東アジアと日本の倫理思想
007-D-005

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
松波 直弘 准教授 4 通年 1

授業概要

 日本では近代以降、「Ethics」を「倫理学」と訳し、主に善悪の基準や道徳を追及する学問として展開されてきた。現在では、哲学的な分野にとどまらず、医療や職業、スポーツなどあらゆる局面で「倫理」という言葉が用いられるようになっている。そもそも「倫理」という言葉は、中国思想の文献などでたまに用いられてきたものであって、むしろ近代に「倫理学」という訳語ができて以降、多く用いられるようになった。家や社会でのすじ道や秩序という意味から、「人間存在の根底にある理法」というような大構えな解釈まで、時代やそれぞれの局面によって、実はその用法も多様である。別の言い方をすれば、近代より前の日本では「倫理」という語はほとんど用いられることがなく、近代以降の日本で展開される言説に「倫理」という言葉がよくフィットしたと言える。
 「倫理」は概念上の規定においては、人間に普遍のものともされ得るが、上記のような言葉の問題からすると、近代より前の「倫理」という言葉があまり用いられない時代においては、実は「倫理」がどのように読み取れるかを検討しなければならない。したがって、本講義では、「倫理」という人間普遍の原理があることをまず前提にするのではなく、日本思想を議論の中心としながら、東アジアの「倫理思想」について、宗教や身分など様々な局面において論じる。そして、そうした展開から、あらためて「倫理」とは何かを考察するきっかけを模索してみたい。

到達目標

東アジアと日本における「倫理」について学び、自身の言葉でそれぞれの課題に取り組む。

授業計画

1 イントロダクション
2 序論:「倫理」という言葉
3 序論:〈倫理学〉と〈倫理思想〉
4 序論:〈個人〉と〈社会〉
5 「倫理」をめぐる問題①:和辻哲郎の〈倫理学〉
6 「倫理」をめぐる問題②:理法としての「倫理」
7 「倫理」をめぐる問題③:「人間」・「存在」・「倫理」
8 「倫理」と行動規範①:「理屈」と「実際」の間
9 「倫理」と行動規範②:「欲」のジレンマ
10 「倫理」と行動規範③:「死」への道のり
11 仏教と〈倫理思想〉①:「業」と「輪廻」の理論
12 仏教と〈倫理思想〉②:「煩悩」という現実、「成仏」という理想
13 仏教と〈倫理思想〉③:清規と行動規範
14 仏教と〈倫理思想〉④:供養と葬送
15 理解度の確認
16 儒教と〈倫理思想〉①:「天」と「人倫」
17 儒教と〈倫理思想〉②:「五常」と「五倫」
18 儒教と〈倫理思想〉③:〈理〉をめぐる展開
19 道家と〈倫理思想〉①:「道徳」について
20 道家と〈倫理思想〉②:「無為」と「善」
21 神祇信仰と〈倫理思想〉①:神を「畏む」こと
22 神祇信仰と〈倫理思想〉②:神威と加護
23 神道論と〈倫理思想〉①:理論構築と「心」の問題
24 神道論と〈倫理思想〉②:儒・仏との関係
25 日本の政治・社会と〈倫理思想〉①:或る公家の死と、後世の安楽
26 日本の政治・社会と〈倫理思想〉②:『御成敗式目』『吾妻鏡』における武家の信仰
27 日本の政治・社会と〈倫理思想〉③:武士における〈すじ目〉
28 日本の政治・社会と〈倫理思想〉④:身分・職分の知恵
29 「東アジアと日本の倫理思想」としてのまとめ
30 理解度の確認

授業方法

講義形式

準備学習

復習として、授業時に配布する資料を読んでおくこと。

成績評価の方法

レポート:90%(与えられたテーマに沿った内容について、履修者自身で考え、レポート作成すること)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):10%(規定以上の出席が必須)
※各学期末レポートの予定。ただし、履修人数によって、レポートから試験に変更の可能性あり。
 「第1学期のレポート」、「第2学期のレポート」、「規定以上の出席」が成績評価の条件となる。
 上記のいずれかが欠けた場合には、成績評価の対象外となる。

教科書

特定の教科書指定はしない。参考文献は、授業内で適宜紹介する。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。