記録管理と組織
007-D-034

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
下重 直樹 准教授・他
2 第1学期 3

授業概要

基礎教養科目「記録保存と現代」の姉妹編として2011年度から始まった授業である。2011年の東日本大震災では、津波によって市町村の公文書や企業・団体・個人の文書・写真など、かけがえのない記録が大きな被害を受け、改めて記録の大切さが認識された。また昨今の「消えた年金記録」問題や「外交密約文書」問題に見られるように、これまで杜撰であった日本の記録管理に対する社会の問題意識は高まりつつある。国、地方公共団体、大学法人、あるいは皆さんが作る学生サークルであれ、およそ組織であるからには情報と記録なしには持続的な活動は成り立たず、適切な記録管理(レコードマネジメント)は組織運営の要となる。この授業では、学生の皆さんの多くが将来勤めることになる企業や行政機関で、情報や記録がいかに重要な役割を果たしているかを学び、適切な記録管理とはどういうものかを、歴史を踏まえながら考える。授業は3部に分かれ、現場経験豊かな3人の専門家講師によって行われる。第1部は「記録管理の歴史と現在」で国文学研究資料館准教授の宮間純一講師、第2部は「現代の行政と記録管理」で同じく戸田市アーカイブズ・センター元専門員の佐藤勝巳講師、第3部は「現代の企業と記録管理」で、渋沢栄一記念財団実業史研究情報センターの松崎裕子講師が担当する。コーディネーターは、本学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻の下重准教授が務める。意欲ある学生諸君の履修を待っている。なお、本授業と合わせて「記録保存と現代」を履修することを推奨する。

到達目標

あらゆる組織にとって、知的資源としての記録の作成取得、整理、保存、活用がその組織運営と活動の発展の基盤となることを理解し、記録管理の歴史と現状についての基礎的知識を習得するとともに、今後の課題と解決の糸口を考察する知的態度を身につけることを目標とする。

授業計画

1 オリエンテーション(下重直樹)講義の目的と内容、講師の紹介、参考文献の紹介、基本用語解説など
2 記録管理の歴史と現在(1)(宮間純一)(前近代の記録管理)前近代の組織と記録管理のシステムを江戸時代を中心に概観する。
3 記録管理の歴史と現在(2)(宮間純一)(近代国家の成立・展開と記録管理)明治政府の成立によって日本における記録管理のあり方は大きく変わった。明治維新以降の記録管理の変遷を学ぶ。
4 記録管理の歴史と現在(3)(宮間純一)(戦争と記録管理・史料保存運動)戦争は、記録管理にも大きな影響を及ぼした。戦中、戦後の動向を学習する。
5 記録管理の歴史と現在(4)(宮間純一)(新たな段階へ) 現在、記録管理は行政/歴史研究者のためのものではなくなった。新しい専門領域の成立史とともにその歩みを検討する。
6 現代の行政と記録管理(1)(佐藤勝巳)国や地方公共団体における記録管理について、その原理・原則を考えます。(「行政」とは何なのか、「公文書」とは何か、その目的は何なのか、などの基本的な理解を深めてみよう。)
7 現代の行政と記録管理(2)(佐藤勝巳)記録管理を業務の執行という面から考え、その流れを具体的に考えます。(ライフサイクルを踏まえて、公文書の持つ「情報」という側面や、「記録」という側面について評価・選別を通して考えてみよう。)
8 現代の行政と記録管理(3)(佐藤勝巳)行政が、持続可能な「組織」となるための記録管理はどうあるべきなのか、法的な側面から考えてみます。併せて公開、利用についても考えます。(「公文書管理法」、「情報公開法」そして「公文書館法」などの法律から考えてみよう。)
9 現代の行政と記録管理(4)(佐藤勝巳)これからの行政組織のあり方を考えながら、新しい形での記録、電子記録について考えてみます。(電子記録としての公文書をどう考えるか、具体的な業務執行の流れの中で考えてみよう。)
10 現代の企業と記録管理(1)(松崎裕子)企業(会社)と記録管理の関係:複式簿記の発明、株式会社の発展といった企業活動の歴史をたどり、企業経営における記録管理の必須性(①アカウンタビリティとより良い意思決定のため、②業務の適切な遂行と生産性向上のため)を考える。
11 現代の企業と記録管理(2)(松崎裕子)企業経営の多様な姿と記録管理:企業の発展と経営様式の多様性、米国における記録管理学の発展と記録管理者(レコードマネージャー)、日本における記録管理学、日本的経営と記録管理のこれまでを概観する。グループワークのための準備を行う。
12 現代の企業と記録管理(3)(松崎裕子)記録管理を理解するためのグループワーク:記録管理の概要を実践的に学ぶ。組織の構造・機能とステークホルダー、業務プロセス、バイタル・レコードについて実際の事例を分析し、プレゼンテーションを行う。
13 現代の企業と記録管理(4)(松崎裕子)グローバル化・デジタル化の進展と企業における記録管理:紙文書とデジタル文書の記録組織化の方法、検索のためのメタデータと情報セキュリティの重要性について学ぶ。オープンソースの記録管理システム・ソフトウェアに触れる。
14 総括
15 自主研究

授業方法

講師が作成した教材(資料)を配布し、講義形式で授業を進める。プロジェクターを使用することがある。

準備学習

事前に参考文献のうち2~3冊以上に目を通しておくことが望ましい。

成績評価の方法

第1学期(学期末試験):50%(基礎的知識を踏まえた課題に対する思考能力を重視する。)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):50%(感想や質問を提出してもらうことがある。)
上記の合算による。

参考文献

松岡資明『日本の公文書』、ポット出版2010
松岡資明『アーカイブズが社会を変える』(平凡社新書)、平凡社2011
小谷允志『今、なぜ記録管理なのか=記録管理のパラダイムシフト』、日外アソシエーツ2008
記録管理学会・日本アーカイブズ学会『翻訳論文集 入門・アーカイブズの世界-記録と記憶を未来に』、日外アソシエーツ2006
『図書館・アーカイブズとは何か』(別冊 環 15)、藤原書店2008
坂口貴弘『アーカイブズと文書管理:米国型記録管理システムの形成と日本』、勉誠出版2016
エリザベス・シェパード、ジェフリー・ヨー著(森本祥子ほか編訳)『レコードマネジメントハンドブック:記録管理・アーカイブズ管理のための』、日外アソシエーツ2016
九州史学会, 公益財団法人史学会編『過去を伝える、今を遺す: 歴史資料、文化遺産、情報資源は誰のものか』、山川出版社2015
ジョン・ミクルスウェイト,エイドリアン・ウールドリッジ『株式会社』、ランダムハウス講談社2006
他の参考文献は授業時に指示する。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。