アルカイダは爆撃されねばならなかった。 タリバンをのさばらせておくという選択肢はなかったのだ。 狂信者たちが、オサマ・ビンラディンに操られ、人々を満載した旅客機をアメリカのもっとも高いビルの二つへと飛び込ませた時、これ以外の道を期待するのは道理にあわないことだった。 だから、その通り、 私は、 「的を絞った軍事的な反応は必須であった」というアンソニー・バーネットに賛成する。 そして、その通り、 私は、貿易センタービルへの攻撃を、パレスチナ人の簒奪者であり迫害者であるイスラエルを援助したことで合衆国が受けた単なる報いと今でもみなしている私の学生や同国人の大多数に、反対する。 9 月 11 日の翌日に反対したのと同じ熱情をもって。
しかし、われわれ ─ というのは、罪のない人々の大量殺戮に愕然としたバーネットや私や数多くの人々のことなのだが ─ は、まんまとかつがれてしまったのだろうか? われわれの断固とした非難とわれわれが感じた畏れは、「新しい帝国の秩序」を構築するために皮肉にも利用されてしまったのだろうか? 戦争の太鼓が凶暴なリズムをうちならし始め、アメリカの勇猛な戦隊がイラクを粉砕すべく動いている今、しばし歴史をさかのぼって考えをめぐらせる時だろう。
冷戦での勝利に昂揚しつつ、勇猛なる合衆国の軍部は熱心に新たなる敵を探し続けていた。 どう大目にみても、これは部分的にしか成功しなかった。 コンドリーザ・ライスの 2000 年の Foreign Affairs 誌の論文(訳注:Condoleezza Rice, "Promoting the National Interest", Foreign Affairs, 79, 2000, 45-62)は、「ソヴィエトという権力が不在だと、合衆国の『国益』を確定するのはきわめて困難なことがわかった」という宣言ではじまる。 彼女のフラストレーションは理解できる。 あなた自身がペンタゴンにいて、何千という爆撃機、戦闘機、ミサイル、軍艦があなたの指揮下にあると想像してほしい。 さらに、あなたのもとには十二の航空母艦の艦隊があり、その各々が、地球上の任意の場所での大規模な殺戮と破壊をおこなうために建造された海に浮かぶ軍事都市なのである。 これら空母は、巡洋艦、潜水艦、補給船に取り囲まれ、世界の残りの国々の軍事力をすべてあわせても破壊することができない。 しかし、イラクでの標的の写真を撮ることを除けば、空母艦隊のやるべきことはほとんどなかったのである。 これら怪物は、帝国とその補給線を防衛するという明確な使命をもっていた。 だが、無活動の時期が長く続いたため、その恐るべき威力は世界の人々の意識から薄れていったのだ。
ビンラディンの操る狂人たちがアメリカの力の象徴を襲撃したとき、彼らは帝国が密かに切望していたもの ─ つまり、宣言なき帝国主義の時代の終焉 ─ を与えてしまった。 燃え上がるツインタワーは、ブッシュ=チェイニー=ラムズフェルト=ウォルフォヴィッツのチームに、転換の契機、アメリカの原則を根本的に変えるための好機をもたらしたのだ。 ビロードの手袋は捨て去る時が来た。 今やアメリカの鉄の拳が法律なのだ。 もはや国際条約も国際法廷も無用だ。 特にアメリカの国益を増進させるのでない限り、いかなる合意も破棄できるのである。 四百八十億ドルの大当たりを手にしたペンダゴンは、今やアメリカ帝国は単独でやっていけることを保証してくれる。 漏らされた Nuclear Posture Review(核戦略見直し報告)からはっきりとわかったように、もはや合衆国は核をもたない敵対者に対して核兵器を使うことを思いとどまりはしない。 実際、いくつかの合衆国の新聞は、テロリストがもう一人でもアメリカ人を殺すことがあればムスリム諸国への核兵器の使用は正当化されるという社説を掲載したのである。
ほとんどのアメリカ人は、アメリカで再燃している軍国主義を、「罪なき者が傷つけられた」ことへの対応、テロのいかなる犠牲者もが示す自然な反応に過ぎないと信じたいであろう。 彼らは、アメリカは世界の他の国々とは異なっている、あるいは異なることを望んでさえいるという考えを、暗に退けている。 「帝国」という言葉は、彼らにはマイナスの響きをもっているのだ。 クデール協会のヴァン・ウィシャードのようなリベラルな知識人は、より率直だ。 「われわれは、どう少なく見ても、影響力のある帝国とみなされている」と彼はいう。 それでもやはり、彼は 「そうは言っても、私の見解では、いかなる大国も、その権力を、アメリカほど寛大に、そして、アメリカほど領土拡張の目的なしに用いたことはなかった」と主張するのである。
悲しいかな、これほど徹底的に信じられるのはアメリカ人たちだけだ。 中東の原油が ─ そして、今では中央アジアの石油確保の約束を得ることが ─ 長きにわたって合衆国の政策を駆り立ててきた。 独裁者のなかでももっとも残忍な者たち ─ インドネシアのスハルト、イランのラザー・シャー・パーレヴィ、チリのピノチェト、フィリピンのマルコス、パキスタンのジア・ウル・ハック、など多数 ─ は、合衆国のもっとも緊密な盟友だったのだ。 ソヴィエト連邦がアフガニスタンに侵攻した 1979 年、合衆国の良心の欠如と権力の追求が、ムスリム世界のこの潮流と、必然的に結びつくことになった。 最前線の同盟者であったジア・ウル・ハックとともに、CIA は、エジプト、サウジアラビア、スーダン、そしてアルジェリアにおいて、イスラムの聖戦士を公然と雇い入れたのである。 超大国たる同盟者であり指導者でもあるアメリカによる支援がムジャヘディンに注ぎ込まれるにつれ、イスラム過激派は苛烈さを増した。 そして、ロナルド・レーガンはホワイトハウスの芝生で彼らを歓待したのだ。 ご覧下さい。ビンラディンとその仲間です。
寛大? そう、合衆国は第二次大戦の後、ヨーロッパと日本に対して寛大だった。 しかし、イスラエルとエジプトを除く発展途上国への合衆国の対外援助は、過去三十年以上にわたって、本質的にはわずかな施し程度のものに過ぎなかった。 対照的に、すべての国の GNP をあわせても合衆国よりずっと少ないヨーロッパが、発展途上国にはるかに多くの援助を提供している。 このけちな精神は、アフガニスタンへの対応にこれ以上ないほどはっきりと現れている。 この二十年のあいだに、合衆国の干渉により二度までも荒廃させられたこの国は、今、高速道路を再建したいのならば借款を受けてそれをしなくてはならないとジョージ・ブッシュに宣告されているのだ。 アフガニスタンのためのマーシャルプラン並のかつての約束は、完全に消え失せてしまったのである。
アメリカの勝利至上主義と国際法の軽視が、ムスリムの間だけでなく、いたるところに敵をつくりだしていることをアメリカ人たちは認めざるをえなくなるだろう。 それ故、彼らも、横暴さをおさえ、この世界の他の人々ともっと同じようにならなくてはいけない。 アメリカ国民は、彼らの狭い利害に基づいて世界を規定しようという誘惑にうち勝たなくてはならない。 よりよき世界には、それだけの価値があるのだ。 たとえアメリカ人が彼らの SUV のガソリン代をもうし少しだけ余分に払わなてはならないとしても。
アメリカの宿敵ビン・ラディンは、たぶん、死んでいる。 しかし、アルカイダの最大の強さは、忍耐強さであり、永遠性と天国での褒美への信仰なのである。 だから、彼らは、影で待ち続けること、生では決して得られないものを死で獲得することに、不気味なほどに満足できるのだ。 アルカイダとその支援者は、ブッシュのような人物をみると安心する ─ ともに善・対・悪の単純な言語で話し、問題解決には武力を用いるからだ。 (訳注:この一文は、原著者の指示に従って大幅に意訳した。) もし合衆国が、イラクというアルカイダとのもっともらしい関連が何一つない国への大量虐殺を敢行すれば、アルカイダは確実に利益を得ることになるだろう。 それによって、結局は、彼らのところに大量の兵員の募集が来ることになるからだ。
いかにビンラディンとその部下たちが卑劣でも、彼らにはいくつもの都市を壊滅させる力はない。 9 月 11 日は、恐るべきものであったが、それでも、歴史のほんの一コマに過ぎないのだ。 そして、歴史とは、人類が自らに対して犯した犯罪の絶えざる展示なのである。 地球規模の、民主的で、非宗教的で、ヒューマニスティックな何物かが、ナショナリズムと宗教という対をなす悪とすぐにでも取って代わらなくてはならない。 さもなくば、われわれは死に絶えるだろう。
パルヴェーズ・フッドボーイ (Pervez Hoodbhoy) は、パキスタン、イスラマバードのカイデ・アザム大学で物理学を講じている。 この論説は、www.openDemocracy.net の編集員の求めに応じて寄稿された。