和田ゼミ(学習院大学経済学部)

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ゼミ第V世代 (March 30, 2023)


2019/20年に長期研修をいただいてゼミを休んだあと、再開後の最初の卒業生が今月出ました。いろいろと新世代を感じるところがあり、身の回りの体感ですが観察を要約しておきます。

学部3年生の期間全般に就活が入り込み、4年生が始まる前に進路が決まる場合が以前より増えたようです。そして、勉強・研究に打ち込んだ話を良く聞いて評価してくれる企業が増えています。20年前は、とにかく元気アピールができる人が内定を大量に取ってきたものでした。もちろん時代を超えて人間的魅力、コミュ力は大事ですが、勉学や研究内容をしっかり聞いてくれ、(ぱっと見は)おとなしい学生も、思索経験をもった内容を評価してもらえる変化を感じます。企業と業界による差はとても大きそうで、また入口段階と採用決定段階でも違うようですが、長期的な戦力を選ぶ上で「新しく問題を定義する」「その仕事を仕上げる」能力が大事なのは、ある意味当然でしょう。教員側も教育方針を問われ意欲を刺激される展開で、おそらくは人材市場の国際的な共通化に少しだけですがまた進んでいるのではないかと思います。

Covidのため集団行動機会が減ったこともあってか、学生の個人差も広がった実感があります。もともと3年生は自分の研究テーマに集中する時期ですが、就活も並行するとなると熱心な学生さんほど大変そうです。他大学の熱心な学生さんとの発表会経験で自信になるから、3年生までは時間の無理なく研究させてあげてほしいのですが、世の中はもう戻りそうもありませんね。手当たり次第にインターンに走り勉学をおろそかにする学生も出てくるのは自然なことで、しかし自分を失わず、大学で養うべき実力を身につけられる人は、忙しくなってもちゃんといます。就活が早く終わると、4年生は卒論研究に集中することもできて、英文卒論を海外査読誌に投稿しようかというところまでな人もいる、という過去なかった状況まで例外的ですが、あります。

教員の役割も再定義が必要な時代です。もっともらしい理屈なら機械が生成してしまうので、人間が劣化版を書いても価値がない。学生が新規性のある研究を目指すとか、自動生成された嘘内容の訂正ができるように知識精度を上げるとか、大学も変わる必要が加速します。問題を定義する能力の価値はますます上がるので、つまり大学教育も活動基準をあげることと私は理解しています。

さて、抽象論はおいといて。年末年始の他大学合同ゼミ(早稲田大学での早慶8ゼミ合同と、関西学院大学加藤ゼミ合同の要約を今年も掲載しておきます。人材流動化の世の中では、学生さんの事実記録と開示も大事だろうという趣旨で、後々、教員の私も改善の方向性を考える反省材料になります。

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(2022年度3年生、発表者あいうえお順)

「CSR活動と働きやすさは企業価値を高めるか」 唐澤海斗・後藤怜・鈴木まりあ・堀越莉紗
問題:企業のCSR活動が収益性や企業価値に正の影響を与えるか。結論バラバラな多数の先行研究がある。業種を特定し時系列方向の情報を生かした分析を自分達の手で行って確かめたい。とくに人材活用が日本企業にとって大きな問題のはず。
手法:@総合的なCSR評価指標を用いるものとA有給休暇取得率を用いるものの2つの分析レベルを用いる。東洋経済CSR企業総覧から@CSR総合評価指標のうち人材活用、環境、企業統治、社会性の各部門指標、A有給休暇取得率の2つを説明変数にとり、企業・年パネルデータから固定効果を入れた重回帰分析。被説明変数は@はROEと売上高成長率、Aについては労働生産性と売上高経常利益率。データは、@については情報通信・鉄鋼・食品172社2019-2021年、Aについては情報通信、小売業71社2015‐2019年。電子版がまだ買えなかったのでデータ手入力。
結果:CSRについて総合的な指標を見た@については、人材活用に関する指標は企業業績と正の有意な係数を持つ。有給休暇取得率をみたAについては経常利益率に対して係数は負に有意となった。人材活用ができている企業は業績も良いだろうという仮説は、大局的な指標だと成り立つが、個別的に有給休暇取得率に関して検証すると成り立たなかった。差の差の分析を利用した因果推論までは至らなかったが、双方向の因果関係を意識した考察を深める手がかりを得た。

「特許の質は市場からどのように評価されるのか〜第三者割当時のイベントスタディ〜」 川口千遥
問題: 無形資産価値が低い企業に比べて、価値の高い無形資産を持つ企業が増資するとき、増資するという開示によって、企業価値はより高まるだろうか。第三者割当増資のとき、希釈化にも関わらず日本では一般に株価上昇の傾向がみられる、という先行研究があるが、その再検証の目的が一つの目的。もう一つは、技術資産の価値を特許の被引用数で計測する海外の先行研究はあるが、特許被引用数が多い企業は増資によって株価がより上がるのか、という海外でも未検討の実証問題がある。
手法:イベントスタディ。2010年から2016年まで、特許登録の多い9業種119企業の第三者割当増資時点をQUICK Astra Managerから得て累積異常リターンを算出し、それを被説明変数として、当該企業の平均特許被引用数を説明変数に用いて回帰分析。
結果:増資の際に株価が(希釈化に反して)上がること、特許被引用数が少ない企業の方がむしろ上昇率が高いことが確かめられた。同一企業による複数回増資の影響、第三者割当は救済場面が多い可能性、将来キャッシュフローを合理的に反映するというよりは一時的熱狂で株価上昇している可能性、などが背景要因として考えられた。

「水族館入館者数の決定要因〜経年による入館者数逓減と展示の充実度に着目して〜」 菊山敬史
問題:新しく開館した水族館は当初多くの客を集めたのち、長期的に入館者数を減らしていく傾向があるが、集客力の要因、長期的に維持できる要因は何か。
手法:過去約40年間分の「日本動物園水族館年報」から全国の水族館入館者数の月次データをスキャンして入力。新規開館27施設、リニューアル22施設の減少率を被説明変数とし重回帰分析。説明変数として多数の水族館属性(面積、水槽水量、飼育種数・個体数、イルカショーダミー、QGISを用いた30キロ圏人口、経営は株式会社母体か、など)を用いた。
結果:初年度入館者数に対しては、延床面積、大水槽水量、哺乳類・鳥類の飼育種数、商圏人口などが有意で正の係数を持つ。商圏における子供の人口比率は、新規開館後5年間の減少に対して負の係数を持つ(客数はなかなか減少しない)。

「出来立てと値引きの顧客価値」 関口晃平
問題:バイト先のスーパーのお惣菜コーナーで「出来立て」シールを貼ることは販売促進効果を持つか。
手法:自分が任されている惣菜売り場の時間ごと売り上げを手作業で記録。商品、曜日、時間条件をそろえたA/Bテストを、出来たてシールの有無、時間が経った商品への20%値引きシール有無の2条件の4とおり組合せで実施。天候変数もコントロールして、4種類の商品について重回帰。32日間から得た144〜204の観察数(商品により並ばなかった日があるため)。
結果:20%引きシールは有意な売上個数増加。しかし出来たてシール有無は「からあげ3個」パックのみ5%有意。出来たてシールがあるとよく売れるという結果は得られなかった。

「降水がパンの売上に与える影響」 馬渕ももこ
問題:バイト先のパン屋の売り上げに対して、雨の影響はどのように出るのか。パンにも種類があるが、違いがあるか。
手法:3年間の商品別の日次売上データ(金額、個数、来客数)を被説明変数とし、気象庁アメダスの時間帯別降水量・気温や曜日を説明変数とした重回帰。
結果:雨の日は売上に負の影響があり、営業時間内の降水は営業時間外の降水よりも減少が大きい。ただし売上が多いはずの夕方の降水があったからといって売上が減少するか、というと、有意な関係はみられなかった。雨の日の翌日は売上の反動増がみられ、日をまたぐ決定要因があると確かめられた。

「特許審査官の審査の質は均一か〜性別・学歴など審査官属性とFA特許査定率〜」相原祐子(4年生)
問題:特許審査官の性別や学歴による審査傾向の差はあるのか。米国に先行研究があるが日本にはない。
手法:特許情報標準データからFA特許査定率(最初に拒絶理由通知書を出さず一発特許査定が出た比率)を算出し、被説明変数とする。担当官コードから入庁年や任期付審査官を特定した。また特許庁APIからPythonで拒絶理由通知書データを取得するコードを書き、得た氏名のうち名前から男女区別を日本の上位名2000種類のデータベースにマッチして出した。審査官補から審査官への昇格に要した年数で学歴を推定。出願単位の重回帰(Linear/Probit、審査官IDでクラスタ頑健)、部課単位のパネルデータ分析。
結果:経験年数が長くなるほどFA特許査定率が高くなる傾向は日本でもあり、その点で米国と似ている。女性審査官はFA特許査定率が低く、慎重な審査をしている傾向がみられる。

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以上が年単位の報告で、以下は付け足し感想。

一人を除き3年生で、最後の一人は英文で卒論を書きました。ここにはまだ挙げていませんが、2年生も重回帰分析を最初の学期からやっている人が多く、イベントスタディや傾向スコアマッチで因果関係についても考え始めている人がいました。

この数年位の印象ですが、小さい頃から記憶させられ、正解があることがわかっている問題を解くことを(昔からの受験勉強と同じように)強制されつづけた一方で、急に「やりたいことをやれ」「君がやりたいことは何なんだ」と放り出されている世代だなと思うことがあります。その間の「問題を定義する経験」を積む機会がとても不足していたのだろうな、と。しかし、自身が興味持って学び取り組める問題を発見するのは、いっぺんにやろうとしても難しいものです。先輩の例をみせ、試行してもらい、一緒に結果を確認していくと、教えるというよりは自ずから次のステップがみえてきます。試行錯誤を繰り返して、面白さを一緒に確認すると、その後は本人の推進力に点火します。そうするとこちらが教わる形になっていく、まであります。なにせプログラミングでも機械が教えてくれる時代なので、学ぶべき目標が自分で意識できれば、基本的に学生さんの勝ち。リスキリングだって言ってるオジサンたちが身につけたいことを人生最初にやれるのは大きなアドバンテージです。その優位性を認識できた学生さんは強いなと、みていて思います。

自身をガイドする力を持ち始めた学生さんにも、財務や会計や企業ガバナンスの知識も深め、英語文献も読もうねって、あとエクセルに頼りすぎずPythonで書けるよって、いう感じで経営学科なりの「食事バランス」に教員としては気も配ります。こういう個々のスキルは必ず役に立つし、自分の方向性が意識できたあとだと、自分の価値セットに組み込む意味も意識できてきます。

ようするに
@直接に見えるスキルをつける、何ができるかを資格や点数でも示せるようになる
A誰も予想もしなかった問題を考え、また今でなかった問題や質問への対応について、思索、探求と議論を飽きずに続けられるようになる、それを中間成果物としてまとめる
の2つは、それぞれどちらも大事なことなのですが、片方だけだと長期では弱い。

@だけだと筋トレ繰り返しばかり、みたいなトレーニングになります。長期の目的意識が自分の中でできてこない。答えをまとめるだけなら生成型AIに勝てない。
Aだけを基礎思考力や体系知識なしに追い求めると空想の世界の王様になってしまう。やっぱり基礎勉強もしないと組み立てる材料がアタマに入らない。

この2つの合体として、なにか形になる研究成果を大学にいる間にひとつまとめることが、まだ存在していないものを生み出す力になり、誰も予測しえない変化にも対応できる力になるでしょう。このことを意欲ある学生さんは意識できていて、努力を重ねてしっかり結果を残している感覚があります。こういう経験は長く自信の基礎になるはず。

それらいろいろありますが、やはり「自分をみつめ、やれること、やりたいことを具体化する」ことが学部生の頃で大元で一番大事なことです。サポート役としては、使えるデータもツールも凄い勢いで増えていますので、サポート側こそが引出しを増やしアップデートしていく必要を痛切に感じています。


この前までの年は、過去ページをご覧下さい。





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Last updated: March 30, 2023