舞台芸術批評研究
13C-F-111

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
鴻 英良 講師 4 D/M 通年 5

授業概要

だれもが知っているように、いわゆる「劇評」というような表現の形式は(私にいわせれば、いまの日本ではきわめて悲惨な形で)存在してはいるが、「舞台芸術批評研究」というテーマを掲げるこのプロジェクトにおいて私が試みたいことは、舞台芸術に隣接するそうした因習的な形式の追認と習熟の試みに寄り添おうとすることとは一切かかわりがないということをまず言っておきたい。むしろその転覆を狙うこと、つまり、そのような追認の作業から遠くはなれて、<舞台芸術>というものの本質とその現象過程を、歴史的・社会的な文脈のなかで批評的にあきらかにするための方法を探究することがもくろまれなければならないということを構想するとき、<舞台芸術>に接近していくための試みはいかにして可能かということを実践的に探究する場所と方法を構築すること、それがこの授業の目的である。とはいえ、この授業の題名が「舞台芸術」でも、「舞台芸術批評」でもなく、「舞台芸術批評研究」であるということをどのように考えるかということがここでは問われているのではないかということを、改めて強く意識していきたいと思うということを言い添えておきたい。

到達目標

舞台作品を見たり、戯曲を読んだりして、それについての意見を言えるようになるばかりでなく、他人の批評、研究書、演劇論についても批判的に語れるようになること。

授業計画

1 舞台芸術にかかわった人たち、あるいはそれについて思索し、分析している人たちの文献を批判的に講読するということがこの授業の中心的な課題となるであろう。つまり、この授業はやや形而上学的な思索と舞台芸術批評との関連を探ろうとするものになるであろう。その試みを進めていくためには、現代の重要な舞台作品(ピナ・バウシュやフォーサイス、カントールなど)の実態について知っていなければならないとはいえ、そのようなものに言及することはここではできない。私の意図はそれらの彼方に何を構想すべきかを考えようとすることである。実際、私が取り上げ、分析しようとしている人々は、悲劇詩人、哲学者、思想家、さらに、彼ら・彼女たちについての論考を発表している研究者など多岐に渡るが、それとの関連で言えば、アリストテレスの『詩学』をラカンがどのように読んだか、つまり現代思想とギリシア的理念とはどのような関係にあるのかとか、あるいは『ドイツ悲劇の根源』を書いたベンヤミンの思想においてギリシア悲劇の分析がどのような意味をもっていたのかなどという、舞台芸術といわれるものの哲学的、現代思想的な考察を個々の具体的な場面において追及していった果てにどのような問題系が現われてきたのかということが授業内容になると思われる。つまり、西欧の近代演劇はギリシアの演劇とどのように違うのか、そこにどのような文化的な連続性があるのかといったことを、近代演劇批評とギリシア文献学とを比較しながら考えるということが、舞台芸術批評研究という学問の課題として浮上してくるのではないかということである。今年はとりあえず、アリストパネースとエウリピデスがどのような関連のもとに批評的に語られてきたのかを調査するとともに、それと近代劇批評とはどのように関連するのか、ルカーチやジョージ・スタイナー、あるいはエリック・ベントリーの批評を参照しつつ考えていく。このとき、アリストパネース論を「喜劇と医学」というタイトルのもとで書くことは可能かとか、モンペリエ大学医学博士のフランソワ・ラブレーやモスクワ大学医学部卒業のチェーホフがなぜコメディアや笑いの文学の重要な作家になったのかということを演劇批評の側面から考えていきたい。
2 ソポクレス『オイディプス王』
3 ソポクレス『アンティゴネ―』
4 ボナール『ギリシア文明史』
5 アリストテレス『詩学』
6 アリストテレス『詩学』(その2)
7 ベンヤミン「近代悲劇とギリシア悲劇」
8 ベンヤミン「近代悲劇とギリシア悲劇」(その2)
9 ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』
10 ヘルダーリン「オイディプスへの注解」
11 ヘルダーリン「アンティゴネ―への注解」
12 アリストパネース『騎士』
13 アリストパネース『鳥』
14 ボナールのアリストパネース論
15 アリストパネースと野田秀樹
16 鈴木忠志とギリシア悲劇
17 ホメーロスの叙事詩と新しいギリシア
18 叙事詩から悲劇へ
19 悲劇から喜劇へ
20 長編小説と近代戯曲
21 ドストエフスキーとチェーホフ
22 チェーホフとマヤコフスキー
23 叙事詩と革命
24 メイエルホリドの死
25 日本の明治期における演劇政策
26 日本の近代演劇への批評的展開
27 土方与志の戦前と戦後
28 アングラ演出家たちの演劇的言説
29 アングラに対する演劇的言説
30 まとめ(ホメロスから唐十郎まで)

授業方法

私の授業は、事前には、知識はまったく必要とされない。ある思索的な作業に参画するということだけが要求される。そのためには提示された資料を読み、考えるということ、さらに議論と思索に参画するということだけが必要とされる。何を読むべきかは、教場で指示される。

準備学習

毎回、指示された著作、論文などを読んできて、それについてのコメントを言えるよう努力すること。

成績評価の方法

平常点(クラス参加、グループ作業の成果等):100%(発表、および、授業中の発言が重視される。)
少なくとも年間に4回は発表してもらい、さらに学期末にレポートを提出してもらう。毎回、積極的に発言しているかどうかも評価の基準となる。博士課程前期と博士課程後期は、それぞれ別の基準で評価する。

教科書

教科書などというものはないが、膨大な参考文献が提示されることになる。