基礎演習A
日本史の基礎―
032-A-111

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
家永 遵嗣 教授 2 1 通年 3

授業概要

 中世人が書き残した2つの史料を読み解いて、中世社会のリアルな姿を感じ取る体験をしてもらいます。
 辞典としては、高等学校で使用した古語辞典ではなく、語史情報の豊富な『小学館日本国語大辞典』の参照を必須とします。大部・高価な辞典ですから、図書館・研究室に架蔵されているものを使用してください。専門家が研究に用いる辞典を使う体験をする、ということです。高等学校で学んだ古文に近いテキストですので、動詞の活用や助動詞などについて、古典文法の参考書を見直すことが必要になることもあるでしょう。
 第1学期には肥後国(熊本県)の御家人竹崎季長が書き残した、いわゆる『蒙古襲来絵詞』の詞書を読んでゆきます。季長は2度のモンゴル戦争に参加した経験を記すとともに、鎌倉に行って幕府の首脳であった安達泰盛に直接自らの戦功を訴えたことも書き残しています。高等学校の日本史教科書では人名だけしか紹介されていない人々ですが、当事者の書き残したやりとりの様相から、この人たちのリアルな姿を感じ取ってもらいます。
 第2学期には、琵琶湖北岸の菅浦という惣村が、15世紀に隣接する大浦という惣村と耕地の帰属を巡って争った時に作成した、ふたつの「合戦記」を読み比べてみます。中世社会は、絶え間のない戦乱と無秩序・混乱によって特徴づけられる時代であり、自分の権利を守るために実力(武力)を行使することは必要不可欠なことでした。生々しい記録から、このことを実感してもらいます。
 史料を読みながら、関係する論文を読み、学術論文の学び方の基礎的な要領を学びます。論文の要旨をまとめること、レポートの基本的な要領を体得する訓練も課します。

到達目標

史料を分担して輪読する「講読」形式の演習の学修要領を、実践を通じて学びます。論文の読解・報告の要領を学んで、「レポート」を作成する基本要領を学びます。

授業計画

1 テキスト『蒙古襲来絵詞』詞書を配布・確認し、発表当番を決めます。
2 『蒙古襲来絵詞』の絵巻部分を複製本によって観察し、モンゴル軍沈没船に関する水中考古学の成果など、関連する事項について説明します。
3 『蒙古襲来絵詞』の真贋に関する論争や、季長の本拠地に関する研究成果、季長が訪れた当時の鎌倉の姿など、関連する事象について説明します。
4 『蒙古襲来絵詞』の冒頭部分は破損が著しいため、教員が担当して、失われたとおぼしい記述内容の推定を示すとともに、担当者が行うべき訳文の提示要領を示します。
5 発表当番に従って、『蒙古襲来絵詞』の詞書を読み解いてゆきます。
6 『菅浦文書』628号「菅浦惣庄合戦注記」と『菅浦文書』323号「菅浦・大浦両庄騒動記」を配布し、釈読の発表当番を決めます。
7 近江国菅浦という惣村について、現状のスライドをまじえつつ、地理的・歴史的な環境・特徴を説明します。
8 発表当番の順序に従って、「菅浦惣庄合戦注記」・「菅浦・大浦両庄騒動記」を読み解いてゆきます。
当番を決めて史料を読み討論する「講読」の要領と、論文を読み解く要領の基本を体験します。『蒙古襲来絵詞』は和文脈を基本とする史料で、菅浦の史料は漢文の記述法が強く混じった漢字仮名まじり和文です。古文・漢文の知識を史料読解に応用する訓練となります。関連する学術論文を読んで、要約する訓練を行います。レポートを書く基礎になるトレーニングです。

授業方法

 第1学期には『日本思想大系21 中世政治社会思想 上』所収「竹崎季長絵詞」、第2学期には、滋賀大学日本経済文化研究所刊『菅浦文書 上巻』628号「菅浦惣庄合戦注記」(文安六(1449)年二月十三日)と323号「菅浦・大浦両庄騒動記」(寛正二(1461)年十一月三日)の二点を、輪読形式で読みます。テキストは各学期初回の授業の際に配布します。各学期中に、背景となる知識を学ぶ論文を配布して読み、その要旨をまとめる訓練をするとともに、レポートの作成要領について訓練します。

準備学習

「講読」形式の演習では、担当者が史料の部分を当番形式で分担し、訳文や関連事項の調査結果を報告します。参加者は、担当者が訳文を提示する前に、予め輪読の形式で史料の「読み合わせ」と「現代語訳」を試みます。よって、各回の史料の部分について、参加者全員がそれぞれ予め「読み」と「現代語訳」の試案を用意しておくことが必須となります。発表当番の担当者は、「単純な読み取りではわからない」問題点を予め教員に相談して、解決策を用意しておく必要があります。

成績評価の方法

レポート:25%(各学期ごとに、関連する論文についてレポートを課し、要約・レポートの作成要領を学びます。)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):50%(自分自身の発表要領を磨くためには、他の出席者の努力に学ぶ、「人の振り見て我が振り直す」ことが大切です。出席と討論への参加を重視します。)
討論への参加:25%(「聞き上手は話し上手」とも言われるように、他の人の意見に適切な質疑を行うことで、発表者も質問者も成長できるものです。討論における「質問」とは何か、ということを学びます。)

参考文献

石井進他『『日本思想大系21 中世政治社会思想 上』所収「竹崎季長絵詞」(石井進校注)』、岩波書店1972
石井進『鎌倉びとの声を聞く』、日本放送出版協会2000
滋賀大学日本経済文化研究所史料館『菅浦文書』(滋賀大学日本経済文化研究所叢書第一冊)、有斐閣1960
長浜市長浜城歴史博物館編『菅浦文書が語る民衆の歴史』、サンライズ出版2014
講読する史料・論文は配布します。

履修上の注意

履修者数制限あり。
第1回目の授業に必ず出席のこと。