自然科学史
092-E-214

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
長岡 亮介 講師 4 2~4 通年 1

授業概要

我々の今日の文化と文明が、高度に発達した自然科学とそれに裏付けられた技術に深く依存していることはいうまでもない。むしろ近年ではそれが誰の目にも自明すぎるために、自然科学を支えている「方法」や「思想」に目が向かず、ある場合には「自然科学的見方への屈辱的な拝跪」が、ある場合には「自然科学の方法に対する単なる模倣への無批判的な隷従」が、そしてもっとも多くの場合には自然科学の成果としての技術だけにしか目が向かない「科学音痴」的「文系人間」が目につくことになる。本講義は、自然科学(主として天文学、数学、物理学、などのいわゆる厳密科学)に、その歴史を通じて、自然科学への思想的な、あるいは‘文系的’な接近を試みるものである。

到達目標

「科学的な思考とはなにか」―その思想史的なアプローチを通じて、現代文明の基礎をなしている<自然科学という文化>に対する理解を深め、科学に対する盲目的な信頼、迷妄的な不信のいずれも正しくないことを自分の言葉で言えるようになることが目標である。

授業計画

1 講義全体のイントロダクションChales Percy Snow の Two Cultures and Scientific Revolution を素材に、講義の目標と、自然科学史的な関心の重要性とともに、その陥りがちな誤謬の危険について講ずる。また、博物館の歴史と現代社会における博物館の意味を自然科学史の立ち場から提起する。
2 科学と技術の関係我国に特有の「科学技術」という表現に潜入しているある種の誤解について学生諸君の意見をもとに考える。
3 科学と哲学の関係「科学」「哲学」の語源を中心に、「自然哲学」「自然学」「形而上学」の関係と意味の考察を背景に、古代ギリシャのタレースの哲学を中心に紹介する。
4 古代ギリシャにおける科学と哲学の誕生Diels-Krantz の翻訳をベースにした『古代ギリシャ哲学者断片集』に直接あたることによって、ソークラテース以前の自然哲学的考察の諸相を垣間見る。
5 ソフィストの哲学パルメニデース、ゼノンの思想の科学史的な価値を、「古代ギリシャ哲学者断片集」の記述に直接あたることによって考察する。
6 プラトン哲学入門(1):プラトンの哲学を和訳された原典講読を織り混ぜて紹介する。
7 プラトン哲学入門(2):プラトンの哲学の数学に関する部分を紹介する。
8 プラトン哲学入門(3):プラトンの哲学の自然学に関する部分を紹介する。
9 アリストテレース哲学入門(1):アリストテレースの「形而上学」の基本部分を紹介する。
10 アリストテレース哲学入門(2):アリストテレースの「自然学」の基本部分を紹介する。
11 古代の天文学(1):プトレマイオス以前に至る古代ギリシャの天文研究の概要を講ずる。
12 古代の天文学(2):プトレマイオスの惑星理論を紹介する。
13 古代の天文学(3):プトレマイオスの惑星理論と、コペルニクス的な太陽中心説との理論的な同値性を考察する。
14 講義全体のまとめ小テスト、試験、レポートについての質疑応答を交えて概要の理解の確認をする。
15 自発的な研究
16 第1学期の総復習と第2学期の講義への展望:講義の概覧を通じて「古代と近代」を考える様々な視座を提供したい。
17 天文学の新展開(1):「コペルニクス的転回」の実相を考察する。
18 天文学の新展開(2):Kepler による『新天文学』の、《中世と近代の分水嶺性》を見る。
19 新科学の誕生(1):ガリレオ・ガリレイの『星界の報告』『天文対話』を中心に、ガリレオ裁判に対する科学史的考察を試みる。また、「観察・観察」の意味を考える。
20 新科学の誕生(2):ガリレオ・ガリレイの『新科学対話』にいたる中世スコラ哲学者の自然研究、数学研究を紹介し、12世紀、13世紀にさかのぼるルネッサンスの意味を講ずる。
21 新科学の誕生(3):ガリレオ・ガリレイの『新科学対話』の原典(現代英語訳)を基に、《数学と実験の結合》の実態を詳細に吟味する。
22 新科学の誕生(4):ガリレオ・ガリレイの『新科学対話』の原典(現代英語訳)を基に、《数学と実験の結合》の実態を詳細に吟味する。
23 新科学の誕生(5):ガリレオ・ガリレイの『新科学対話』の原典(現代英語訳)を基に、《数学と実験の結合》の実態を詳細に吟味する。
24 「古代の科学」再論:近代に入って忘れ去られてきた古代の数学の論理的な厳密性を振り返る。
25 新数学=代数学の誕生:中世アラビアにおいて、誕生した新興数学の意義について考える。
26 近代合理主義哲学の誕生(1):デカルトを始めとする近代思想の誕生を可能にした科学的前提条件として、数記法を中心に考える。
27 近代合理主義哲学の誕生(2):デカルトを始めとする近代思想の誕生を可能にした科学的前提条件として、幾何学における解析的方法の発見について考える。
28 近代科学手的世界像の確立:無限を許容した動的、操作的な数学を踏まえた近代科学の方法論の確立の時代を見る。
29 一年間の講義全体の総括
30 予備日
原則として毎時間終わりに簡単なレポートを提出してもらう。

授業方法

講義を中心に、質疑応答を随時交えて、可能な限り、ゼミに似た双方向的な授業の実現を目指す。

準備学習

講義の際に、適宜、参考図書をあげる。講義の予習は必要ないが、復習は必須である。板書の記録としてのノートを暗記するのではなく、そこに挙げられた話題について自分自身でしっかりと理解することが求められる。必要な時間は人によっていろいろであろうが、1回の講義に30分以上はかけてほしい。

成績評価の方法

第1学期(学期末試験):30%
第2学期(学年末試験):40%
平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):30%

参考文献

参考資料は講義中に随時指示する。

その他

思想から遠退いてしまった‘理系’の諸君だけでなく、自然科学から遠退いてしまった‘文系’の諸君の積極的な参加を期待する。必要な予備知識は、高校レベルの常識的な理科、社会科の知識であるが、それらすら必ずしも講義の必須の前提とするものではない。email による連絡、インターネットでの教材提示を不可欠の手段とする。