茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
ほお。 前に書いてから、ちょうど一週間か。
やたらい忙しかったので、もっと長かったような気がする。 猛烈に暑くて、まったく不必要に天気がよかった告別式の日がずっとずっと前のような気がする。
小松さんの論文草稿を読んだり、田中さんの論文草稿を読んだり、佐々さんのノートを読んだり。 おっと、人のを読んでばっかりじゃない。 自分でも、強外場極限の driven Glauber dynammics について、いくつか着実な計算をして、喜んだり落胆したり当惑したり。 あと、田中さんに厳しくチェックしていただきながら、Hubbard ferro の Lemma の証明のやり直しをまとめている。 (まさに、今日は、ずっとこれをやっている。)
もっともあわただしかったある日、大学の留守番電話に、存じ上げない物理の先生からのメッセージが。 問い合わせてみると、アメリカで開かれた量子光学の国際会議で出会った Texas の人から、「Tasaki の書いた第二法則へのコメントが気に入ったから是非よろしく伝えてくれ」とのメッセージをもらったとのこと。 (Texas の人が直接メールをくれればいいと思うが、まあ、そこはつっこまない。)
さらに、この雑感を読んで下さっている(物理関係ではない)方からも、事情をご存じないながらも、如何にも落ち込んでいる私を励ますメールをいただいた。 まったく物理とは関係のないことに携わっていらっしゃる方から、それでも、この日記を読むと、元気・やる気がでる、とおっしゃっていただけると、本当にうれしい。 ありがとうございました。
へえ、日曜は大学の工事を休んでいるんだ。 これは意外。 学期開始に間に合わなかったらどうするんだろう。
以前に紹介した(7/24)窓サッシ工事の現状を記録しておこう。 荷物の移動ののち、左の写真のように、サッシの作業のために仮設の壁がつくられた。 いよいよ熱力学の例題のようである。 (そういえば、今年は熱力学は教えない予定だったのですが、突発的な事情により、ぼくが教えることになりました。)
ちょうど本棚ひとつ分、へやが狭くなり、残りのスペースには、かなりぎゅうぎゅうとものが詰め込まれている。
この前、はじめてこの部屋を訪れた人が「おもしろい趣味だと思った」そうだけど、別に好きでやっているのではない。
たしかに、ものがぎゅうぎゅうじゃないと落ち着いて仕事ができない理論物理学者とかありがちだけど。
かなり前のことになるが(←と書き始めたのはずいぶん前なので、実は、何ヶ月か前のことになってしまった)、家で使っているコーヒーメーカーのコンセントの調子が悪くなった。 ちゃんとさし込んでいるのに通電しないことが多く、コンセントの付け根あたりの線をぐにぐに曲げたりひねったりと絶妙の力を加えるとようやく使える。 要するに内部で断線していたわけだ。
このコーヒーメーカーは、電源コードが本体にくるくると巻き込まれて収納されるタイプなので、さいご巻き込みきったときに、プラグががちんと本体にぶつかって止まる。 このときの衝撃が重なったために、ついに内部で断線したものと思われる。
考えてみると構造的欠陥かも。
というわけで、毎朝コーヒーを入れる前にぐにぐに試行錯誤をするのも時間の無駄だし、そもそも何となく怖いし、コンセントの手前でばちんと切断して、別のものに付け替えたのであった。 (自分でつけたコンセントのまま、巻き込みの際のくるくるばっちんをやっていたのではひとたまりもないので、手前に結び目をつくってショックを吸収するという工夫も。 考えたら、最初からこれをやっておけばコンセントが内部で断線する確率はぐんと低下しますね。 (あまりに気長で伊東家の裏技としては駄目か。))
コンセントを付けかえたところで、思い出したことを二つ。
しかも、当時流行のトランジスター回路だけではなく(あーあ。やっぱ、じじいの昔話になっちまうなあ・・)、すたれかけていた真空管を使ったアンプとかラジオなんかも作っていたのである。 アルミシャーシにドリルで穴をあけて、真空管のソケットやトランスを取り付けていく。 ラグ板に部品を半田付けするときの、半田のこげる独特のにおい。 そして、回路が完成し、電源を入れると、真空管のヒーターにほんのりと赤い灯がともり、次第に真空管が暖まって来るにつれ、スピーカーからぶううううんというハムが聞こえてくる。 いいよなあ。 鉄腕アトムだって真空管を使っていたのだ。 (これから作るアニメでは違うだろうなあ。) やっぱし電気回路は真空管。 と、いよいよじじい話になるので、やめ。
で、そんなある日、ぼくは真空管の回路にコンセントからの電源を供給する配線をいじっていた。 (←というわけで、上のコーヒーメーカーの話とゆるくつながっているのです。) 何らかの理由で、この線を切るべきだと判断したぼくは、使い慣れたニッパーをもって、その線をばちんと切断したとたん、
ぼんっっとすごい音。 覚えていないけど、閃光もあったかも。
単純な、ミスだった(プロジェクト X は、すぐにあきて、もうずっと見てません。)もう、ばっちり手慣れているつもりになっていると、つい、こういうことをしてしまう。 要するに、コンセントに差し込んだままの電線を切ってしまったのだ。 そのため、ニッパーを通じて電流がどっと流れ、発熱するは、発光するは、音は出るは、とすごいことになったのである。
幸い、ぼくにはケガもやけどもなかったけど、さすがに、ドキドキした。
それで、手に持っていたニッパーを見てみると、実にみごとに、二本の導線の形にあわせて、刃の両側に半円状のへこみができてしまっている。 すさまじい発熱で刃が融けてしまったのだ。 ひえええ。 よくぼくが無事だった。
で、ニッパーはお釈迦になったのです、という話かというと、さにあらず。
融けなかった部分は、ごくふつうに使える。 さらに、融けてへこんでしまった部分は、まるであつらえたみたいに、AC 100 V 用のビニール被覆線の導線部分と同じ太さの円形になっている。 あつらえたみたいじゃなくて、あつらえたのだよな。 というわけで、このニッパーは、末永く、100 V 用の被覆線の被覆を取り除くのに、とても便利に使ったのであります。
新たに(といっても、何年か前の話だけど)卒業研究のために研究室にやってきた学生さんが、先輩から電気工作の手ほどきを受け、自分で物が作れるようになると、すぐに左のようなものを作ったそうだ。
両側コンセントですねえ。
しかし、なんでこんな物を作ろうとしたのかいな、というと、これはちょっと天才的なんだな。 ぼくのような凡庸の頭脳では、思いつきもしなかった。
下の図をみると答えがわかっちゃうから、我こそはと思う人は、図を見ないで、彼がこの悪魔の発明を何に利用しようとしたか、考えてみて。
ちっちっちっちっちっ(←考えている時間経過を示す)
そうなのです。
彼は、この新発明の「両側コンセントコード」1個とと市販の延長コード n 個を組み合わせることで、右図のようにして、ものすごいタコ足配線を一発で実現しようと考えたのでした!! ここで、市販の延長コードの個数 n は任意の正の整数たりうるところがすごいでしょう?
この研究室では、この発明品のおかげで、末永くコンセントに不自由することなく実験がおこなわれるようになったということです --- なんてことは、もちろん、なく、あわてた先生の命令によりこの発明品がすぐに解体されたことは言うまでもありません。
あ、しかし、この日記の読者のなかには、「両側コンセント」の絵をみた瞬間に、
ひい、おそろしいと思わない人もいらっしゃるのかな?
そういう方は、(これは本当におそろしいので)なぜおそろしいのかよく考えてみてください。
あと、そういう方が、実験の研究室とかにいらっしゃる場合は、電気関係を担当しない方がいいかもよ。
「両側コンセント」(8/12)に複数の(複数と呼べるための最低の数ですが)反響が・・・
やはり、われわれが長年の間、疑うことなく当然と思っていた半ば絶対的なルールが、いともたやすく、簡単な電気工作でうち破られてしまう衝撃を味わったのはぼくだけではない、ということなのだろう。
しかし、「そういうのならわが家にごろごろあります」とか「あれを見てさっそく自分でもいくつか作ってみました」とかいうお便りがないのはうれしい。
さて、「両側コンセント」についての M さんのご指摘を、言い換えれば、
市販の延長コードを任意の正の整数個つなげるのに、「両側コンセント」は必要ないのでは?とのことであった。
あ、それですね。
ふむ。ふむ。
その点は、もちろん、
えっと、
その・・・・・
初歩的な、見落としであったとすると、なんですな。
左図のごとく、「市販の延長コード用の差込がずらっと並んだ部品だけを買ってきて、内部のネジをいじって配線することなく、延長コードとして使用する」というのが正規の(?)用途なのだろうか? しかし、どうせネジを回して両側コンセントを作るんだから、手間はいっしょか。
いったい、何を考えておったのだろう?
こうなってくると、電気にはまったくうといという別の M さんが私信で伝えてくださった
あの絵を見た瞬間「これはきっとなにかの復讐に使うのだな」と思ったというご感想にこそ真実が秘められているのかもしれない(し、なんもないのかもしんない)。
と冗談めかして書いて終わりにしようと思ったけど、やっぱり怖くなってきた。
読者層が把握できていない以上、まじめな注意:
両側コンセントは、本当に危険です。 仮に、一方のコンセントを差し込み口に差し込み、もう一端がぶらぶらと外に出ていたとします。 この段階でも、この外に出ている端の方には電極が露出していることになるので、手で触ると容易に感電してしまうからそれなりに危ない。 (とはいえ、人間は、びりっと感電すれば反射的に手を離すので、浴槽に入れるとかしない限り、これで惨事にはならない。) しかし、真におそろしいのは、このもう一方の端も(それと知らずに)コンセントに差し込んでしまった場合です。 二つの差込の向きが同じなら何もおきませんが、向きが逆なら、コンセントを通じて一気に大電流が流れるので、猛烈に危険です。 ブレーカーは確実にとびますが、それ以前に激しい発熱があるはずです。 人間にどの程度のダメージがあるかは、種々の条件によるでしょうが、手に回復不能な大やけどを負う(あるいは、やけど以上のダメージを負う)ことは大いにありうると思います。 いかなる条件のもとでも、決して試みてはいけません。 そもそも、絶対にこんなものを作ってみてはいけません。
7/19 の雑感に
読んでくださってますか、Joel と Gene?と書いたのですが(Joel は Lebowitz の名前、Gene は Speer の名前の Eugene の愛称)、この見え見えのぼけに
読めるわけ、ないだろっ。とのつっこみが殺到するわけもなく、ついそのままになっていたので、昨夜、Lebowitz と Speer にあてて「引用してくあさって励みになりました、ありがとうございます」という感じのメールを送った。 変分原理についての短い専門的な話のあと、 「あなたたちのやってきた以上のことを付け加えるのは至難だが、ぼくたちも全力を尽くしてやるつもりです」と健全なる決意を表してメールを結んだのであった。
思い出せば、Bruno に初めてあったのは、Elliott Lieb の六十の誕生日を記念する会議のときだった。
今年は、ぼくは出席しそこなったけれど、Lieb の七十の誕生日を記念する会議があった。 Bruno と知り合ってから、もう十年ということか・・・。 はやい。
Lieb は、かなり日本語ができる。 発音はガイジン風だが、敬語も使えるし、ことわざもよく知っている。
コーイン、ヤノゴトシという彼の声が聞こえくるようだ。
で、明日は Bruno のセミナー。
Prof. Bruno Nachtergaele (Department of Mathematics, University of California, Davis)誰も東京にいないような時期ですが、ご都合がついてご興味がある方は是非どうぞ。Derivation of the Euler Equations from Schroedinger Dynamics
8 月 15 日 2 時 学習院大学南一号館二階理学部会議室
「両側コンセント」(8/12、8/13)への反響は、「複数と呼べるための最低の数」をはるかに上回って、もう、多数と呼べる限界を突破しつつあります。 (ここの 8/13 によれば、「いま,インターネットでもっともホットな話題」らしい。大それた話だが、とはいえ、「いま」というのがどのくらい長く持続するかによってこの表現の重みは変わってきますね。 「いま」が千分の一秒とかしかつづかず、次から次へと「もっともホットな話題」が変遷していくのかもしれない。) 別に、ぼくが思いついた話でもないのだが・・ (いまいち理解してもらえないようなので、8/13 の最後のなぜ危ないかの説明に書き足しておきました。)
しかし、「両側コンセント」を実際に使ったことがあるという後藤さんの思いで話は圧巻であった。
高校の文化祭の前夜。 物理部の展示の準備に追われる部員たち。 (文化祭独特の高揚感と何でもあり感と準備の進まない危機感の入り交じって織りなすあの祝祭の空気が懐かしいですなあ。)
と、展示品の電源コードがどうしてもコンセントに届かないことがわかる。 もはや延長コードもなく、買いに行くわけにもいかない。
手近にあるものを必死で見渡した部員たちがみつけたのは、
三つ又分岐を使うところがエレガントですよね。
八月末か九月まで、しばらく、さようなら。
昨日、無事に帰国いたしました。
成田でアメリカ行きの飛行機に乗る直前に、呼び止められ、入念なボディーチェックを受けたことを除けば、なんのトラブルもない旅行でした。 しかし、成人男性は全員チェックするのかと思っていたら、ほとんどみんなフリーパスだったぞ。 ぼくなんて、いかにも弱そうだし、服装は安っぽいけど、どちらかというとこぎれいだし、わざわざピックアップして検査することもないと思うけどなあ。 同じ物理屋でも、たとえば、××さんなんて、はるかにあやしそうですよねえ。 (←みなさんが思い浮かべる××さんをあてはめて読もう!)
いろいろやることがたまっているので、今日は、簡単ですが、ごあいさつまで。
けっきょくほとんど何も書かないまま月末になってしまった。
しかし、「熱力学のピストン移動の実験のようだ」などとネタにしながら工事の記録をここにのせたわけですが、けっきょくは、特に面白いこともなく、オチもつかないまま、終わってしまうのですなあ。
どうしよう。
工事はすべて終わったと思うのだが、まだ部屋の中には、塗料なのか、糊なのか、溶剤の臭いがこもっていて、窓を開けてせっせと換気しても、かなりくさい。
研究のアイディアに行き詰まった田崎が、クスリでトリップして、新しい着想を得ようとしているわけではないので注意。