フランス語圏文化講義(広域文化)
フランスと東アジア、文化関係史―
036-A-303

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
菅野 賢治 講師 4 2~4 通年 2

授業概要

 不思議なことに、日本の地でフランスやフランス語圏を興味・研究の対象とする人々は、往々にして、日本以外の東アジア(朝鮮、中国、台湾、ヴィエトナム)が、過去数世紀間、フランスやフランス語圏とのあいだにどのような関係史を築いてきたのか、まったく無知であることが多いものです。あたかも「われわれ」と「西洋」とを繋ぐ思考の回路そのものが、植民地時代の分断統治の痕跡を引きずっているかのごとくです(韓国の政治学者・李用熙(イ・ヨンヒ, 1917-1997)は、この事態を指して「ひまわり現象」と名付けました)。たとえば、17世紀、フランス出身者が初めて来訪した東アジアの土地は、越南だったのか、中国だったのか、朝鮮だったのか、あるいは日本だったのか? たとえば、1880年、史上初の『朝鮮語=フランス語辞典』は、なぜ、横浜で印刷・刊行されなければならなかったのか?・・・
 学習院大学でフランス語圏のことを学ぶ皆さんには、この盲点と苦手意識を克服してもらいたいと思い、講師の知識・力量から見てやや手に余る主題ではありますが、17世紀から説き起こし、東アジアの地域全体がフランスとどのように触れ合ってきたのか、時間軸に沿って勉強することにします。

到達目標

・日本を含む東アジア地域の歴史、地理、文化の理解に、フランス語の語学力を応用できるようになる。
・日本とフランス・フランス語圏の関係を思考する際に、東アジアを交えた三点観測の視点を導入できるようになる。

授業計画

1 イントロダクション 漢語文化圏という考え方 李用熙のいう「ひまわり現象」について考える
2 前史 キリスト教西洋と東アジア
3 日本 17世紀初め:フランソワ・カロンが見た江戸時代の日本
4 テクスト購読(フランソワ・カロンが宰相コルベールに宛てた意見書)
5 ヴィエトナム 17世紀:アレクサンドル・ド・ロードの業績
6 テクスト購読(ド・ロードの回想録)
7 中国 17~18世紀:典礼論争とは何か(1)
8 テクスト購読(ル・コント神父の書簡)
9 中国 17~18世紀:典礼論争とは何か(2)
10 黄嘉略の生涯、ならびに18世紀フランスの中国観
11 朝鮮 18世紀:ラ・ペルーズが「見た」朝鮮
12 テクスト購読(ラ・ペルーズの旅行記より)
13 琉球 1840年代:フォルカードの琉球滞在
14 テクスト購読(フォルカードの滞在記)
15 自主研究
16 筆記
遠藤周作『女の一生 一部 キクの場合』(新潮文庫)
ジュール・ヴェルヌ『必死の逃亡者』(創元SF文庫)
ピエール・ロチ『お菊さん』(岩波文庫)
いずれかをあらかじめ読んでおき、「東西文化の出会いと確執」という観点から考えたことを記す
17 ヴィエトナム 1858-1867年:チュオン・ヴィン・キーとフランス領インドシナの成立
18 テクスト購読(チュオン・ヴィン・キーの書簡)
19 日本 1860~70年代:長崎の隠れ切支丹――プティジャン神父とド・ロ神父
20 テクスト購読(プティジャン神父の手紙)
21 中国 19世紀末:ジュール・ヴェルヌの作品の中の東アジア
22 テクスト購読(ヴェルヌ『必死の逃亡者』)
23 日本・中国 1876年:エミール・ギメの中国、日本旅行
24 テクスト購読(ギメ『東京日光散策』)
25 日本 1870年代:横浜のフランス語新聞『レコー・デュ・ジャポン』
26 朝鮮・日本 1880年:リデル神父による『朝仏辞典』
27 テクスト購読(リデル神父の書簡)
28 日本 1887/1894年:お菊さんの言い分――ピエール・ロティ対フェリックス・レガメー
29 テクスト購読(ロティ『お菊さん』ならびにレガメー『お菊さんの桃色手帖』)
30 理解度の確認

授業方法

講義形式です。時代・テーマごとに歴史概説、作家紹介を行った後、必ずフランス語テクストの抜粋を原文で読みます。テクストや資料は、毎回、プリントで配布します。教員の授業ノートをそのままプロジェクターで投射し、それを後日、教員のURLからダウンロードできるようにします。http://www17.plala.or.jp/kenjikanno/gakushuin.html
ダウンロードの仕方などを一回目の授業で指示しますので、必ず出席してください。

準備学習

・事前に配布するフランス語テクストを読み、単語の意味を調べておくこと(30~45分)
・第二学期の初回に行う筆記に際しては、事前に指定したテクストから一つを読んで、考えをまとめておくこと

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):70%(扱ったテクストをよく読み、自分自身の感想、意見をわかりやすくまとめてください)
第二学期1回目の筆記:30%(事前に指定したテクストのなかから1つを選び、夏休み中にしっかり読んでおくこと)
講師が講義中に語ったことをそのまま答案に書き写すのではなく、みずからテクストに触れたときの印象、感想から出発し、自分自身で考えたことをフィードバックして欲しいと思います。

教科書

教科書は特に使用しません。資料や講読テキストは毎回プリントで配布します

参考文献

海原峻『ヨーロッパがみた日本・アジア・アフリカ :フランス植民地主義というプリズムをとおして』(教科書に書かれなかった戦争)、梨の木舎1998年、ISBN=9784816698019
W・L・シュワルツ『近代フランス文学にあらわれた日本と中国』、東京大学出版会1971
飯塚浩二『東洋史と西洋史のあいだ』(飯塚浩二著作集2)、平凡社1975年、ISBN=03307220207600
飯塚浩二『アジアのなかの日本』(飯塚浩二著作集4)、平凡社1975年、ISBN=03307220407600
必読図書、参考文献は、時代ごと、テーマごとに授業内で紹介します。飯塚浩二の著作については、上の掲げたもの以外も、各自、興味に応じて積極的に手にとってみることをお勧めします。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

名簿順に座席を固定し、毎回、始業時に出欠をチェックします。遅刻ないし欠席が半期で4回(公欠、忌引、交通機関の遅延の場合を除く)に達した学生は学年末試験を受ける資格を失いますので注意してください。講師自身と、他の履修者の皆さんの授業に対する集中度を一気に下げてしまいますので、とにかく私語だけは慎んでください。