言語・情報コース ゼミナール(5)
言語と認知:ドイツ語における共感覚表現―
035-A-311

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
岡本 順治 教授 2 3~4 第1学期 1

授業概要

言葉を使ってある感覚を表現しようとする時、わたしたちはある種の危機的な状況に陥ることがあります。それは、「表現するための言葉がない」と感じることです(「意味あり、されど形式なし」安井 (2007: 48))。そんな時、何かすでにある他の感覚表現を借りてくることで、表現できる可能性があります。実際に、さまざまな感覚(触覚、味覚、嗅覚、視覚、聴覚)に関する表現を検討してみると、本来は他の感覚から来ているものを「借りて」成り立っているものがあります。そのような表現を「共感覚表現」と呼びます。以下の (1) と (2) の用例を見て下さい。
 
(1) Die indischen Gerichte sind meist sehr scharf und schmackhaft.
(Indien - würzig und scharf! | GuteKueche.at, http://www.gutekueche.at/indien-wuerzig-und-scharf-artikel-1001)
(2) It is a popular myth that Indian curries are devastatingly hot, but this is not necessarily so.
(John's Curry Page http://www.orpheusweb.co.uk/protovale/john/curry.html)
 
日本語で「そのカレーが辛い」という時に、(1) のドイツ語では、scharf(元の意味は「鋭い」)、(2) の英語では、hot(熱い)が使われています。「鋭い」は、触覚表現で、通常は触ることで実体験できるものです。「熱い」も皮膚感覚で感じ取るものです。ここでは、触覚で感じられる表現を使って、味覚を表していることになります。このように、言語によって共感覚表現は異なることがあります。
 
今回は、ドイツ語における共感覚表現に焦点を当てます。特に取り扱うのは、味覚表現です。安井 (2007), 国広 (1989)、楠見 (1988)、瀬戸 (2003) の文献を読んだ後、日本語とドイツ語の表現の比較をしていきます。
なお、口頭発表やレポートの作成する上での必要な研究倫理(引用の仕方、引用文献の表記の仕方)を習得することも目標とします。

到達目標

共感覚表現とは何かを理解し、ドイツ語での実例を収集し分析することで、言語と認知の関係を自分の問題として考察することができるようになる。

授業計画

1 イントロダクション(授業の進め方、一般的注意、参考文献の指示など)
2 安井 (2007) を読み、共感覚表現の研究史の概略を理解する。
3 国広 (1989) を読み、比喩体系の中における共感覚表現を考える。
4 楠見 (1988) を読み、共感覚に基づく日本語の形容詞がどのように理解されているのかを考える。
5 瀬戸 (2003) を読み、日本語の味覚表現の体系を理解する。
6 Dornseiff (2004) などを使い、ドイツ語の味覚に関する表現の収集と分類を行う。
7 『角川類語新辞典』(1981)、『類語大辞典』(2002) を用いて、日本語の味覚に関する表現の収集と分類を行う。
8 ビールの味に関する日独表現の比較を行う。
9 ワインの味に関する日独表現の比較を行う。
10 パンの味に関する日独表現の比較を行う。
11 肉・魚料理の味に関する日独表現の比較を行う。
12 お菓子・ケーキなどの味に関する日独表現の比較を行う。
13 その他の外国料理の味に関する日独表現の比較を行う。
14 授業の総括
15 到達度確認

授業方法

(a) こちらで用意した資料をもとに、グループワークでゼミを進めます。
(b) グループは3〜4人で構成し、その都度変えていきます。
(c) 最初は、グループ内で話し合い、その結果を発表してもらいます。
(d) 最終的には、全体でディスカッションをします。

準備学習

ゼミで用いる資料は、原則的に前の時間に配布しますので、あらかじめ読解し、不明な箇所をまとめておくことが求められます(1時間程度)。

成績評価の方法

レポート:55%((1) 構成、(2) 参照文献の内容、(3) 引用の適切さ、(4) 議論の正確さ、(5) 独自性)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):45%(出席、グループワークへの積極的関与、口頭発表)

教科書

教科書はありません。参考資料はこちらから配布します。

参考文献

瀬戸賢一『ことばは味を超える:美味しい表現の追求』、海鳴社2003年、ISBN=9784875252122
安井稔『言外の意味 (下)』、開拓社2007年、ISBN=9784758925020

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

さまざまな言語に興味を持ち,知的好奇心にあふれた積極的学生の参加を希望します。
ドイツ語が好きな人を歓迎します。