福祉B
考え、そして行動する福祉―
007-D-060

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
岡野 浩 講師・他
4 通年 2

授業概要

「福祉」(welfare)とはもともと「幸せ」を意味する語である。しかし近代の学問の歴史をみると、幸せや幸福は主観的な概念に過ぎないと見なされ、基本的には排除されてきたといえよう。そういう意味で、現代において、幸福を対象とする福祉学ないし社会福祉学が成立したことには画期的な意義がある。さらに、福祉という学問は、その本質からして、すでに実践を含んでいる。つまり理論だけの福祉というのは本来あり得ないはずであろう。私たちは、愛する人や自分の幸せということについて無関心ではいられないし、行動せずにはいられないからである。今日、急激な少子高齢化、長引く経済不況にあって、福祉もまた危機に瀕し、その見直しの急務が叫ばれているのは周知の通りである。その場合に大事なことは、福祉は単に行政や法や制度上の問題ではなく、まして、個人の善意や献身に丸投げされ得るようなものではない(さりとて、安易な自己責任論にも組することはできない)ということである。つまり、福祉とは単なる社会問題や、あるいは個人の憐憫や慈善に尽きてしまうのではなく、むしろ私たちが、この社会の中で他人とどのように「共に生き」、行動し、自らの充足感を得ることができるのかという、身近で切実な、まさに哲学的かつ行動的ともいえるような問いであるだろう。そこで、本講義では、いわゆる「理論」と「実践」を区別するのではなく、むしろ一体としてとらえ、私たちを取り巻くさまざまな福祉の分野から、各専門の講師を招いて、その今日的現状と緊急の課題について明らかにしてゆく。それらの分野とは、貧困・低所得者、エイズ、老人医療、高齢者福祉政策、女性福祉、家族福祉、児童福祉、行動福祉、医療保険などである。各講師は、行政機関職員、NPO職員、医師、福祉関係学科教員、スーパーヴァイザー、ソーシャルワーカーなどとして、現場の第一線で活躍している。各講義を通じてそれらのリアルタイムの現実に一つ一つ触れながら、あらためて「幸せとは何か」、「生きがいとは何か」について考えてみたい。

到達目標

この授業で取り上げられるトピックは、どれも受講者が社会生活を送る中で直面する可能性のあるものばかりである。本授業では、受講者一人一人が、各講師の提起する課題に真剣に向き合い、常に自らの問題として考えることを通じて、<共に、この社会に生き、この社会を担うメンバー>としての自覚と基礎的な見識の涵養を目指したい。

授業計画

1 授業を始めるにあたって。「福祉」とはどのような意味か。一年間の授業計画(日程、テーマ等)岡野 浩(学習院大学文学部哲学科)
2 貧困・低所得者福祉(1):ホームレスの現状とその支援 大迫正晴(障害者就労支援施設施設長)
3 貧困・低所得者福祉(2):生活保護の現状と課題①〃
4 貧困・低所得者福祉(3):生活保護の現状と課題②”
5 エイズをめぐる諸問題(1)宮田一雄(公益財団法人エイズ予防財団理事)
6 エイズをめぐる諸問題(2)〃
7 老人医療と福祉(1)高橋龍太郎(東京都老人総合研究所)
8 老人医療と福祉(2)〃
9 老人医療と福祉(3)〃
10 高齢者福祉と介護保険制度(1)馬場純子(専修大学文学部)
11 高齢者福祉と介護保険制度(2)〃
12 高齢者福祉と介護保険制度(3)〃
13 老いと看取りを廻る現実 岡野浩
14 前期授業を振り返る  岡野浩
15 まとめ
16 女性福祉(1)堀千鶴子(城西国際大学福祉総合学部)
17 女性保護事業の現場から 小山内園子(NPO法人みずら)
18 女性福祉(2)堀千鶴子
19 家族福祉から<共生>を考える 酒井潔(学習院大学文学部哲学科)
20 家族、そして親子、人間関係の基本構造について考える 岡野浩
21 「あるべき社会の姿」とは(1)我が国の医療・保険制度をめぐる問題 岡野浩
22 児童福祉(1)鈴木公基(関東学院大学教育学部こども発達学科)
23 児童福祉(2)”
24 児童福祉(3)〃
25 障害児・不登校・行動福祉(1)小野昌彦(宮崎大学大学院教育研究科)
26 障害児・不登校・行動福祉(2)〃
27 障害児・不登校・行動福祉(3)〃
28 「あるべき社会」の姿とは(2)社会正義の実現と個人の自由をめぐる問題① 岡野浩
29 「あるべき社会」の姿とは(3)社会正義の実現と個人の自由をめぐる問題② 岡野浩
30 理解度の確認
今日の日本の福祉の実態(制度や活動)と課題を、具体的な問題や現場に密着しながら明らかにしてゆく。そのため、とくにホームレス支援、エイズ問題、老人介護、婦人保護についてはそれぞれソーシャルワーカーの方を講師に招いている。このことも本授業の特色である。また、テーマによっては講師によるフィールドワークも実施されるので、この機会を大いに活用して欲しい。

授業方法

講義形式が基本となる。福祉の現場・第一線で活動する講師陣と接することのできる機会を最大限活かしてもらいたい。毎回、資料プリントが配布されるほか、パワーポイントやDVD等も使用される。

準備学習

テキスト『考える福祉』には、この授業の基本的なコンセプト、方向性、また内容等が分かりやすくまとめられているので、それらを理解した上で、各授業の該当箇所についても事前に目を通し、その概要を掴んで授業に臨むこと。

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):50%(二学期に講義を担当した講師が出題する課題の中から、各自一題を選んで論述してもらう。講義内容をしっかりと把握した上で、どこまで説得力のある議論ができるかが評価のポイントとなる。)
レポート:50%(第一学期授業の中から各自興味のあるテーマを選んで、レポートを作成してもらう。取り上げたテーマについて、単に一般的な知識をまとめるのではなく、各自がそれぞれの視点で、どこまで考え抜くことができたかが評価のポイントになる。)
第一学期レポート(夏休み開け提出)と学年末試験を綜合して評価する。

教科書

酒井 潔・岡野 浩 編『考える福祉』第二版版、東洋館出版社2016
酒井潔/岡野浩編『考える福祉』(東洋館出版社、2010年7月刊行。)を使用する。テキストには各講師の授業の前提をなす基本的立場や視座が明示されているので、受講生にとって一年間不可欠かつ有益なコンパニオンとなるはずである。詳しくは、第一回の授業時に指示する。

参考文献

一番ケ瀬康子『新・社会福祉とは何か』ミネルヴァ書房、1990年広井良典『日本の社会保障』(岩波新書)岩波書店アーサー・グールド著/高橋・二文字・山根訳『福祉国家はどこに行くのか―日本・イギリス・スウェーデン』ミネルヴァ書房、1997年秋山智久・高田真治『社会福祉の思想と人間観』ミネルヴァ書房、1999年花村春樹『「ノーマライゼーションの父」N・E・バンク・ミケルセンーその生涯と思想』ミネルヴァ書房、1994年広井良典『持続可能な福祉社会ー「もう一つの日本」の構想』(ちくま新書)筑摩書房岩田正美『現代の貧困-ワーキングプア/ホームレス/生活保護-』(ちくま新書)筑摩書房、2007年中里憲保『壊れた福祉』講談社、2008年山田昌弘『ワーキングプア時代―底抜けセーフティーネットを再構築せよ』文藝春秋社、2009年以上は、オーガナイザーからさしあたり推薦する文献である。この他にも、各講師からそのつど指示される予定。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。