フェムト秒時間分解近赤外分光計による
直線二色性測定で明らかにする電子状態の異方性緩和の動力学

 光触媒として知られている酸化チタン(TiO2)に紫外光を照射すると、負電荷の電子と正電荷の正孔が生じます。それらの電子と正孔がTiO2粒子表面で化学反応を起こすことにより、表面クリーニング、空気清浄、環境汚染物分解、防曇など実生活に役立つ効果を得ることができます。
 私たちは、本研究室で製作したフェムト秒時間分解近赤外分光計を用いて、TiO2粒子内で電子‐正孔対が生成してから、それらのキャリアがどのように動いていくのかをフェムト秒の時間スケールで観測しています(図1)。なお近赤外光はTiO2粒子の光散乱の影響を受けにくく、可視光と比べて透過率が高いため、フェムト秒領域での測定を行うことが可能です。
 
図1 酸化チタン粒子中での電子と正孔の動向

 本研究では、偏光測定を行うことでTiO2の吸収異方性を算出しています。吸収異方性rは式(1)のように表されます。
 吸収異方性の概念図を図2に示します。TiO2粒子に水平偏光のポンプ光を照射すると、水平方向に分極します。このとき、TiO2は図2(b)の吹き出しのように分極していると考えることができます。ここで水平偏光と鉛直偏光のプローブ光を照射し、それぞれの吸光度ΔA⁄⁄, ΔAを得ます。ここでTiO2の電子状態の吸収異方性を式(1)により算出すると、ΔA⁄⁄ΔAに差がありポンプ光照射の瞬間には吸収異方性が存在することが分かりました。同様にポンプ光照射から数十フェムト秒後にプローブ光を照射すると、ΔA⁄⁄ΔAに差がなくなり吸収異方性が緩和することが分かりました。
図2 TiO2電子の吸収異方性の概念図


図3に典型的なTiO2の吸収異方性スペクトルを示します。試料には日本触媒学会から配布されたJRC-TIO-11(アナタース:ルチル=1:9)を使用しています。 ここからTiO2は時刻0において吸収異方性を持ち、それが約50 fsで緩和することが分かりました。  今回観測されたTiO2における近赤外吸収異方性およびその緩和過程の詳細は、TiO2の電子状態およびTiO2中でのキャリアの生成・緩和機構を解明するための重要な知見となるであろうと考察を進めています。

                                  図3 TiO2の吸収異方性スペクトルの例

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