バタフライ』Teresa De Lauretis, “Public and Private Fantasies in David Cronenberg’s M. Butterfly”抜粋 1
21 ポストコロニアルなフェティッシュとしての「男が作り上げた女」『M.バタフライ』Teresa De Lauretis, “Public and Private Fantasies in David Cronenberg’s M. Butterfly”抜粋 2
22 レズビアン映画としてのハリウッド古典ホラー映画:Patricia Whiteによる映画『レベッカ』分析抜粋1
23 レズビアン映画としてのハリウッド古典ホラー映画:Patricia Whiteによる映画『レベッカ』分析抜粋2
24 クローン映画におけるホモセクシュアルとホモソーシャル?:Jackie Stacey, “Genetic Impersonation and the Improvisation of Kinship: Gattaca’s Queer Visions,” The Cinematic Life of the Gene
25 学生によるレポート・プロジェクトの発表1
26 学生によるレポート・プロジェクトの発表2
27 学生によるレポート・プロジェクトの発表3
28 映画における同性愛表象とBL研究への応用の可能性:進化形BL作品
29 理解度の確認
30 自主研究
履修人数によって発表の日数が変わることがある。
新たに出版された論文の状況などによっても授業計画は変わることがある。

授業方法

文献講読、講義、映像紹介に加えて、学生による発表と討議をふくめた演習形式の授業である。履修人数や、最新出版論文の状況などによって授業内容は変更される可能性があるが、現状では、25~27回は学生のレポート・プロジェクトの発表を予定している。また、文献購読の回は、冒頭に大学院生による概要発表の時間をもうける場合がある。レポート・プロジェクトについての発表は、学部生と院生の全員が行う。(レポート文字数やレポート・プロジェクトの発表時間は学部生と院生で異なる)

準備学習

授業中に配布した資料の必要部分を全部読んでおくこと。
配布資料が英文の場合は、指示した箇所の意味を把握し、日本語で述べられるように準備しておくこと。
レポート・プロジェクトの準備については、各自、分析対象の作品を視聴(あるいは購読)し、進めていくこと。

成績評価の方法

レポート:40%(授業で学んだ理論や手法を応用して映画(もしくはBLマンガ)の分析が書けているか)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):40%(適切な授業準備を行った上で集中力をもって授業に参加し、発言をしているか)
レポート・プロジェクトについての発表:20%(16回目に提出するタイトルとアプローチの概要をもとに、わかりやすく発表できているか)
博士前期課程の学生と博士後期課程の学生は、それぞれ別の基準で評価する。
学部学生は、学部科目の基準で評価する。

参考文献

参考文献については授業で指示します。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

授業は日本語で行いますが、講読文献は英語のこともある。また、レポートは英語で執筆しても良い。