広めよう数学教育における視覚的教材
グラフィクスを動かして経営数学の基本を直感的に理解する!

2012年7月11日記   学習院大学経済学部教授 白田由香利

Skip Japanese explanations to obtain the Wolfram CDF materials!

私(白田)は.長年に渡って経済学部の学生相手に経営数学を教えており. いかに多くの学生が数学を苦手と感じているか.そのような学生に 数学を教えることがいかに難しいか.そして.Mathematica等のソフトウェアを 使った視覚的な説明がいかに効果的であるかを痛感していました.

そして,2011年震災の前の2月以来, 「3次元グラフィクスを動かせるe-Bookを出版したい」という思いを 著者一同募らせていました.しかし.電子出版の動きが欧米に比べて遅い日本では, なかなか話が進みませんでした.そのような折.Mathematicaの世界で有名な 松田裕幸氏から,松田氏が『Mathematicaクックブック』(オライリー・ジャパン,2011年) を出版した時.DTPをすべてMathematicaで行った話を伺いました. そして.オライリー・ジャパンに企画を持ち込み, こうしてe-Book「感じて理解する数学入門」が完成するに到りました.

このe-Bookのコンセプトは, グラフィクスを動かして経営数学の基本を直感的に理解する! です. オライリーのサイト(の関連ファイルのところです) で,CDFマテリアル(プログラムのようなものです)を無料ダウンロードしてきますと, 本を買わなくても,3次元グラフィクスが無料で楽しめるます.

この本にとって技術的課題は数学ソフトウェアの問題でした. 数学ソフトウェアは非常に高価であるので,なかなか買えるものではありません. しかし,世の中の進歩は素晴らしいです. ウルフラムCDF playerが無料で提供されるようになりました.これにより, Mathematicaをもっていない人でも.ウルフラムCDF player(プレーヤー)を ダウンロードすることで,CDFマテリアルが無料で動かせるようになりました. ウルフラム社というのは,Mathematicaを作っている会社です. CDF playerのような素晴らしいソフトウェアが,無料ダウンロードできるとは, 本当に有り難いことです. ウルフラムCDF playerを使わせて頂くことで,どうやってグラフィクスを 動かすか,という問題が解決しました. e-Bookで,ウルフラムCDFマテリアルをWEBで提供しているものは, 多分この本が世界で初だと思います.

本書の特長をまとめますと, 数学ソフトウェアは,ウルフラム社のCDF playerを用いています. このソフトウェアもウルフラム社のサイトから無料ダウンロードできます. 本中の全てのCDFマテリアルのサンプルは,オライリーのサイトから無料ダウンロード できます. つまり,実は,中身検索の気分で,この本の全てのグラフィクス(CDFマテリアル)は, 無料で,手元で試しに動かすことが可能です. 学生の皆さんにもそれを説明して,使ってみることを薦めるのですが, そこの仕組みがなかなか理解されないようで,もどかしいです.

最近の日本の学生の皆さんの数学力の低下は,各所で問題化しています. 世の中の何が原因で,このような窮状になってしまったのか,頭をかかえてしまいます. 一筋縄では解決できない深い深い問題だと思います.

数学が苦手の学生の皆さんにとって 数学プロセスの理解は難しいものですが,ビジュアルに グラフィクスを動かしてみることで,つまり,スライダーバーで金利の値を動かしたり, 3次元グラフィクスをクルクル回転させて,視点を変えてみたりすることで, 数学プロセスが馴染みやすいものになってきます. 例えば,もう少し金利が上がった場合,債券の価格はどれだけ下がるか, というようなことが,スライダーを動かしながら目視で確認できます. これは,本当に分かりやすいです.

本書の出版の意図は,数学教育における視覚的教材を日本でも普及させたい, という願いです.願っているだけではいけない,とドタバタ走り回って, ようやくこのe-Bookの出版にこぎつけました. 悲しいことですが,欧米に比べて,数学ソフトウェアの教育現場への普及 において,日本は遅れているように思います. 数学教育において,可視化は有効な手段です. 数学プロセスを,グラフィクス教材を使って教えることで, 今まで理解できなかった学生さんも分かるようになってきます. 理解できる層の下のスレショールドを下げることが可能となります.

例えば,制約付き最適化問題は,代数学的にはラグランジェの未定乗数法で解きますが, ラグランジェの未定乗数法は,少し難しいかもしれません.しかし,この本の マーシャルの需要関数の例のように, 3次元グラフィクス上で,スライダーで所持金の金額を動かしながら, 満足度の最大点が移動する様子を見るとします. 「制約条件は,このような平面になるのか.この平面と,満足度の 曲面のインターセクションが取り得る値の範囲になるのか」と スライダーを動かしながら見ると,その後で,もう一度,ラグランジェの 未定乗数法にむきあったとき,先ほどよりも,よく分かるようになります.

繰り返しになって申し訳ないのですが, 本書の中の動くサンプルは.CDFファイルの形式で本書のWebページ 上に用意しましたので.無料でダウンロードできます. ぜひダウンロードして手元で動かしてみてください.

この本は,電子版だけで紙媒体はいっさい在りません. ソーシャルネット上でこのe-Bookを「革新的」と評してくださっているかたが いらっしゃいました. 確かに,革新的かと思います.このようにした理由は, 本の趣旨が グラフィクス教材を動かしてもらうこと だからです.紙媒体で読んでいるだけでは,効果ありません. (本当は,本の本体にCDFマテリアルを埋め込みたかったのですが, 現段階ではそれはできませんでした.次回はぜひ,そうした形態の 本にしてみたいです). 紙で数式をじっくり眺めたい読者のかたは, DRMフリーですから,その部分だけを印刷すればよろしいかと思います. PDFファイルは,印刷を禁止したり,コピー&ペーストを禁止するセキュリティ 機能がありますが,この本はDRMフリーなので,紙印刷は可能です. 私が思うに,あと2年もすれば,数学グラフィクス教材が埋め込まれている e-Bookが普通になってるのではないかと予想します. 現在でも,欧米では,CD付の数学書籍が多数出版されています. 問題は,世界的なデファクトスタンダードの数学ソフトウェアで, 無料ダウンロードが容易にできるものが 今までなかったからだと,私は思います. その点で,ウルフラム社のCDF playerの無料ダウンロードサービスに 深く感謝しております.本当に有難いことです.

この本が形になるまで協力してくださった方々の話を少しさせてください.

まず,自己紹介からです. 白田は毎日のように.大学の経済学部で数学を教えています. 好きなことは.数学のグラフィクス教材を作ることです. そのグラフィクス教材で,数学が分からなくて困っていた学生のかたが理解して, にっこりしてくれると.本当に嬉しいです.

この本は,白田の趣旨に賛同してくれた,協力者の方々の熱い思いに支えられて, 出版に至りました. セカンド・オーサーの橋本隆子先生とは長年の友人で, しばしば学会に一緒に参加してします. たまたま,2010年4月.ケンブリッジ大アイザック・ニュートン数学研究所で開かれた Women In Math 2010にも一緒に参加していて,そこでアイスランドの火山が爆発して, ヨーロッパじゅうで飛行機が飛ばなくなり, オックスフォードに足止めされました.本書でも.その経験を書いています. (じつは,本文の語りは実話だったのです)

飯高茂先生は.代数幾何学の世界的な研究者で.故 小平邦彦教授の正統な後継者として 世界的に有名な数学者です.今回.本の執筆で数学教育についてお話を多数伺えて. 本当に勉強になるとともに,数学の面白いお話が伺えて楽しかったです. 今回,白田と橋本先生の「グラフィクスを動かせるe-Bookが出したい」という願い にご協力頂けましたこと,本当に深く感謝しております.

石川達哉先生(学習院大学経済学部特別客員教授)には, 経済学者の視点から原稿を読んで頂き, 貴重なアドバイスを多数頂きました.深く御礼申し上げます.

この本の命は.動くグラフィクスです. ですから是非とも.CDFプレーヤーをダウンロードして動かしてください. 動かせば.今までと全く異なる楽しい数学グラフィクスの世界が広がるのではないかと思います.


ここまでお読み頂き,本当にありがとうございます.

皆さまのお役に立ちそうなマテリアルを以下に紹介します.

  1. とりあえず何か読んで見たいかた    中学生から理解する金利の計算
  2. 3次元アニメーションの視覚的教材を見たいかたに,教材サイト
  3. 論文は, 学習院大学経済論集,CiNiiなどで検索してください.

English version of CDF materials in the book titled
“感じて理解する数学入門”

I am afraid that this e-Book is written in Japanese. You can execute every Wolfram CDF material in this e-Book which is available with no charge from the O'Reilley site. However the explanations in the CDF materials are written in Japanese. Then I translated them to English. I would be grateful if you English readers could enjoy the English version of the teaching materials which are facilitated with a slider.

Our CDF materials in English
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