○経済発展論
その理論と政策―
021-B-210

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
細谷 祐二 講師 4 2~4 第1学期週2回
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授業概要

 ここでは「経済発展」を「構造的変化を伴った国民経済の長期的な量的拡大、質的改善」と定義し、国民所得等マクロ集計量の単なる量的拡大である「経済成長」と区別する。このように規定される「経済発展」は、経済政策上の重要な課題であり、産業構造の高度化を通じそれを目指す「産業政策」と密接不可分の関係にある。講師は長年、経済産業省において産業政策の理論と実践について研究を行っており、その経験を生かして実際の政策と関連付けて「経済発展」を論じたいと考えている。なお、本講義は特定の国や地域について論じる地域研究の講義を意図したものではないことに注意されたい。

到達目標

 経済発展が単なる経済成長とは異なり人類史的に見て極めて重要な現象であることを理解し、人口減から生じる長期的な日本の課題、先進国、発展途上国を問わず諸外国国民の置かれた状況について自分の頭で考察し、良き世界人としての自己のふるまいがどうあるべきかを見つめる端緒となることが期待される。

授業計画

1 イントロダクション/経済発展の基礎理論
2 経済発展の基礎理論
3
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7
8 貿易・直接投資と工業化戦略
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10
11 イノベーションと産業集積
12
13 経済発展に果たす地域及び中小企業の役割
14
15 理解度の確認、まとめ、総括
1)上記は、土曜午前の連続講義(1.5時間×2)を1単位としたもの。 
2)スケジュールは一応の目安であり、変更がありうる。 
3)授業内容の詳細は、以下の「講義アウトライン」を参照。
 ◎講義アウトライン   
 1.イントロダクション
  ・経済発展を身近に感じるための事例-日本の高度経済成長    
  ・経済政策の4つの目的の1つとしての経済発展    
 2.経済発展の基礎理論    
  ・「近代経済成長」といくつかのスタイライズド・ファクト
    ペティ・クラークの法則
    クズネッツの研究と「近代経済成長」    
    ロストウの経済発展段階説と「離陸」    
  ・新古典派の成長理論    
  ・成長会計と全要素生産性(TFP)    
  ・農工2部門発展モデル(デュアリズム)の理論    
  ・ヌルクセの均斉成長理論とハーシュマンの不均斉成長理論   
 3.貿易・直接投資と工業化戦略    
  ・自由貿易の利益    
    比較優位と貿易の利益    
    自由貿易の利益-余剰分析・一般均衡分析    
    自由貿易の利益-動態的効果    
  ・幼稚産業保護論    
    概念と理論的根拠    
    マーシャルの外部経済    
    幼稚産業保護の実際(日本等の事例)    
  ・発展途上国の工業化と貿易・投資政策    
    輸入代替工業化戦略と輸出志向工業化戦略    
    先進国からの直接投資受入れによる工業化    
 4.イノベーションと産業集積    
  ・イノベーションとは何か    
  ・マーシャルの集積論とMAR外部性    
  ・ジェイコブズの外部性と都市の経済   
 5.経済発展に果たす地域及び中小企業の役割 
 
4)この授業は基礎理論の紹介を行った上で、主に理論的視点から経済発展に関連する政策的諸問題を議論する。そのため、ミクロ経済学、マクロ経済学の基礎理論を習得していることが望ましい。ただし、数式を使った理論モデルの紹介等は必要最低限とし、主に図表による説明を行う。

授業方法

 基本的に板書と口頭による授業を行う。しっかりノートを取ることを奨励する。適宜参考資料及び講義用資料を配布する。

準備学習

 授業の前半は板書と口頭による授業を行うが、後半は時間の関係で、講義用資料を配り、それを口頭で説明する。授業終了後、次の週までに講義用資料の説明した部分について、しっかり資料を読んでくること。

成績評価の方法

第1学期(学期末試験):100%
 今年度から試験及び成績評価方法を抜本的に見直す。昨年度まで中間の授業時間中に小テストを実施していたが、これを廃止する。半期の授業であるため、第1学期末の試験期間中に期末試験を行う。記述式の試験とし、計3問に回答してもらう。そのうち2問は、複数問から選んで回答する。1問当たりの配点は40点である。残り1問は配点20点で、授業を通じ受講者が発見したことや関心を持った点などについて自分の言葉で論評することを求めるものとする。出題形式の変更に伴い、問も大幅に見直し過去問と大きく異なるものとなるので注意すること。期末試験について、出題範囲、期待する回答の仕方などについて、授業内で適宜言及する。持ち込みは一切不可とする。

教科書

教科書は使用しない。

参考文献

速水佑次郎『開発経済学 新版』、創文社2000年、ISBN=442389551X
高木保興『国際社会研究1 : 開発経済学』(放送大学教材)、放送大学教育振興会2005年、ISBN=4595134061
南亮進、牧野文夫『日本の経済発展』第3版、東洋経済新報社2002年、ISBN=4492370943
大野健一『途上国ニッポンの歩み-江戸から平成までの経済発展』、有斐閣2005年、ISBN=464116231X
岩田一政『国際経済学』第2版、新世社2000年、ISBN=4915787036
ポール・クルーグマン他『クルーグマンの国際経済学 上 貿易編』原著第8版、丸善出版2014年、ISBN=4621066145
ロバート・ソロー『成長理論』第2版、岩波書店2000年、ISBN=400015787095
小宮隆太郎他『日本の産業政策』、東京大学出版会1984年、ISBN=4130410253
伊藤元重他『産業政策の経済分析』、東京大学出版会1988年、ISBN=4130410563
岡崎哲二『工業化の軌跡』(20世紀の日本)、読売新聞社1997年、ISBN=4643970170
吉川洋『高度成長』(20世紀の日本)、読売新聞社1997年、ISBN=4643970022
世界銀行『東アジアの奇跡』、東洋経済新報社1994年、ISBN=449244162
青木昌彦、奥野正寛『経済システムの比較制度分析』、東京大学出版会1996年、ISBN=4130421026
青木昌彦他『転換期の東アジアと日本企業』、東洋経済新報社2000年、ISBN=4492442510
園部哲史、大塚啓二郎『産業発展のルーツと戦略 - 日台中の経験に学ぶ』、知泉書館2004年、ISBN=4901654349
マイケル・E・ポーター『競争戦略論2』、ダイヤモンド社1999年、ISBN=4478200513
アナリー・サクセニアン『現代の二都物語』、日経BP社2009年、ISBN=4822247783
澤田康幸、園部哲史『市場と経済発展』、東洋経済新報社2006年、ISBN=4492443266
ポール・クルーグマン『脱「国境」の経済学』、東洋経済新報社1994年、ISBN=4492441727
Jane Jacobs, The Economy of Cities, Vintage Books, 1969, ISBN:039470584X
Dwight H. Perkins他, Economics of Development, 7th Edition, W W Norton, 2012, ISBN:0393114953
青木昌彦他『市場の役割 国家の役割』、東洋経済新報社1999年、ISBN=4492312560
香西泰『高度成長の時代 - 現代日本経済史ノート 』(日経ビジネス人文庫)、日本経済新聞社 2001年、ISBN=4532190614
A. O. ハーシュマン『離脱・発言・忠誠 - 企業・組織・国家における衰退への反応 』(MINERVA人文・社会科学叢書)、ミネルヴァ書房2005年、ISBN=4623043746
アンドリュー・J・サター『経済成長神話の終わり 減成長と日本の希望』(講談社現代新書)、講談社2012年、ISBN=4062881489
玄田有史『希望のつくり方 』(岩波新書)、岩波書店2010年、ISBN=4004312701
鈴木博之『都市へ』(日本の近代)、中央公論新社1999年、ISBN=4124901100
湖中齊『都市型産業集積の新展開 - 東大阪市の産業集積を事例に 』(比較地域研究所研究叢書)、御茶の水書房2009年、ISBN=4275008197
前田啓一他『大都市型産業集積と生産ネットワーク』(世界思想ゼミナール)、世界思想社2012年、ISBN=4790715647
細谷祐二『グローバル・ニッチトップ企業論』、白桃書房2014年、ISBN=978456126629

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

 本科目は出席点も出席の確認も課すものではない。しかし、毎回、授業に出席し講義内容をしっかりノートにとり、授業中配布された資料にきちんと目を通し、試験前にはじっくり復習すること。こうした努力を行っていれば、期末試験の問題はいずれも比較的容易に回答できるものである。また、成績評価において、配布された資料の内容などだけでなく、講義中に触れた内容、特に授業で強調した点についても言及している答案には高い点数を与える。しかし、そうでない場合は低い評点になる。その点を十分承知した上で履修登録を行うこと。要するに、授業に出席しないで試験だけを受ける場合には、不可あるいは可となる可能性が高いので注意すること。