思想史
人権思想の歩み―
007-D-029

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
下川 潔 教授 4 通年 3

授業概要

社会システム系の総合基礎科目であることを考慮し、近現代における倫理・法・政治の基本原理にかかわるものとして、人間の権利についての思想をとりあげる。政治権力あるいは他者の権力に対して、人間の自然本来の権利や人間の尊厳を擁護するような近代思想は、どのようにして成立したのか、またそれはいかに変容していったか、その成立と変容のプロセスを学ぶ。主に17世紀から現代までの、ブリテン、西欧、北米の思想を対象とする。「自然権」思想の起源、内容、意義を理解するために、その思想の内部にはいるだけでなく、それと対立する思想や自然法・自然権批判にも言及する。そのようにして、西洋近代における自然権思想の確立とその政治的背景から、現代権利論とその背景(人権の復活と国際化)までをカバーする。
 主な思想家を時間的な順序に従って解説するが、次のような複数のトピックをカバーする。(1)人間の基本的権利とは何であり、それは何を根拠として成立するのか?人間の権利を成立させるのは、神か、人々の利益か、人間相互の合意か?(2)人身の自由、財産所有権、信教の自由、言論の自由などの基本的権利は、いかなる根拠によって自然本来の人間の権利と見なされるのか?(3)政府を作る目的は何であり、それは人間の権利とどう関係しているのか?政府の法に従う義務はあるのか?あるとすればそれはなぜか?(4)暴政に抵抗する権利はあるか?いかなる方法で抵抗するのが許されるか?(5)個人の権利と社会全体の利益の関係は、いかに捉えたらよいのか?(6)個人の権利はいかにして国境を越えるのか?
 予備知識のない人にも分かるように、思想家の生涯と時代背景を手短かに説明し、主要著作の重要箇所を主に抜粋で読み、思想内容の解説をする。第1学期の授業では、古代・中世の権利思想について解説をした後で、17世紀のグロティウス、ホッブズから始め、平等派のオーヴァトン、ロックの権利の思想を考察する。特に自然権思想を基礎として自由主義政治理論を築き、後世に多大な影響を及ぼしたロックの思想を詳しく考察する。第2学期には、ロックの思想的遺産を継承してアメリカに移植したトマス・ジェファソンから始め、近代自然法思想をラディカルに利益重視の方向へと転換したヒュームの思想を考察し、さらにベンサムとミルの自然権批判や、公共の利益を優先した彼らの功利主義思想を取り上げる。彼らの利益重視の思想を批判的に検討したうえで、現代における人権の復活と人権の国際化を考察する。これを踏まえて、人間の権利の基礎づけの考察に立ち返り、ロールズ、ノージック、センらの現代権利論に若干の考察を加え、あわせて権利の理論と実践の関係にも触れたい。
 近代の自然権思想や現代の人権思想は、人間の生き方と共同体のあり方についての基本問題を包括的に扱うものであり、法学者のみならず哲学者や一般の市民や労働者がこの思想の系譜を作り上げるのに深く関わっている。したがって、この思想は私たちに今なお多くのことを教えてくれるはずである。

到達目標

西洋の権利思想の発展の概略およびその重要な結節点を理解することによって、現代においてますます重要な役割を担いつつある人権の概念をよりよく把握できるようにする。

授業計画

1 はじめに 授業方針と教材の説明、プリント配布
2 近代自然権思想の背景: 古代と中世における権利の思想
3 グロティウスの自然権思想: 自然的社交性と各人固有の権利
4
5 ホッブズの反自然権思想:「自然権」譲渡と主権者の絶対権力
6
7 レヴェラーズにおける自由と平等の思想:自然権の平等化
8
9 ジョン・ロックの自由主義(I):自然権のプロパティ化と政治権力の制限
10
11
12 ジョン・ロックの自由主義(II):信教の自由と政教分離
13
14
15 自主研究
16 ロックの思想の継承:トマス・ジェファソンの権利思想
17
18 ヒュームと近代自然法・自然権思想の解体
19
20 ベンサムの功利主義と自然法・自然権批判
21
22 ミルの功利主義と自然権批判
23
24 第二次大戦後の人権の復活と人権の国際化
25
26 現代の権利論ーロールズ
27
28 現代の権利論ーノージックほか
29
30 自主研究
上の授業スケジュールは少し変更することもある。それは授業の際に知らせる。

授業方法

講義形式で解説を加えるが、自宅でプリント資料の関連箇所を読むことが要求される。小論文作成にあたっては、ノート、プリント、若干の文献を使う。

準備学習

資料の指定された箇所を自宅で熟読し、用語の意味を辞書・事典で調べ確認する。必要と自分の関心に応じて、関連文献を探して読む。(予習30分、復習と調査1時間程度が目安。)

成績評価の方法

レポート:70%(小論文を二つ(各学期に一つ)提出してもらう。)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):30%

教科書

ジョン・ロック著、角田安正訳『市民政府論』(光文社古典新訳文庫)、光文社
現在入手可能な上記の文庫本1冊は必ず購入してほしい。他の資料はプリントして配布する。

参考文献

授業中に適宜紹介する。