心理学C
007-D-053

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
桑名 俊徳 講師 4 通年 4

授業概要

私たちが漠然と抱いている「こころ」と称する対象について、その理解の仕方は学問領域によってさまざまです。この講義では「こころ」の働きについての科学的な理解を目指しています。では、心理学者たちは、見ることも触れることもできない対象である「こころ」をどのようにして科学的に捉えようとしているのでしょうか。まず、心理学の成立の背景事情にふれながら心理学の視点について考え、「こころ」の心理学的な捉え方と考え方の理解に努めてみます。これを踏まえて、人間の知性や人間行動にかかわる「こころ」の諸機能や人間形成にとって大切な遺伝と環境の問題などについて、科学的心理学の立場からの理解を深めてゆきたいと考えています.そして、「こころ」の働きの理解を通じて、その優れた環境適応性に気づいてもらえたらと思います。また必要に応じて、心理学と隣接する諸領域(哲学、神経科学、進化生物学など)について若干触れてみることで、「こころ」についての理解をもう少し深めてみたいとも思っています。受講生には、科学的心理学の理解のために、いろいろな心理学的知見を習得するだけでなく、それらが得られた方法についても関心を深めてもらいたい。

到達目標

心が関係するちょっとした出来事について,私的な立場から一旦離れて,科学的,客観的な立場から考え進めてゆくことができるようになること.

授業計画

1 1.心理学の視点
(1)「こころ」を巡る諸問題 科学的心理学が成立する以前の「こころ」の探求(哲学、神経生理学、精神物理学、生物学)
2 (2)「意識」と「こころ」 科学的心理学のはじまり(W. ヴントによる実験的内観心理学とその問題点を問う)
3 (3)心理学の視点 「こころ」の科学研究とはいかなるものだろうか。そこでは何を研究の対象に、そしてどのような研究方法で「こころ」を捉えようとするのだろうか。
 
4 2.感覚・知覚(環境認知の基礎過程)
(1)錐体系と桿体系の機能特性(昼間の目と夜間の目の使い分け)
5 (2)色の知覚と色覚理論 色を見分けることができるのはどうしてか(偉大な物理学者ニュートンの光学から現代までの軌跡を辿る)
6 (3)知覚の恒常性 安定した知覚世界を作りだすための高次の知覚機能
7 (4)ゲシュタルトの知覚 ‘もの’や形を見ることができるのはどうしてか。目に映ることと見えることとは同じことのだろうか。
8 (5)空間と知覚 立体感や距離感を把握できることにはどのような問題があるのか,そしてそれがができるのはどうしてか(経験論の哲学者バークリから現代までの軌跡を辿る)
 
9 3.認知と記憶(経験の効果の保持機能)
(1)記憶のしくみ 何かを覚えたり思い出したりするなど、わたしたちが記憶を使っているときにいかなる仕組みが働いているのか.一時的な記憶(短期記憶)と永続的な記憶(長期記憶)の区分
10 (2)短期記憶とワーキング・メモリ 一時的な記憶の役割とは何だろうか。記憶と思考とのかかわりに気づいてみる.
11 (3)長期記憶の多様性 膨大な記憶は単一の記憶貯蔵庫にしまわれているのだろうか。記憶の分類を試みる。
12 (4)保持の経過 記憶は時間の経過とともにどのような仕方で変化するのか(H. エビングハウスの記憶実験)
13 (5)忘却の諸要因 心理学的に考えると、忘れることとは何だろうか。そして何が忘れることを引き起こすのか。
14 (6)記憶と意識 記憶の潜在的なふるまい(過去経験の無自覚的な利用)
15 (7)認知とスキーマ 知覚、思考、行為のための枠組みとなる知識のはたらき
◎ 中間まとめ
 
16 4.学習(行動変容の基礎過程)
(1)学習とは何か 生物が環境とかかわり適応していく上で、学ぶことはいかなる意味で大切なのか
17 (2)古典的条件づけ あることが起きると次に何が起こるのかの学習(2つの出来事の関係の学習)
18 (3)オペラント条件づけ ある行動をとると次に何が起こるのかの学習(行動と出来事の関係の学習)
19 (4)条件づけ学習の生物学的制約 代々受け継がれてきたことは学習の成立に何をもたらすのだろうか
20 (5)学習の多様性 学習様式のさまざま(潜在学習や観察学習)
 
21 5.動機づけ(行動の推進力)
(1)動機の種類 何によって行動は駆り立てられるのか
22 (2)ホメオスタシスと動機づけ 身体の働きはいかにして行動を駆り立てるのか(脳の働きと動機づけ)
23 (3)内発的動機づけ はたして人は、不精を決め込むことができるのだろうか
24 (4)コンフリクトとフラストレーション 複数の動機が衝突する事態とはどのようなものか。また、動機が阻止されるといかなる振る舞いを示すのか。
 
25 6.人間発達における遺伝と環境
(1)遺伝かそれとも環境か 氏と育ちは対立するのか(遺伝-環境論争)
26 (2)遺伝も環境も 人間形成は単一の要因によって規定されるのだろうか(学習能力や知能,そして性格を規定する要因)
27 (3)遺伝と環境の相互作用 遺伝要因と環境要因はどのようにして発達に影響するのか(遺伝性代謝異常の子どもの知的発達について)
28 (4)行動発達の諸要因 D. O. ヘッブが提起した人間発達に影響する諸要因の分類
29 (5)初期経験の効果 幼い頃の経験は後になって何をもたらすのか(親子の絆や社会化にとって大切なこと)
30 授業内容のまとめ
授業内容はおおよそ上記のようなテーマとなる予定である。

授業方法

授業は基本的に講義形式で進める。図表や画像、映像を数多く提示しながら説明していく。

準備学習

復習に励むこと.授業時に暗記すべしと指摘されたことはその通りにしておくこと.

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):95%
任意参加による体験授業(実施しない場合もある):5%

教科書

教科書は使用しない

参考文献

G. A. ミラー『心理学の認識』、白揚社1967
D. O. ヘッブ『行動学入門 第三版』、紀伊国屋書店1975
筒井雄二・桑名俊徳『実験心理学(改訂増補版)』、八千代出版2013
上記のほかにも授業時に数多く紹介する予定。

その他

授業中の私語は慎むこと。