特殊講義(国際安全保障法・武力紛争法)
なぜ戦争にルールが必要なのか―
011-B-290

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
黒﨑 将広 講師 4 1~4 通年 5

授業概要

戦争(武力行使と武力紛争)を規律する国際法について講義する。
 
現代の国際法は、武力行使と武力紛争という2つの観点から戦争の規制を行い、それぞれユース・アド・ベルム(jus ad bellum)とユース・イン・ベロ(jus in bello)と呼ばれる独立した法体系を有している。
 
ユース・アド・ベルムとは、禁止される戦争とは何か、許容される戦争とは何か、そしてそれはなぜなのかといった、いわば「戦争の正当化理由」を扱う国際法分野である。具体的には、個別的・集団的自衛権や国連の軍事的強制措置、人道的干渉などの問題が中心となる。
 
これに対してユース・イン・ベロとは、戦争の理由が何であれ、戦争が実際に始まった後に問題となるいわば「戦争のやり方」を扱う国際法分野である。具体的には、テロリストやスパイ、傭兵、民間軍事会社、ゲリラ戦、無人機(ドローン)攻撃、付随的損害(巻き添え被害)、人間の盾、通常兵器、大量破壊兵器、占領、捕虜、戦争犯罪などの問題が中心となる。
 
本講義では、こうした現代の安全保障問題の法的分析に不可欠な国際法ルールとその基本論点に焦点を当てることで、日々報じられる国際社会における戦争の実態を受講者が国際法の観点から適切に把握できるようになることを目指す。

到達目標

本講義を最初から最後まで真面目に受講すれば、戦争をめぐる多くの現代的諸問題(たとえば国連平和維持活動やサイバー攻撃、シリア情勢、医療施設等への「誤爆」、標的殺害[targeted killing]、自爆テロ、ISILなど)を国際法の観点から分析し、より深く考察することができるようになることは間違いない。また、外務省や防衛省・自衛隊、国連その他関係国際機関、赤十字国際委員会(ICRC)、NGO、各種メディアで働くことを目指す学生たちにとっても、安全保障に関する必要な実務上の知識や考え方を身に着ける上で本講義を履修しておいて損はないはずである。

授業計画

1 戦争違法化と武力行使法(ユース・アド・ベルム)
2 武力行使禁止原則(1) 武力行使とは何か
3 武力行使禁止原則(2) 武力に至らない実力行使
4 武力行使禁止原則(3) 同意、個別的・集団的自衛権
5 武力行使禁止原則(4) 在外自国民の保護、人道的干渉、先制的自衛権、非国家主体に対する自衛権
6 集団安全保障(1) 国連の軍事的強制措置
7 集団安全保障(2) 国連平和維持活動(PKO)
8 戦争違法化と武力紛争法(ユース・イン・ベロ)
9 武力紛争法の存在理由と基本原則、交戦法規と中立法規、各作戦空間(陸海空宇宙サイバー)への適用可能性
10 武力紛争法の適用対象(1) 国際的武力紛争
11 武力紛争法の適用対象(2) 非国際的武力紛争
12 交戦者の資格(1) 戦闘員
13 交戦者の資格(2) 非戦闘員、文民、不法(非特権的)戦闘員
14 害敵方法(1) 攻撃
15 害敵方法(2) 軍事目標主義
16 害敵方法(3) 人的軍事目標の選定
17 害敵方法(4) 物的軍事目標の選定
18 害敵方法(5) 比例性原則、予防原則
19 害敵方法(6) 奇計、背信行為
20 害敵手段(1) 基本原則、新たな兵器の審査、軍備管理・軍縮・不拡散との関係
21 害敵手段(2) 通常兵器
22 害敵手段(3) 大量破壊兵器
23 武力紛争犠牲者の保護(1) 基本原則、戦闘外にある者
24 武力紛争犠牲者の保護(2) 傷病者、難船者
25 武力紛争犠牲者の保護(3) 捕虜
26 武力紛争犠牲者の保護(4) 文民
27 非国際的武力紛争に適用されるルール
28 武力紛争法の履行確保(1) 戦時復仇、赤十字国際委員会、事実調査、軍法務官・法律顧問、新たな履行強化の試み
29 武力紛争法の履行確保(2) 戦争犯罪人処罰
30 総括

授業方法

配布資料に基づき講義形式を基本とするが、本講義では対話を何よりも重視するため、受講者には積極的な発言が求められる(逆にこちらから質問をする場合も多々あるだろう)。履修者数によっては毎回出席確認をすることもありうるが、主として平常点は、出席自体にではなく、積極的な発言に対して与えられるものであることに留意されたい。

準備学習

予習については、配布するレジュメその他の資料にあらかじめ目を通しておくこと。また、必要に応じて指定した参考文献に目を通すことも望ましい(約30分から1時間程度)。
 
復習については、さらに、時間の許す範囲で、後述する参考文献の欄で紹介したような映画を視聴することが望ましい(約1時間30分から2時間程度)。

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):60%(試験では、基本的理解の度合いに加え、答案で示された論旨の一貫性や議論の明晰性を考慮する。)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):40%(積極的な発言等の授業への参加)

教科書

教科書は特に指定しないが、有斐閣の国際条約集を必ず持参すること。

参考文献

黒﨑将広「自衛隊による『武器の使用』は『武力の行使』とは違う?――国際法上禁止される『武力の行使』と憲法の制約」森川幸一=森肇志=岩月直樹=藤澤巌=北村朋史〔編〕『国際法で世界がわかる――ニュースを読み解く32講』(岩波書店、2016年)272-286頁。
 
黒﨑将広「『駆け付け警護』の法的枠組み―自衛概念の多元性と法的基盤の多層性―」『国際問題』No.648(2016年1-2月号)39-49頁。http://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2010/2016-01_005.pdf?noprint
 
黒﨑将広「ドローンの国際的規制」国際法学会エキスパート・コメント No. 2016-11(2016年11月)。http://www.jsil.jp/expert/20161122.html
 
赤十字国際委員会(黒﨑将広訳)『国際人道法上の敵対行為への直接参加の概念に関する解釈指針』(赤十字国際委員会、2012年)https://www.icrc.org/eng/assets/files/publications/p0990-direct-paticipation-hostilities-japanese-2012.pdf
 
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また、講義の復習に際しては、関係する現代の戦争などを舞台にした映画を見ることも有益である。今でも比較的アクセスしやすい2000年以降の映画として例えば以下のものが本講義の参考となりうる。各自自主的に視聴して理解を深め、国際問題の法的分析能力の向上に努めて欲しい。
 
『英雄の条件(Rules of Engagement)』(2000年、米国)
『ブラックホーク・ダウン(Black Hawk Down)』(2001年、米国)
『ノー・マンズ・ランド(No Man's Land)』(2001年、ボスニア・ヘルツェゴビナ他)
『ホテル・ルワンダ(Hotel Rwanda)』(2004年、英国他)
『ブラッド・ダイヤモンド(Blood Diamond)』(2006年、米国)
『カルラのリスト(Carla's List)』(2006年、スイス他)
『ハート・ロッカー(The Hurt Locker)』(2008年、米国)
『ゼロ・ダーク・サーティ(Zero Dark Thirty)』(2012年、米国)
『アルゴ(Argo)』(2012年、米国)
『ドローン 無人爆撃機(Drones)』(2013年、米国)
『アメリカン・スナイパー(American Sniper)』(2014年、米国)
『ドローン・オブ・ウォー(Good Kill)』(2014年、米国)
『ある戦争(Kriegen)』(2015年、デンマーク)
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場(Eye in the Sky)』(2015年、英国)
『シン・ゴジラ』(2016年、日本)

その他

安全保障問題に関心を持ち、講義に積極的に参加する主体的な学生を強く望みます。