国際コミュニケーション演習ⅠR 榎戸 優香
「若者はなぜ携帯小説が好きなのか」
『恋空』という恋愛小説は、若者を中心に話題を呼んだ。この人気の発端には「ケータイ小説」
の存在を忘れてはならない。若者の活字離れが叫ばれている今、「ケータイ小説」がなぜこんなにも
受け入れられたのか。
今や、携帯電話は人々の必需品である。若い人たちは特に、携帯電話を使いこなし、友達とのコミュ
ニケーションの手段としているだけでなく、ひとりでいる時でも携帯電話を暇潰しとしている。また、
料金定額制のパケット使い放題のプランが普及し、いくらでもサイトの閲覧が可能になった。電車の
中や待ち合わせの間など、携帯電話は手放せないものとなっている。このような状況の中で「ケータイ
小説」というサイト上に書き込まれた恋愛小説は、若者の興味を集めている。
ケータイ小説の特徴は、メールのような日常で使っている文体であり、頭に入りやすいものである。
書籍化されたものでも、大きな文字で書かれ、難しい漢字も使われていない。また、時代背景や情景
描写が少なく簡潔に書かれ、若者に親しみやすいのである。この親しみやすい文体である理由には、
ケータイ小説は素人の作品ということが挙げられる。携帯サイトは誰でも小説を書き込むことができ、
自由な表現、自由な発想が大勢の人に簡単に公表できるようになった。その上コメントがしやすく、
反応がすぐに返ってくる。本来、マス・コミュニケシーションの短所として、テレビや新聞などでは
受けてからのフィードバックが限定されていることが指摘されていた。この短所を克服したのがケータ
イ小説である。
その一方で、ケータイ小説とは、若者が作り出した「文化」であることも事実だ。書籍である小説と
は全くの別もので、メールやブログの日記感覚で読める。それが、若い人達に受け入れられたのだ。
だが、ケータイ小説にすべて賛成できるわけではない。内容としては、『恋空』も現代っ子に受けそ
うな、死や性犯罪などの問題が取り入れられ、ワンパターン化している。この作品以外にも
『Deep Love』というベストセラーのケータイ小説も似たような要素で描かれている。他にも援助交際
の問題を取り扱い過激な表現のものが多い。
また、ケータイ小説は文章を読むきっかけにはなるが活字離れの克服にはつながらないと思われる。
内容もどれも同じようで、感動はするが啓発的なメッセージが感じられず、後に考えさせられるものが
ない。その意味で、ケータイ小説は単なるエンターテイメント的な要素でしかない。せっかくのケータ
イ小説でのパブリックアクセスという、これまでメディアの受けてであった一般の人々が、自らの考え
や意見を活用して主体的に表現できる活動の場であるのにもったいない。若者目線だけの「恋愛小説」
でなく、様々なジャンルの小説を積極的に書き込んでほしい。出版業界が低迷している中、ケータイ小
説からの書籍化は多い。ケータイ小説では、リアルタイムで人々の口コミや批評が繰り広げられ、
ここから更なる名作が生まれる希望がある。私は、出版社はケータイ小説に期待していると思う。
たしかに、批判はあっても、ケータイ小説はまだまだ見逃せない。