※哲学演習


  --現存在の時間性と歴史性--
131-F-100

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
酒井 潔 教授 4 D/M 通年 3

授業概要

 ハイデッガーの『存在と時間』(Sein und Zeit,1927)の第Ⅰ部第2編第5章「時間性と歴史性」を読む。
 はじめに、この主題への準備的導入として、「現存在」の「現」(Da)ということ、つまり私たちが世界のなかでそのつどすでに自らの有るということを何らかのしかたで理解し、そのことにおいて同時にあれやこれやのものの存在を理解しているという有り方<現存在の存在了解>を構成する契機としての「理解」(Verstehen)と「解釈」(Auslegung)を確認する(第Ⅰ部第1編第4,5章)。すなわち、「現存在」はその「日常性への退落」から、「不安の気分」のなかで「死への存在」である自己に出会い、分散した平均的な有り方から「時間性」の全体を己の有り方とする「本来性」へ至るのであるが、そのような現存在の時間性にはさらに現存在の実存論的体制としての「歴史性」という現象が基づけられる、というハイデッガーの分析を考察する。彼によれば、われわれ現存在は「歴史の中にいる」がゆえに「時間的」(zeitlich)なのではなく、むしろ逆に、現存在はその有るということの根本において「時間的」であるがゆえにこそ歴史的であり、歴史的に実存し、実存し得るのである(SuZ,376)。
 まずハイデッガーのドイツ語原文をなし得る限り精確に読む。そして内容について逐文逐語的解釈を遂行し、なし得る限り正確でかつ具体的な理解を目指す。これにより、現存在自身の「存在の意味」としての「時間性」(「将来」・「既有」・「現在」の脱自的時間性の統一)、あるいは「現存在の歴史性」というわれわれ一人一人の実存の根本現象について、ハイデッガーの意図をあらゆる先入見を打破しつつ明らかにする。そしてさらに、《自由に思索する者》として、共に考え深めて行きたい。

授業の目的・内容

マルティン・ハイデッガーの主著『存在と時間』をドイツ語原文で精読し、研究的解釈を試みることによって、個人一人一人の、すなわち現存在の「時間性」、そして「歴史性」という現象について考え深め、あるいは「歴史」という概念(「歴史とは何か」)について自らの意見を持ち、自分の言葉で説明できるようになる。あわせて、現象学や解釈学の方法やアプローチにもしたしむ。

授業計画

1 一年間の授業計画、テクストについて、受講上の注意。イントロダクション:『存在と時間』におけるハイデッガーの立場と基本的諸概念について。その他。
2 準備的考察(その1):
「理解することとしての、現‐で有ること」(Das Dasein als Verstehen)(Paragraph,31)
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6 準備的考察(その2):
「理解と解釈」(Verstehen und Auslegung)(Paragraph,32)を読む。
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11 本論:「時間性と歴史性(1)」―「時間性」について:
「開示性全体の時間性」(Die Zeitlichkeit der Erschlossenheit ueberhapt)(Paragraph,68)
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15 第一学期に読んだところの復習。要点整理。
16 本論:「時間性と歴史性(2)」―「歴史性」について:
「歴史の問題の実存論的‐存在論的な概要提示」(Die existenzial ontologische Exposition des Problems der Geschichte)
(Paragraph,72)
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23 本論:「歴史性の根本体制」(Die Grundverfassung der Geschichtlichkeit)(Paragraph,74)
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28 総括:現存在の時間性と歴史性ー『存在と時間』の超越論的・地平的思惟
29 グループディスカッション
30 一年間のまとめ:「転回」Kehre以後の後期ハイデッガーの「性起」の思惟における「歴史概念」を展望するー「存在の思惟」としての「歴史」
受講者の理解の進捗や問題関心の動向などを見、そして受講生の意見や希望を聴きながら、授業内容または進度の一部を適宜変更する可能性がある。

授業方法

参加者全員による訳読形式。そのつどの内容について質疑を行い、討議する。必要な語学的注意と内容的解説を行う。当番制による毎回の記録(プロトコル)の作成と発表

準備学習

演習であるからには、毎回の積極的取り組み(出席、訳読、プロトコル、質疑応答など)、および時間をかけた十分な予復習が求められる(少なくとも毎週1~2日)。ドイツ語の辞書を丁寧にひくことはもちろん、ハイデッガー哲学に独特の諸概念についても、各種の哲学事典、あるいは『現象学事典』(弘文堂)他によって、そのつどしっかり確認してほしい。

成績評価の方法

平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):100%(訳読、プロトコル、質疑応答、ディスカッション、出席状況など)
訳読、プロトコル、質疑応答、ディスカッション、出席状況などを材料にしながら総合的に判断する。なお、平常の取り組みが不十分であると判断される場合には、追加してレポート等を課す場合がある。
※学部生が履修した場合は学部相当の基準で成績を評価し、大学院生が履修した場合には、博士前期課程と、博士後期課程、それぞれの基準で成績評価を行う。

Martin Heidegger, Sein und Zeit, Max Niemeyer Tuebingen
使用テクスト(Martin Heidegger,Sein und Zeit)については、第一回の授業時に指示する。

辻村公一『ハイデッガー論攷』、創文社1971
渡邊二郎『構造と解釈』(ちくま学芸文庫)、筑摩書房1994
マルティン・ハイデッガー『「ヒューマニズム」について』(ちくま学芸文庫)、筑摩書房1997
秋富・関口・的場編『ハイデッガー『存在と時間』の現在』、南窓社2007年、ISBN=9784816503634
木田・野家・村田・鷲田編『現象学事典』、弘文堂
Friedrich-Wilhelm von Herrmann, Subjekt und Dasein, 2nd Edition, Vittorio Klostermann, 1985, ISBN:3465016440
Friedrich-Wilhelm von Herrmann, Hermeneutische Phaenomenologie des Daseins, I,II,III, Vittorio Klostermann, 1987,2005,2008
三宅剛一『ハイデッガーの哲学』、弘文堂1975
渡辺二郎『ハイデガーの実存思想』第2版、勁草書房1985
その他にもそのつど教室で指示する。

第1回目の授業に必ず出席のこと。