新規発光材料の光励起によるエネルギー移動過程とその機構

 近年、照明やディスプレイなどに利用される蛍光体の研究が盛んに行われています。Pr3+をドープした酸化物蛍光体はまだ実用化には至っていませんが、次世代の発光ディスプレイ用の材料として期待されています。Pr3+をドープした酸化物蛍光体はバンド間遷移による発光を示します。ホスト価電子帯から伝導帯に励起された電子はドーパントの励起状態にエネルギー移動をして,ドーパントの基底状態に移動してきたホールと再結合して発光します。わたしたちはピコ秒時間分解発光分光法を用いて、ホストからドーパントへのエネルギー移動過程について研究を行っています。

 LaInO3:Pr3+は新規無機発光材料として化学科の稲熊研究室で合成されました。結晶構造を図1に示します。LaInO3に少量のPr3+をドープするとLaがPr3+と置き換わります。このドープされた試料に紫外光を照射すると緑白色の発光を示します。光照射時にはまずホストであるLaInO3のバンド間遷移が起こり、次にエネルギー移動によってドーパントであるPr3+の励起状態へと緩和し、この準位から発光します(図2)。わたしたちはストリークカメラを用いたピコ秒時間分解発光分光法によって、LaInO3:Pr3+の発光特性のドーパント濃度依存性を調べ、ホスト伝導帯からドーパント準位へのエネルギー移動機構について研究しています。
図 1 LaInO3:Pr3+の結晶構造
図 2 LaInO3:Pr3+のエネルギーダイアグラム

 図3にLaInO3:Pr3+(0.5%)の時間分解発光スペクトルを示します。光照射時(0 ps)にはブロードな発光帯が観測されました。これはホストであるLaInO3の発光です。時間が経つにつれて500 nm 付近のPr3+の発光が立ち上がってくることが分かります。立ち上がってくるピークの高さを遅延時間に対してプロットすると単一指数関数で近似でき、その時定数は105 psでした。また発光波長340 nm 〜 470 nmでのLaInO3の発光減衰は二重指数関数で近似でき、速い成分の減衰の時定数は61 psでした。この結果から、Pr3+の発光の立ち上がりの速度は、ホスト価電子帯からドーパント基底状態へのホール移動によって決まっていることが示唆されます(図4)。
図3 LaInO3:Pr3+(0.5%)の
時間分解発光スペクトル         
図4 LaInO3:Pr3+のエネルギー移動機構


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