哲学講義
イギリス経験論の哲学―
031-A-133

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
中野 安章 講師 4 2~4 通年 4

授業概要

ロック、バークリー、ヒュームをひと括りの学派と見なし、「イギリス経験論」と呼ぶことは後世の哲学史記述に由来しているが、近年ではこれを疑問視する向きも多い。しかしこの三人が、17世紀後半から18世紀前半という、近世哲学の黎明期に、英語で書かれた最も影響力の大きい哲学的著作を生み出したこと、そして彼らの哲学的思考には、確かにある一定の問題意識の共有と思想傾向の類似性が顕著に見て取れることは否定できない。
 この講義では、普遍と因果性の問題を中心に、ロック、バークリー、ヒュームそれぞれの哲学に分け入り、この二つのテーマについて現代の哲学につながる影響力ある議論を彼らがどのように展開したかを追う。第1学期は、普遍の問題を取り上げ、まずロックの「抽象観念」説という解決に対して、続くバークリーやヒュームがどのようにそれを批判、変容させたかを、知識や言語の問題と関連させながら見ていきたい。第2学期では、因果性の問題を、特に近世の因果理解を特徴づける「自然法則」概念の登場に留意し、「力」と「関係」という二つの因果性理解の間の相克という観点から見ていきたい。全体として、この講義は、これら二つのテーマから経験論哲学の原点を振り返ることを通じて、経験論的に哲学をすることの可能性と意義について考えていくことになる。

到達目標

ロック、バークリー、ヒュームの経験論哲学を、普遍と因果性という二つの中心テーマを通して理解し、原典テクストに即してそれぞれの思想的特徴について説明できるようになることを目指す。また、これら二つのテーマに関する三者の思考を相互に比較することを通じて、古来から哲学の中心的な関心であり、現代でも継続して論じられる、普遍と因果性の問題に対して理解を深め、自分自身でそれらの問題を考えるために必要な基礎知識と分析力を養う。

授業計画

1 授業方針の説明、講義全体の見通し
2 第1学期イントロダクション 普遍の問題と唯名論
3 ロック(1) ロックの知識論概要
4 ロック(2) 「抽象観念」説
5 ロック(3) ロックの言語論
6 ロック(4) 普遍的知識の問題―ロックの解答
7 バークリー(1) バークリーの知識論概要
8 バークリー(2) 「抽象観念」批判
9 バークリー(3) バークリーの言語論
10 バークリー(4) 普遍的知識の問題―バークリーの解答
11 ヒューム(1) ヒュームの知識論概要
12 ヒューム(2) 「抽象観念」批判
13 ヒューム(3) ヒュームの言語論
14 ヒューム(4) 普遍的知識の問題―ヒュームの解答
15 第1学期のまとめ
16 第2学期イントロダクション 近世の因果理解と自然法則の概念
17 ロック(1) 因果性と「力」の観念
18 ロック(2) 因果性と「関係」の観念
19 ロック(3) ロックの自然観―「力」の優位
20 ロック(4) 自然の知識―自然哲学の理想と限界
21 バークリー(1) エッセ・イズ・ペルキピ―物質的な力の否定
22 バークリー(2) エッセ・イズ・ペルキペレ―「精神=原因」説
23 バークリー(3) バークリーの自然観―「関係」の優位
24 バークリー(4) 自然の知識―自然哲学の限界と形而上学
25 ヒューム(1) 力と必然性
26 ヒューム(2) 因果性と二つの「関係」
27 ヒューム(3) ヒュームの自然観―「関係」の優位
28 ヒューム(4) 自然の知識―自然の斉一性の問題
29 第2学期のまとめ
30 全体の総括

授業方法

講義形式の授業をおこなう。毎回の講義に際しては、原典からの関連個所の抜粋および講義資料を配布し、それに基づいて授業を進める。
また、毎回レスポンスシートを配布し、講義の最後に15分程度の時間を設けて、1.授業の要約、2.授業に基づいて自分自身が得た考え、を書いてもらう。優れたコメントについては、成績評価の際の加点対象として考慮される。

準備学習

毎回の講義で配布する、次回扱われるトピックに関する原典テクストからの抜粋を、予めよく読んでから授業に臨むこと(30分~1時間)。
前回の講義で扱った原典テクストを、聴講した内容と関連づけながら再度読み直し、疑問点を明確にして学期末試験に備えること(30分~1時間)。

成績評価の方法

第1学期(学期末試験):45%(授業内容の理解と、それに基づく自分自身の思考を、明晰な言葉で論述できること。)
第2学期(学年末試験):45%(授業内容の理解と、それに基づく自分自身の思考を、明晰な言葉で論述できること。)
毎回のレスポンスシート記入:10%(各回授業の要点と、自分の考えの、二点をまとめる。)
基本的には、学期末試験の成績の総合点で評価する。
毎回のレスポンスシートも、最終的な成績評価に際して参考にする。
レスポンスシートは返却しないが、授業中に必要に応じて紹介とコメントをおこなう。

教科書

教科書は、特に使用しない。原典テクストの抜粋と、講義資料を配布する。

参考文献

ロック『人間知性論(一)(二)(三)(四)』、岩波文庫
バークリ『視覚新論』、勁草書房
バークリ『人知原理論』、岩波文庫
ヒューム『人間本性論 第一巻・知性について』、法政大学出版局
ヒューム『人間知性研究』、法政大学出版局
松永澄夫編『哲学の歴史6 18世紀―知識・経験・啓蒙』(哲学の歴史)、中央公論社
一ノ瀬正樹『英米哲学史講義』、ちくま学芸文庫

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。