大輪講での発表について
last modified: 10/4/2021,
file created: 11/1/1999
田崎晴明
大輪講での発表とそのための準備に関して、
最低限、心にとめておいてほしいこと、注意してほしいことを、
私なりにまとめる。
(これは、私が web 上での公開を前提にして、
コンピューターの画面を見ながら短時間で書き下ろした文章である。
書き足りないことはたくさんあるので、(暇はないが)暇をみつけては、
細かい修正や書き足しを行なっている。
みなさんも、この文章はわざわざ印刷はせずに、
web 上で読んで、いくつかの点を頭に入れてもらえれば充分だろう。)
発表のスライドの作り方については、私が書いた「発表スライドについての基本的なルール」を参照してほしい。
以下の文章は(何せ、最初に書いたのが 1999 年だから!!)会場での対面の発表会を想定して書いたわけだが、ほとんどはオンライン発表会でも同じだ。少しだけオンライン発表会に関わることも付け足しておいた。
発表するために、どのように素材を吟味し、どのように構成を練るか ---
といった一般的なことがらについては、この文章では議論しない。
(それには、様々な流儀があるし、いずれにせよ、
こんな短い文章ではどうしようもない。)
こういった側面については、
木下是雄先生(簡単な紹介)の
「理科系の作文技術」(中公新書 624)をすすめる(実は、この木下先生の息子さんが、有名な生物物理の研究者の木下一彦先生。西坂さんのポスドク時代のボスだった人です)。
題の示すとおり、理科系の「仕事の文書」を書くための心構えや技術を述べた本だが、
口頭発表の準備にも大いに役に立つ。
大輪講とは切り離しても、一度は通読しておくべき本である。
さいきんは、(今みなさんが読まれているぼくの文章をはじめ)web 上で発表についての心構えなどを解説したページがふえている。
秋田大学の後藤文彦さんによる良いプレゼンと悪いプレゼン(準備中)(←この分量でまだ準備中か・・)は、とてもよく書けています。ちょっと長いけど。
最大のこつ
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いざ発表となって演台に立ち、あるいはパソコンの画面共有が立ち上がると、かなり根性のある人でも頭の中が真っ白になることが多い。
しかし、完璧な準備をしておけば、そうなったとしても、パニックにならずに完璧に近い発表をすることができる。
これは、多くの先輩が認めるところである。
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そのためにも、
早めに準備して、
くり返し発表の練習をし、その反省をもとにスライド書きかえる。
そして、またくり返し練習する。
これしかない!
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練習するときは必ずタイマーを見て時間を測り、本番でも同じタイマーを使う。
スマホのタイマーでもいいし、キッチンタイマーを使う人もいる。なんでもいいので、20 分がきっちりとわかるように用意する。
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ここだけの話だが(といっても web で全世界に公開しているわけだけど)学習院の物理学科のみなさんは、総じて、日本人の平均よりもはるかにプレゼンテーションの能力が高いとつねづね感じている。
もともとそういうのが得意な人が多いというのもあるのかもしれないが、やはり、実験3の発表、大輪講、卒業研究発表といった「本番」を、念入りに準備したうえで、こなしているという経験が大きいのではないだろうか?
みなさんも先輩たちに負けないよう、しっかりと発表の準備をし、高いプライドをもって堂々と発表を楽しんでほしい。
基本的な心構え
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これだけの環境でまとまった時間の発表を行なうというのは、
物理学の学習という範囲を越えて、
みなさんの人生において非常に貴重な体験になるはずだ。
そのつもりで、心してのぞんでほしい。
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大輪講は、指導教員の前での口頭試問ではない。
聴衆として想定すべきなのは、
三年生までの物理学科での教育をきちんと身につけてきた四年生の
学生である。
彼女ら・彼らに、自分が勉強している・研究しているテーマの意味・面白さを、
正確に、かつ生き生きと伝えることが最大の目標である。
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たとえば、専門的な論文をいくつか読んで、そのまとめを発表するとしても、
単にその論文の正確な解説をすればいいというわけではない。
そもそも、発表を始める前に、
これから考えようとしているテーマが、
これまでにみなさんが身につけてきた物理学の体系の中でどのように位置づけられるのかを、
正確に把握していなくてはならない。
それは、専門の論文を読むだけでは、達成できないことに注意してほしい。
これまでの自分の知識を整理し、必要な事項を復習あるいは学習し、
研究室のメンバーや同じ四年生と話し合い、
そして、自分なりに深く考える --- ということを、くり返す必要がある。
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自分自身が、その論文を読みこなすのに、どのような予備知識が必要だったか、
特に、講義等では学ばなかったどのような知識を身につける必要があったかをじっくりと反省してほしい。
話を聞いてくれる他の四年生にはそのような知識はないのだ。
そして、できる限り、講義等の知識と関連させながら、
単なる「お話」に終わらない正確な知識を伝えることを目指してほしい。
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よって、「×××の講義で、○○ということを習ったのを思い出して下さい。
ここでお話しする△△は、この○○を次のような意味で拡張したものになっています。
つまり・・・」
というような話し方をするのが望ましい。
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だからといって、講義で習ったような話をしつこくくり返すのは、
時間の無駄であり、望ましくない。
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この時期になると、それぞれの研究室の空気にどっぷりと浸かっている人が
ほとんだろう。
だからといって、研究室でしか通用しない「業界用語」を連発するのは許されない。
4月の自分を思いだして、何が物理学の「共通語」で何がそうでないかを思い返そう。
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「発表 25 分、質疑応答 5 分」という枠が与えられているのだから、それを有効に正しく使うことを目指そう。
上に書いたように、かならず時計を見ながら時間をはかること。
質問について(発表者への注意)
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発表すれば、必ず質問が出る。
想定される質問については、あらかじめ答え方を用意しておくのが望ましい。
もちろん、すべての質問が予期できるわけではない。
肝心なのは、自分の話について(周辺の物理学との関連も含めて)
きちんと理解して、自信をもって発表に臨むことである。
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発表の練習をするときに、なるべく質問をしてもらう。
そして、満足のいく返答ができなかった場合には、
それからよく検討して、自分で納得のいく答えをみつけておく。
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質問はよく聞き、趣旨がわからないときは聞き返すこと。
自分が予期していた質問に似た言葉を聞くと、
条件反射的に予想質問への返答を述べ始める人がときどきいる。
これは、困る。
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「○○○○ですか?」という「はい」、「いいえ」で答えるべき質問をされたら、まず明解に「はい」か「いいえ」かを答え、それから詳しい説明に入るべきである。
プロが発表する学会などでも、鋭く「その結果は、結局は○○○○という意味なのではないんですか?」と聞かれると、「はい」と言わずごちゃごちゃとしゃべってごまかそうとする人を見受ける。
科学に関わる者として許し難い態度なので、皆さんは、決して真似しないように。
質問について(話を聞く人への注意)
どんどん、質問しよう。
できれば、本質を突く「いい質問」をしたい。
しかし、無理に肩に力を入れる必要はない。
発表を真剣に聞いていれば、自ずから質問したいことは出てくる。
発表を聞く際には鉛筆をもって、質問の候補を紙にメモしておくといいだろう。
典型的な質問のパターンを思いつくままに列挙しておく。
(これに従う必要は、もちろん、ない。)
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××という言葉が繰り返し出てきますが、その意味がわからないので、
説明して下さい。
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××という言葉が繰り返し出てきました。
△△の講義では、××とは・・・・という意味で用いていたと思います。
ここでも、そういう意味で使っているのですか?
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○○○の装置の説明がありましたが、
その図の右上の◎◎◎しているところから、●●●が◇◇◇すると理解していいのですか?
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○○○のグラフというのがありましたが、
そこで◎◎◎の●●●依存性が◇◇◇しているように思うのですが、
何か理由があるのでしょうか?
細かいこと
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大輪講のスケジュールはかなり過密なので、時間のロスがないようにしよう。
前の人の質問時間が終わったら即座に交代できるように、
舞台袖(?)で待機しておく。オンラインのプレゼンテーションの場合にはスライドのファイルなどを開いて画面共有できる準備をしておく。
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パソコン画面ではなく、スクリーンにうつった像を見ながら話すのがよい。
自分で陰を作る心配もないし、端が欠けているかなどもすぐにわかる。
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連続する発表を一台のパソコンにおさめるのは賢い考えだが、その際、文字化けや文字のサイズの狂いが生じないか、事前に入念にチェックする必要がある。
実際、パソコンを変えたために、画面や文字の一部が欠けてしまうというトラブルは、かなりの確率で発生している。
こういう本質的でないことにユーザーが時間とエネルギーを使うのはまったくアホらしいのだが、それが(今のところの)現実なのだ。
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パソコンのトラブルはかなり減ってきたがゼロではない。
故障しても別のパソコンに移行できる安全策はとっておくべきである(そのため、自分の発表のファイルをメモリースティックなどに保存しておくのがよいだろう。Mac を使う人は、残念ながら少数派なので、プレゼンテーションを pdf に直して、Windows で読み取れるメモリースティックに書き出しておくという対策を取るのがよい)。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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