放射線生物学
放射線によるDNA損傷と修復―
044-B-503

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
谷田貝 文夫 講師 2 2 第2学期 1

授業概要

生命体に放射線が照射されると、放射線のエネルギーが生命体構成分子に吸収され、それが原因となって物理・化学的反応が起こる。その一部が生化学的過程を経て、生物反応として現われる。放射線による生物反応で最も重要なものは遺伝子DNAの損傷である。本講義では、放射線の物理的性質について理解することから始めて、生命体構成分子における物理・化学的反応過程についても学んだ後、電離放射線や紫外線による生物的影響、特に遺伝子DNAの損傷とその修復について深く学ぶ。また放射線と生物進化の関係についても触れる。

到達目標

放射線も環境因子の一つとして理解し、他の環境因子との共通点や相違点について誰にでも説明できるようになる。細胞で起こる”DNA損傷に対する修復”のメカニズムを考察することにより、様々なストレス(脅威)から生体を守るための仕組みが何重にも働いていることが理解できるようになる。放射線の生物影響についての基礎知識を学ぶことによって、放射線に関わる作業をする場合の安全性の確保だけでなく、原子力事故などによって被ばくの恐れが生じた時などの対処についての基本を習得できるようになる。

授業計画

1 放射線についての基礎知識(放射線と生命の関わり)
キーワード;自然放射線、人口放射線、放射線と放射能の違い
2 放射線の種類とその特徴
キーワード;放射性同位元素、α線、β線、γ線、LET、吸収線量、実効線量
3 電離放射線によるDNA損傷の生成(物理・化学的反応過程)
キーワード;水分子の電離・励起、直接作用と間接作用、フリーラジカル、活性酸素
4 放射線による細胞致死作用(細胞の放射線感受性)
キーワード;標的理論、生存曲線、線量率効果、放射線感受性の修飾(増感効果、保護効果)
5 紫外線によるDNA損傷とその修復(1)
ー自然発生や化学物質によるDNA損傷との比較ー
キーワード:ピリミジンダイマー、(6-4)光産物、塩基の酸化損傷、塩基除去修復、ミスマッチ修復
6 紫外線によるDNA塩基損傷とその修復(2)
ー修復の仕組みについての詳細ー
キーワード:光回復と暗回復、ヌクレオチド除去修復、損傷乗り越え複製、修復欠損と遺伝的疾患
7 電離放射線によるDNA損傷とその修復
キーワード:DNA塩基損傷、DNA1本鎖切断、DNA2本鎖切断、DNAクラスター損傷
8 DNA2本鎖切断の生成機構と修復修復についての詳細
キーワード:生成の内的・外的要因、遺伝疾患との関連性、非相同末端結合経路、相同組換経路
9 突然変異の誘発と生物進化
キーワード:自然突然変異、生物進化の原動力、遺伝子突然変異、染色体異常
10 放射線に対する細胞応答
キーワード:DNA損傷の認識、シグナル伝達、細胞周期チェックポイント
11 がん抑制遺伝子p53の機能
キーワード:ゲノムの守護神、転写因子、細胞周期の制御、アポトーシスの誘導
12 低線量放射線に対する細胞の応答(1)
ー低線量の予備照射こよって起こる、その後の大線量照射による細胞の致死効果の緩和や突然変異誘発の抑制ー
キーワード:放射線適応応答、ホルミシスなど
13 低線量放射線に対する細胞の応答(2)
ー標的細胞から周囲の細胞への照射効果の波及(情報伝達)と遅延型突然変異の誘発ー
キーワード:バイスタンダー効果、ゲノム(遺伝的)不安定性、原子力事故、放射線防護
14 健康影響について
キーワード:原子力事故、放射線防護
15 理解度の確認
生命との関わりという観点に立って、放射線そのものについての基礎的知識の話から始める。全体の流れとしては、DNA損傷とその修復に焦点をあてる。講義は時間の都合によって、その一部を繰上げる、あるいは次回に回す可能性がある。

授業方法

単調で一方向の長時間の講義になることを避けるため、各回の講義の中で、質問時間を充分にとる。また、各回の講義の始めに前回の重要点を簡単にまとめた話をする。なお、放射線生物は複合領域の学問分野と考えられるので、難解にならないよう、基礎的な知識をわかりやすく説明する。

準備学習

講義の開始前には、放射線のもつ物理的性質については高校程度の基礎知識及びDNAの複製や転写などについてはすでに受けた講義の内容を学習しておくこと(60分)。講義が始まってからは、各回ごとに復習と次の講義内容についての予習をしておくこと(30分)。講義の進行状況に応じて、必要な場合は準備学習の具体的な指示をする。

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):70%(詳細知識ではなく基本的な知識の習得程度を評価する。)
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):30%(疑問点に対する討論なども評価の対象とする。)
講義を聞いたことによる知識の集積を評価するのではなく、基礎知識を十分に理解して身につけたかどうかを判断したい。講義で疑問に思った点を指摘したり、関連の学問領域との繋がりについても考察できる能力を養わせたい。

教科書

講義の全体をカバーできる、適切な教科書が見当たらないので、利用しない。

参考文献

江島洋介・木村博『放射線生物学』第2版、オーム社2011
花岡文雄『DNA複製・修復がわかる 』(わかる実験医学シリーズ)第1版、羊土社2006
青山喬・丹羽太貫『放射線基礎医学』第11版、金芳堂2008
飯田博美・安齋育『放射線のやさしい知識』第1版、オーム社2000
近藤宗平『人は放射線になぜ弱いか』第3版、講談社1998
薬袋佳孝・谷田貝文夫『今知りたい、放射線と放射能:人体への影響と環境でのふるまい』第1版、オーム社2011
参考書として、簡単に6冊を紹介します。その他、講義の準備などで利用した参考書や文献などについては、適宜、講義の中で示す。

その他

単調で一方向の長時間の講義になることを避けたいので、各回の講義の中で質問や議論の時間を十分にとる。また、各回の講義の始めに、前回の重要な点をまとめる。なお、放射線生物は複合領域の学問分野と考えられるので、難解にならないよう、基本的な問題をわかりやすく話すようにしたい。