英語文化コース講義A
シェイクスピア劇の文化・社会背景―
034-A-221

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
中野 春夫 教授 4 2~4 通年 3

授業概要

 2年前に8歳年上の女性と「デキチャッタ」婚をした結果、田舎町の青年ウィリアム・シェイクスピアには20歳の時に3人の子どもがいました。その時点で彼は無職・無収入で生活能力ゼロ、頼りのお父さんも破産状態で完全な引籠り状態でした。シェイクスピアといえば世界で一番有名な劇作家ですが、彼が皆さんとちょうど同じ年齢の頃は社会の最底辺のさらに外側にくすぶっていたのです。社会的ハンディを持つ彼が選んだ職種はできたばかりの娯楽産業でした。
 シェイクスピアの劇世界にはその時代の観客たちが疑似的に体験したいと思う生々しい恐怖・不安・欲望が書き込まれています。父親が何者かによって殺され、母親は自分を見捨てて叔父と再婚し、最愛の女性には自分の気持ちが伝わらないハムレット、男性に変装して、愛するオーランド―をこっそり調教する『お気に召すまま』のロザリンド、精霊エアリエルを使って裏切り者たちに思う存分仕返しをする魔術師プロスペロ―などなど、シェイクスピア劇は同時代の観客たちが夢見てみたいと願う人間関係や出来事の縮図です。
 この講義では37作+αのシェイクスピア作品をジャンル・時期別に解説していきますが、強調したいのはシェイクスピア劇が今日とは異なる社会・文化背景から生み出されていたことです。シェイクスピア時代では悪霊や妖精、魔女の存在が想定されないと物理世界の因果関係が成り立ちませんでした。シェイクスピア時代にも心の病は存在しましたが、その医学的メカニズムは「メランコリー」理論という摩訶不思議なもので説明されていました。また恋愛と結婚も今日とは著しく異なる法的制度の下で行われていました。本講義はシェイクスピア劇の面白さを同時代のイングランド社会という原点に返って解説していきます。

到達目標

シェイクスピアの劇世界で起こることは今日の文化・社会的制度と違うものから生まれています。この講義を通じて王国相続制度、階級制度、結婚制度など同時代の社会・文化的背景からシェイクスピア劇の面白が理解できます。

授業計画

1 没落と成り上がりの人間模様―シェイクスピア時代の社会階層制度
2 「第一の階級」ジェントルマン―シェイクスピア親子の社会上昇
3 「成り上がりの烏」―1590年代前半期の劇作品、歴史劇
4 王国相続トラブルの演劇化―1590年代前半期の劇作品、『歴史劇
5 シェイクスピア時代の婚姻制度―1590年代前半期の劇作品、初期喜劇
6 「その場の同意」による永遠の契約―1590年代前半期の劇作品、初期喜劇
7 社会トラブルの源泉「秘密婚」―1590年代後半期の劇作品、『ロミオとジュリエット』
8 「恋は狂気そのもの」―1590年代後半期の劇作品、ロマンティック・コメディー
9 王国諸制度の不気味なシミュレーション―1600年代の劇作品、問題劇
10 意思疎通できない母子・恋人―1600年代前半期の劇作品、『ハムレット』
11 「青い目の怪物」ジェラシー―1600年代前半期の劇作品、『オセロ』
12 国王から浮浪者へ、究極の転落―1600年代後半期の劇作品、『リア王』
13 お芝居は「聞く」もの、「聞かせる」もの―興行面からみるシェイクスピア劇
14 理解度の確認
15 振り返り
16 カタイへの道、北西航路ーアジアの黄金伝説とシェイクスピア劇
17 植民地幻想の生成―16世紀植民地パンフレットとシェイクスピア劇
18 1600年のテンペスト(嵐)―ヴァージニア植民地会社と『テンペスト』
19 隠された人肉食い(キャニバリズム)―ジェイムズタウンの悲劇と『テンペスト』
20 15世紀末における「魔女」像の大変化ーシェイクスピア劇における2種類の魔女
21 ジェイムズ1世とノースベリック魔女裁判―『悪魔学』と『マクベス』
22 1604年の魔術禁止令―パクト理論導入と『マクベス』
23 シェイクスピア劇の異性装―『お気に召すまま』と『十二夜』
24 娯楽産業のスターたちの起源ー『夏の夜の夢』の妖精たち
25 娯楽産業のスターたちの起源―「酔っぱらいの鋳掛屋」と『じゃじゃ馬ならし』
26 社会の底辺にうごめく女性たち―売春産業と『尺に尺を』
27 シェイクスピア時代のロンドン―新たな娯楽の発展
28 シェイクスピア劇の小唄―400年前の艶歌・怨歌
29 理解度の確認
30 振り返り

授業方法

純粋な講義スタイルで、テクストは使いません。毎回ハンドアウトを配布します。

準備学習

授業中にできるだけ多くの参考文献に言及しますので、受講後に参照してください。(約60分)

成績評価の方法

第1学期(学期末試験):50%
第2学期(学年末試験):50%
試験によって評価します。

参考文献

中野春夫『恋のメランコリー―シェイクスピア喜劇世界のシミュレーション』、研究社2008
中野春夫『シェイクスピアの英語で学ぶここ一番の決め台詞』、マガジンハウス2002