OHP の書き方について
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田崎晴明
last modified: 10/23/2001
file created: 10/23/2001
ここでは、OHP のまとめ方について、いくつか言いたいことを書いておこう。
コンピューターを使ってプレゼンテーションを作成する場合にも以下の注意はあてはまる。
OHP 学 --- 基礎編
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OHP シートに書く前に、構成と内容をじっくりと練ること。
私は、
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紙に構成を書き出して、 吟味する。
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大ざっぱな下書きを、
OHP 用紙と同じ大きさの A4 の紙に本物と同じ大きさの字で書く。
その際、以下に列挙する注意点を守る。
(この時点で、分量の目安ができるので、どの程度詳しく書くかなど
構成のことを考える。
この時点で、指導者にチェックしてもらうのもよい。)
ことを勧めている。
これをくり返して、ある程度、満足のいくものができあがってから、
はじめて OHP 専用のペンを手にするといい。
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大きな字で書く。
実際に投影された状況を考えよう。
数式を書く際には、添え字を小さくし過ぎないように注意。
(私見だが、OHP では印刷よりも添え字を(相対的に)大きめに書いた方が読みやすい。)
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できる限り小見出しをつける。
OHP の一番上を見たときに、
「反応実験の例」
「固有状態の求め方」
「装置の概略(・・研究室のもの)」
などと書いてあれば、話を聞き逃した人でも、
いつでも何の話をしているのかがわかる。
(いつでも実現できるわけではないが、
「一枚の OHP で一つの小さな話題が完結する」という構造は発表にとっては望ましい。)
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重要なことは、多少こまかくても必ず書き込む。
装置のサイズ、実験条件、モデルについての重要な仮定、など、知らないと話が通じなくなりかねない重要なメッセージを、単に口頭で述べるだけの人が非常に多い。
発表用の原稿に書いてあるからオッケーと思っているのかも知れないが、文字に比べて口頭での情報伝達の精度は、極めて低い。
口でぱっと言われても聞き逃すことが多いのだ。
加えて、発表の際には頭の働きがいつもと変わるので、必ず言おうと思っていたことを言い逃してしまうことも少なくない。
(実は、ぼくくらい場数を踏んでいても、そういうことはなくならない。)
きちんと OHP に書いておけば、そんな心配もない。
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上で紹介した木下先生の本の p.222-223 に、発表用のスライドの例がある。
スライドは、準備にも時間がかかり、スペースも横長なので、
現代の OHP とはかなり感覚が違う。
木下先生の例の (A)-(D) を OHP に
書くのなら、やはり、それぞれ簡潔な小見出しが必要だと、私は考える。
また、式ばかりの (C) のスライドには、
いくつかの式の意味を示すことばがほしい。
「文章を書くべきではない」という点は、
スライドも OHP も同じである。
簡潔に書けばよい。
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内容が変わったら、シートの途中でも気にせずに新しいシートに移る。
余白(余透明)ができるのは何ら問題ではない。
新しい小見出しのついた新しいシートに移ることで、
聴衆にも内容が変わったことが一目でわかる。
さらに、こうしておけば、構成の変更、内容の書き直しなどが容易にできる。
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早めに OHP を書いて、発表の練習をすること。
人に聞いてもらうのがよい。
そして、欠点がみつかったら、労を惜しまず、必ず書き直すこと。
細かい修正で逃れようとすると、かえって悪いものになる。
OHP 学 --- 技術編(書きかけ)
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OHP にかいたものは、消しゴムで消すこともできるのだが、
見た目で消えていても、
実際にスクリーンに投影すると、
消した跡が灰色の(でかでかとした)影になってしまうことが多い。
一度、スクリーンに投影して、どうなっているか試してみよう。
個人的には、やはり溶媒で溶かして消すのが一番いいと思っている。
いろいろな製品がでていると思うのだが、どうも近場で適切なものを売っていない。
ぼくは、コンビニで買った安物の除光液(←買うのはちょっと恥ずかしい)を使っている。
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OHP シートに専用のペンでかきこんでいくと、
たとえば、文字に別の色で下線をひいたり、
図やグラフを複数の色で描いたりしたとき、
後からかいたペンが前のペンの跡を溶かし色がみにくく混ざってしまうことがある。
これは、OHP の致命的な欠点である。
これを避ける簡便な方法は、ふたつの色が交差しそうなときは、一方を OHP シートの裏側にかくことである。
(たとえば、式を記入し終わったあとに、裏返して、強調すべきところにオレンジの線をひく。)
数式について
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自分で理解していない数式を書くのは犯罪行為である。
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たとえ理解していても、膨大な数式を見せるのは、聴衆に負担をかけることを忘れてはいけない。
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数式の「意味」を明らかにすること。
かなめになるいくつかの数式を書くのは重要なことである。
しかし、単に数式を羅列しても発表にはならない。
それらの数式がどのような意味を持っているのか;
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実験事実に基づく仮定なのか
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推理に基づく予想なのか
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他の知識から導かれたのか、などなど
また、複数の数式がどう関わり合うのか;
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後の式は前の式から導かれるのか
(その場合にも「・・を・・に代入すればすぐに・・がでる」のか「新しいことは使わないが、面倒な計算を30ページくらいすればでる」のかなど)
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後の式は、あらたな仮定なのか、などなど
といった数式の間の論理的な関連をはっきりと示さなくてはならない。
こういった事を自ら理解し、口頭で説明するのももちろんだが、
OHP を見ただけである程度の情報が伝わる工夫もほしい。
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数式の扱いにメリハリをつけること。
単に導出を理解させるための数式と、
それ自身、深い物理的な意味・意義をもつ重要な数式とを明確に区別すべきである。
後者については、枠で囲むなどして浮き立たせる他、
「磁化率とゆらぎを結ぶ重要な関係」のように物理的な意味を言葉で明示するといい。
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発表を聞きながら複雑な式を記憶できる人はほとんどいない。
OHP の発表で、数式に番号をつけて「式(23) と (36) を (17) に代入すると、
次の式が出ます」
などと書いても(言っても)何の意味もない。
以前の OHP に登場した式をどうしても使う必要があれば、
労を惜しまずにもう一度書く。
(プロの場合は、以前の OHP を横に置いておき、それを再び見せるということをする。
しかし、不慣れな人がこれを真似るとひどいことになるので、避けた方がよい。)
書くほどでなければ、番号で引用するのではなく、式の内容を言葉で表現するなどの工夫をせよ。
OHP 学 --- 思想編 その1「寝ていた人に優しい OHP」
発表用の OHP をまとめるときは、
果たして、この OHP は、寝ていて急に目が覚めた人に優しいだろうか?
と自問することをすすめたい。
「寝ていて急に目が覚めた人」は、発表の流れを見失っているし、これまで口で説明した様々の詳細なども知らない。
(そもそも、自分が大輪講にでていたこともしばらく気付かないかもしれない。)
そういう人が「社会復帰」しようとして必死で今投影されている OHP を読むとしよう。
そうすることで話の流れを(ローカルにでも)すばやく把握できれば、ともかくそこから先の話を聞くことができる。
聞き続ければ、だんだん全体像も見えてくるというもの。
こういうことが可能になるような OHP を書きたい。
上の「OHP 学 --- 基礎編」述べるような注意を守れば、これはかなり達成されると思う。
言うまでもないけれど、「急に目が覚めた人」に優しい OHP は、「一瞬ぼおっとしてしまった人」にも優しいし、「真面目に聞いている人たち」にはもっと優しい。
気合いの入った大輪講の発表は本質的に難しい内容を含んでいるはずなのだから、発表では徹底的に聞き手に気を使うべきだ。
(内容を甘くするのではなくて。)
しかし、「急に目が覚めた人」に優しい OHP を作ることで、もっとも得をするのは、発表者自身なのだ。
どんなに根性のある人でも、公の場での発表をするときは緊張し、頭の働き具合がいつもとは微妙に変わってくる。
覚えていたはずのことがふと思い出せないこともあるし、事前には絶対に言おうと思って練習していたことをころっと忘れたりもする。
最悪の場合は、頭がパニックになって、話の流れを見失うことさえある。
そんなときでも、「『急に目が覚めた人』に優しい OHP」があれば、大丈夫。
目が覚めたつもりで自分の用意してきた OHP を見れば、今は何の話をするときなのか、ここで説明すべきは何なのかが、自動的に思い出されるはず。
「『急に目が覚めた人』に優しい OHP」は、「『パニックになった自分』に優しい OHP」でもあるのだ。(ちょっとくさいか。)
ところで、別に人の発表の間に寝てもいいと言っているのではないので注意。
OHP 学 --- 思想編 その2「物語を語る OHP」
ええと。
また書くかな?
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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