記録保存と現代
アーカイブズへの招待―
007-D-031

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
保坂 裕興 教授・他
4 通年 4

授業概要

 2011年の東日本大震災では、津波によって市町村の行政文書や企業・団体・個人の文書・写真など、貴重な記録が大きな被害を受け、改めて記録の大切さが認識されました。また近年、ずさんな記録管理が市民の権利や健康、時には生命さえも脅かしている現状が各方面で次々と明るみに出ました。外交密約をめぐる問題、宙に浮いた5000万件の年金記録問題、薬害C型肝炎記録のずさんな管理、老舗食品メーカーの賞味期限改ざんと記録廃棄、築地市場の豊洲移転問題における文書の不存在などなどです。ほかにも、戦前の役場公文書がきちんと保存されていないために、中国残留孤児の身元確認がなかなか進まないなどの問題も前々から指摘されています。さらに、2014年暮れに施行された「特定秘密保護法」をめぐっては、国が保有する記 録に対する国民のアクセス権をどう保障するのかについて、深刻な議論が巻き起こりました。
 「記録」や「文書」は歴史の重要な史料であり、記憶を未来に伝えるための大切な証拠であることは言うまでもありません。しかし同時に、「記録」や「文書」は、現代に生きる私たちの人権や生命を守るための、また民主的で平和な社会を作るためのかけがえのない情報資源でもあることが、日本の貧しい「記録保存」問題から逆によくわかるのではないでしょうか。
 最近「アーカイブズ」という言葉をよく聞くようになりました。実はこの「アーカイブズ」こそ、歴史資料として重要な、かつ人権を守り民主社会を支える情報資源としても不可欠な「記録」のこと、あるいは、そのための「記録保存システム」のことなのです。いま日本では、このような考え方にもとづいて、あらゆる方面でアーカイブズの構築が始まっています。自治体や企業・大学・団体、あるいは理系・文系・芸術系など、分野を問わずアーカイブズは現代社会に不可欠な記憶装置として重要視されつつあります。その動向を反映して、2008年、本学に日本初の大学院教育課程「アーカイブズ学専攻」が生まれました。この授業では、「アーカイブズ学専攻」の教員に加えて、アーカイブズの世界で活躍している専門家を多数お招きし、世界と日本のアーカイブズの歴史と現状を学びます。多様な講義を楽しみながら、「記録保存」が現代社会に持つ意義を一緒に考えたいと思います。なお本授業の姉妹編として、基礎教養科目「記録管理と組織-レコード・マネジメントへの招待-」が開講されています。記録管理をめぐる民主的・文化的社会の常識を身につける授業であり、合わせて受講するといっそう学習効果が上がります。

到達目標

洋の東西、過去と現代を問わず、「記録」が人間活動の土台を支える基礎的なツールであることを理解し、これを永続的な情報資源=すなわち「アーカイブズ」として保存・活用することが、平和で豊かな人間社会を発展させるために不可欠であることを理解する。

授業計画

1 オリエンテーション(保坂裕興教授):講義の目的と内容、参考文献、基本用語解説など
2 現代社会とアーカイブズ—総論—(高埜利彦教授)
3 アーカイブズの歴史(1)(保坂裕興教授):古代世界のアーカイブズ(ヨーロッパ~中東~アジア)
4 アーカイブズの歴史(2)(中野隆生教授):ヨーロッパにおけるアーカイブズの発展
5 アーカイブズの歴史(3)(保坂裕興教授):日本古代・中世のアーカイブズ
6 アーカイブズの歴史(4)(冨善一敏講師):日本近世のアーカイブズ(1)
7 アーカイブズの歴史(5)(青木祐一講師):日本近世のアーカイブズ(2)
8 アーカイブズの歴史(6)(渡邉佳子講師):日本近代のアーカイブズ
9 アーカイブズの歴史(7)(加藤聖文教授):戦争・植民地支配とアーカイブズ
10 アーカイブズの歴史(8)(太田富康講師):戦後日本のアーカイブズ運動
11 現代のアーカイブズ(1)(保坂裕興教授):現代アーカイブズ概論
12 現代のアーカイブズ(2)(保坂裕興教授):世界のアーカイブズ(韓国)
13 現代のアーカイブズ(3)(森本祥子講師):世界のアーカイブズ(ヨーロッパ、オーストラリア)
14 現代のアーカイブズ(4)(髙松洋一講師):世界のアーカイブズ(中東)
15 予備日
16 現代のアーカイブズ(5))(小川千代子講師):世界のアーカイブズ(北米)
17 現代のアーカイブズ(6)(小川千代子講師):世界のアーカイブズ(国際団体)
18 現代のアーカイブズ(7)(武内房司教授):世界のアーカイブズ(中国、東南アジア)
19 現代のアーカイブズ(8)(小宮山敏和講師):日本の国立アーカイブズ
20 現代のアーカイブズ(9)(髙木秀彰講師):日本の地方自治体アーカイブズ
21 現代のアーカイブズ(10)(青木直己講師):日本の企業アーカイブズ
22 現代のアーカイブズ(11)(桑尾光太郎講師):日本の大学アーカイブズ
23 現代のアーカイブズ(12)(菊谷英司講師):日本の自然科学アーカイブズ
24 予備日
25 現代のアーカイブズ(13)(児玉優子講師):日本の音声・映像アーカイブズ
26 現代のアーカイブズ(14)(青木 睦講師):アーカイブズの保存(1)
27 現代のアーカイブズ(15)(青木 睦講師):アーカイブズの保存(2)
28 現代のアーカイブズ(16)(保坂裕興教授):アーキビストの教育と養成
29 現代のアーカイブズ(17)(保坂裕興教授):まとめ
30 1年間の総括
授業の順番は、講師の都合により変更になる場合があります。

授業方法

講義を中心とし、パワーポイント等を用いたプレゼンテーション、配付資料などにより進行します。講師によっては、講義終了前に講義についての意見や感想を書いてもらうことがあります。

準備学習

教科書、参考書として掲げた文献のうち関係部分を読んでおくこと(約30分)。

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):80%(授業内容の理解)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):20%(感想・質問等を提出してもらうことがある。)
毎回出席し、授業内容を理解するだけでなく、それぞれの立場から理解を深めることが大切である。

教科書

安藤正人『アジアのアーカイブズと日本-記録を守り記憶を伝える-』(岩田書院ブックレット13)第1版、岩田書院2009
教科書は安藤の担当授業において参考用に使用します。

参考文献

安藤正人『草の根文書館の思想』(岩田書院ブックレット3)第3版、岩田書院1998
記録管理学会・日本アーカイブズ学会『入門アーカイブズの世界-記憶と記録を未来に-』第1版、日外アソエーツ2006
松岡資明『アーカイブズが社会を変える』(平凡社新書)、平凡社2011

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。