※舞台芸術文化論演習


  --舞台芸術は必要か?―--
13C-F-121

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
横山 義志 講師 4 D/M 通年 4

授業概要

舞台芸術は必要か?  ~上演の公共性について考える~
 
「舞台芸術は必要か」という問いは、講師自身が劇場や演劇祭で働き、また演劇研究に取り組むなかで、日々直面せざるを得ない問いとなっている。舞台芸術作品の上演には多くの人の尽力を必要としする。そしてとりわけ20世紀後半以降の世界では、市場経済のなかで採算を合わせることが構造的に困難になってきている。この状況のなかで、公共体(政府や地方自治体など)からの助成や民間の寄付、企業メセナなど、興行収入以外の収入源を活用した活動が増えてきた。それが可能になったのは、市場原理によって淘汰されかねないような舞台芸術活動にも、ある種の「公共性」が認められてきたためである。
 
だが、これは全く新しい状況というわけではない。古代ギリシア・ローマにおいても、あるいは中世・近世の日本においても、様々な種類の舞台芸術が、往々にしてある種の公共事業として上演されてきた。異なるのは、19世紀までの世界においては舞台芸術が最大規模の人々に語りかけうるメディアの一つとして機能していたのに対して、識字率が向上し、印刷メディアが発達し、さらに視聴覚メディアが発展した今日においては、舞台芸術はむしろ比較的小規模なメディアになっているということである。この状況のなかで、私たちは今なお舞台芸術の必要性を訴えることができるのだろうか。この問題を問うことは、授業の参加者自身が今後社会人として、研究者として、アーティストとして表現することの正当性をゼロベースで考えてみることにもなるだろう。(従って、テレビ、映画、マンガ、アニメの方がより「公共的」、といった意見ももちろん歓迎する。)
 
授業の形態としては、この問題をいくつかのサブテーマに分け、議論をしたうえでフィールドワークを行い、さらに議論を深めていく、という演習形式で行っていく。参加者には自ら仮説を立てて態度を決め、ディベートに参加し、自分の意見を表明することが求められる。そのあと、自ら資料を探して検討し、フィールドワークの結果も考慮しつつ、検証可能な論拠に基づいて、最終的な意見を表明してもらう。一つのサブテーマについて、準備ディスカッションと資料チェック・予習・フィールドワーク・資料まとめ・最終討議といったプロセスで、四回から五回の授業時間を使って考えていこう。もちろん議論や研究の過程で意見を変えることも十分にありうるだろう。
 
サブテーマについては、以下のように提案してみたが、受講者の興味関心に応じて決めていく。
1.歌い、踊り、演じることは(今なお)人類にとって必要なのか?
2.劇場・演劇祭は必要か?
3.舞台芸術を公的資金で支援することは必要か?
4.(公的・私的を問わず)どんな舞台芸術を支援すべきか?
5.舞台芸術において表現の規制は必要か?
 
ここではとりわけ"Think hard"(=「しつこく考える」)の習慣を身につけてほしい。どれだけ自分に納得がいく結論が得られるかは、問題へのそれぞれの取り組み方にかかっている。そして舞台芸術が今世紀を越えて生き延びられるかも、我々一人一人がどのような社会を欲するかにかかっている。

授業の目的・内容

この授業の最大の目的は、参加者各自が信頼できる資料やデータをもとに自分の意見を構築し、表明し、周囲を説得するスキルを身につけることにある。その際には当然、資料の扱い方の公正さも求められる。企業で働くにしても、公務員になるにしても、研究者やアーティストになるにしても、この経験が役立つことになるだろう。
もちろん、舞台芸術に関心がある参加者にとっては、舞台芸術に関する知見や分析の方法を身につけてもらえるようにしたい。

授業計画

1 オリエンテーション/サブテーマ・フィールドワークの検討
2 1.歌い、踊り、演じることは(今なお)人類にとって必要なのか?/準備ディスカッション
3 1.歌い、踊り、演じることは(今なお)人類にとって必要なのか?/資料検討・予習・フィールドワーク準備
4 1.歌い、踊り、演じることは(今なお)人類にとって必要なのか?/フィールドワーク
5 1.歌い、踊り、演じることは(今なお)人類にとって必要なのか?/資料の分析と再検討
6 1.歌い、踊り、演じることは(今なお)人類にとって必要なのか?/発表・最終討議
7 2.劇場・演劇祭は必要か?/準備ディスカッション
8 2.劇場・演劇祭は必要か?/資料検討・予習・フィールドワーク準備
9 2.劇場・演劇祭は必要か?/フィールドワーク1
10 2.劇場・演劇祭は必要か?/フィールドワーク2
11 2.劇場・演劇祭は必要か?/資料の分析と再検討
12 2.劇場・演劇祭は必要か?/発表・最終討議
13 3.舞台芸術を公的資金で支援することは必要か?/準備ディスカッション
14 3.舞台芸術を公的資金で支援することは必要か?/資料検討・予習・フィールドワーク準備
15 ふりかえり
16 3.舞台芸術を公的資金で支援することは必要か?/フィールドワーク
17 3.舞台芸術を公的資金で支援することは必要か?/資料の分析と再検討
18 3.舞台芸術を公的資金で支援することは必要か?/発表・最終討議
19 4.(公的・私的を問わず)どんな舞台芸術を支援すべきか?/準備ディスカッション
20 4.どんな舞台芸術を支援すべきか?/資料検討・予習・フィールドワーク準備
21 4.どんな舞台芸術を支援すべきか?/フィールドワーク
22 4.どんな舞台芸術を支援すべきか?/資料の分析と再検討
23 4.どんな舞台芸術を支援すべきか?/発表・最終討議
24 5.表現の規制は必要か?/準備ディスカッション
25 5.表現の規制は必要か?/資料検討・予習・フィールドワーク準備
26 5.表現の規制は必要か?/フィールドワーク
27 5.表現の規制は必要か?/資料の分析と再検討
28 5.表現の規制は必要か?/発表・最終討議
29 まとめ・討議
30 ふりかえり
フィールドワークについては「その他」を参照。

授業方法

毎回ディスカッションを行うので、議論に参加していただくのが履修の条件となる。テーマやリサーチの進め方自体についても、積極的に意見を表明して、行動に移していただきたい。

準備学習

議論に参加するためには、関連資料に目を通しておくことが必要になる。また、自分で資料を探すことも重要。一時間程度の予習を想定していただきたい。

成績評価の方法

レポート:40%(授業の理解度、選んだ主題の興味深さ、説得力)
毎回の授業への参加度:20%(議論・リサーチを進めることに貢献しているか)
授業内での発表:40%(議論の説得力、内容や資料の扱い方の適切さ)
最も重要なのは、「問題に対して結論を出すことにどれだけ貢献できるか」ということ。これには、問題自体を適切に設定すること、そして他の参加者の意見を聞き、他の参加者にも納得できる意見を表明することも含まれる。通常授業では参加者全体としての結論を出すことを試みるが、最終レポートは個人の関心に沿って、個人的な見解を表明していただく。
博士課程前期と博士課程後期の学生はそれぞれ別の基準で評価する。学部学生は学部科目の基準で評価する。

参考文献は参加者とともに検討していく。

履修者数制限あり。(20名)
第1回目の授業に必ず出席のこと。

授業の内容やサブテーマは受講者の関心に応じて考慮したいので、第一回の授業には必ず参加していただきたい。
フィールドワークでは、都内の劇場や文化関連団体を訪問することを考えているが、これも受講者の関心に応じて決めていく。通常の授業時間と異なる時間になる可能性も高く、交通費(電車代)等は受講者の負担となることをご了承いただきたい。