2002年5月、FIFAワールドカップKOREA/JAPANがついにその幕を開けた。
史上初のアジアでの大会、それも二カ国共同開催ということで、この世界的大イベントは間違いなくサッカー新時代のターニングポイントとなるだろう。
その歴史的大会の開幕戦は、フランスVSセネガルというカードだったのだが、このゲームがさらにサッカーの歴史を揺るがした。ディフェンデリングチャンピオンのフランスをやぶり、セネガルが勝利を収めたのである。この奇跡といっても過言ではない事態は世界中を沸かせた。そのため、最近はセネガルという国名を耳にする機会はだいぶ増えたのだが、それ以前のこの国の知名度はあまり高くはなかったのではないだろうか。
セネガルという国は、西アメリカに位置する国で、首都はダカールである。私はこの国を、中田正一という人物の活動を通して知った。彼は、九州大学を卒業後、農林省に入省、農業改革普及事業に従事。定年退職後、海外での農業協力や奉仕活動を志望する者を対象とした「風の学校」という教育機関を主宰する。年譜的にはこのような経歴を持つ人物なのであるが、彼とセネガルという国を結びつけるのが、「技術協力」なのである。
セネガルの気候条件はかなり厳しい。気温が40度近くまで達することもさながら、もっとも深刻なのは、水不足である。この事実を実際に現地に滞在したときに痛感した中田氏は、「手掘りの井戸掘り技術」を開発し、セネガルの水事情の改善に大きく貢献したのである。このボランティア活動の注目すべき点は、相手の国の実情に見合った技術協力を行ったということである。セネガルのような援助をされる側にとって必要なのは、金ではなく人であり、物であるより技術なのである。こういった「セオリーにのっとった技術協力」を今実際に行うことをできている先進国の政府機関や団体は一体どれだけあるのだろうか。
文化も人種も暮らす土地の風土もまったく異なる国同士がこのような技術協力をするにあたっては、異文化理解の問題をはじめ、コストの問題などさまざまな難題がついてまわるため、実際に活動を行い、中田氏のように成功を収めるのは大変困難なことである。
しかも、たとえいくつかの活動が成功させることができたとしても、世界中の貧富の差を解消するという最終目標到達までにはあまりにも小さな一歩かもしれない。しかしどんなに小さなことだとしても、はじめなければ何も変わらない。だから、この共同研究において、私たちは日本をはじめとする先進国における過去、そして現在の国際協力の実情とその問題点を検討し、最良の技術協力とは何かということについて考えていきたいと思う。