日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


6/1/2003(日)

5月に試していた「化学ポテンシャルの非破壊測定法」は完全に破綻した。 というより、ぼくの SST への認識が少しだけ深くなったので、自動的に、あんなやり方は駄目だと悟った。 今は、その上で、「非破壊測定」のアイディアを復活させる道を探っている。

というわけで、5月後半にぼくが到達した SST の現状についての認識をこの機会に(?)まとめておこうと思う。 ただし、以下の記述は人様に読んでもらえる説明というレベルのものではなく、きわめて不親切な書き殴りなので、よほどこの話に関心がある読者以外はお読みにならない方がよいと思う。 そう書きながら、さりげなくオチをつけていたり、途中に小ネタをしこんでいたりも絶対にしないので、安心して無視して下さい。

定常状態熱力学 (SST) の現状と展望

まず、現象論的考察がある。

Oono-Paniconi の抽象的な路線よりもはるかに具体的に、操作的な熱力学の可能性を探った。 いくつかの非平衡定常系を念頭におき、熱力学で重要な、系の接触、複数の系をくっつけて一つにすること、系をスケール倍すること、などについて慎重に考察。 定常系は本質的な異方性をもつのだが、これら熱力学的な考察により、熱力学にとって「よい方向」というのが必然的に決まる。 さらに、非平衡の度合いを表す変数の選択についても、示量的な変数を選んで熱力学の存在を仮定すると論理的な破綻があることを見いだし、系に内在する保存則と整合した示強変数を選ぶべきだということもみた。

これらは一種の形式論でしかないが、その範囲で、ありうる熱力学の可能性を絞り込めるというのは当初予期していなかった驚きであった。 これらの結果は公表した Sasa-Tasaki 論文の前半に凝縮した形で書いてある。

次に、セミミクロな観点にたった熱力学の操作的定義がある。
これは、佐々さんと林さんによる driven lattice gas の数値計算の試行錯誤の中から生まれたもので、公開されている Hayashi-Sasa 論文に基本のアイディアが述べられている。 その化学ポテンシャルの決定法(ポテンシャル変化法と呼ぶ)を使うと、一定温度・一定非平衡度の非平衡定常系の化学ポテンシャルを(任意定数の足し算を除いて、おそらく一意的に)決定できる。 さらに、この化学ポテンシャルと、体積変化の仕事で定義される圧力とは、Maxwell の関係式を満たす。 つまり、完全に整合した熱力学が得られるのだ。 (ただし、自由エネルギーなどの温度・非平衡度依存性は、この議論だけでは決まらない。)

しかも、このポテンシャル変化法は、上で述べた現象論的考察と、驚くほど、相性がよい。 ポテンシャル変化法で決まった化学ポテンシャルとペアになる圧力は、まさに、熱力学のとって「よい方向」の体積変化で決まる圧力である。 「よい方向」以外の向きにポテンシャル変化法を使おうとしても、決してうまくいかない。 熱流系、ずり流体系、DLG のどれについても、そうなっている。 さらに、非平衡度の指定に示強変数を使うところも、ぴったり。 ポテンシャル変化法は、まさにそのようなパラメタ付けを自然に要求してくる。

このように、純粋にマクロな熱力学的考察と、セミミクロなポテンシャル変化法による熱力学の決定法が、みごとなまでに整合しているのだ。 この事実は、われわれがきわめて安定した何物かに近づいている証拠ではないかと期待させる。

いずれにせよ、非平衡状態の熱力学の試みにおいて、

の二つが見事にかみ合って提示されたというのは全く新しいことである。 これだけでも、われわれの試みは、今までの諸々の試みとは質的にちがうレベルに達したと豪語してよいと信じる。

もちろん、これは単なる出発点に過ぎない。 だが、具体的で明確に定義された出発点を提示し得た意義は猛烈に大きいはずだ。 ともかく、安心できる出発点をみきわめた上で、予想をたて、妄想をふくらまし、ものを考えることができる。 理論計算も場合によっては可能だし、モデルを設定すれば数値計算もできる。 要するに、非平衡定常熱力学に、通常の物理の問題として向かっていくことを可能にする設定ができたのである。

そこで一つの方向として、化学ポテンシャルと系の接触の関係について、あるいは、熱力学関数の凸性について、楽観的な仮定をたてて、何が言えるか、と問う。

すると、熱流誘起浸透圧 (FIO) や熱流誘起凝縮など、公開した Sasa-Tasaki 論文の後半に書いてある現象(など)が出てくる。 これが、今日から見たあの論文の解釈である。
Sasa-Tasaki 論文は、今から見れば、あまりに性急であった。 いろいろなレベルの仮定が一気に現れてそのままがんがん予想に向かっていた。 あの頃は、まさにその性急さと予言した現象の力強さに引っ張られるようにして物を考えていたのだから、あれはあれで、よかったのである。 今は、それら全てが、よりすっきりとした見通しの中に位置づけられつつある。

もちろん、これら楽観的な仮定がいったいどのような状況で成り立つのかを、研究課題にすることもできる。 Sasa-Tasaki にさらっと書いてある「多孔質の壁」の正体を見極めるのは、われわれが「理想接触の問題」と呼ぶ重要な研究課題になりつつある。 佐々さんは、理想接触を求めて、様々な壁をデザインしては、コンピューターの中で粒子たちを飛び回らせることを日々繰り返した。 ぼくが、SST について上に書いたようなことを、よくよく納得したのも、化学ポテンシャルの「非破壊測定」を目指して理想接触のデザインを構想し続けた(そして、完膚無きまでに敗北した)からである。

何か新しい物理が生まれたという段階は、まだまだ夢想もできないほどの遠い先ではある。 しかし、ともかく、ぼくらのやっていることの姿が明確に見えてきたし、他人に共有してもらいうる一つの出発点も整った。 「勝利宣言」を出す日などは夢にも見ることはできないが、それでも、ここまで来たのだから「非敗北宣言」くらいを出すことは許されるのではなかろうか、と謙虚さの美徳を持ち合わせないぼくなどは考えているのである。(佐々さんや林さんは呆れるかもしれないけど。)


6/3/2003(火)

ええと、1日に書いた SST の現状については、もちろん、ちゃんと論文を書く予定です。 後半に入って、ぼくの貢献は交通整理レベル(ないしは、それ以下の、ただ横から見て何か言うだけの奴)に落ち気味で悲しいのですが、しかし、それと結果の善し悪しは関係ない。 もちろん、ぼくもこのままでいいなどとは微塵も思っていないのでありますが。


来週の月曜に、大槻さんにアンダーソン局在についてのセミナーをお願いすることになったので、ここで連絡しておきます。 もちろん、興味のある方のご来聴を歓迎します。

ええと、セミナーの講師は、前のス カ ラ ー 電磁波(←それにしても一過性の話題の典型でしたねえ)ネタの記事(5/1)に登場する大槻さんとはもちろん別人です(ご関係はあるけど)


6/6/2003(金)

椎名林檎の夏のツアーのチケットを獲得しようと、ローソンの先行発売に挑戦。 もともと駄目だろうとの覚悟の上なのだが、夜の7時から10分ほど繰り返しダイヤルしても、まったく、つながらない。

やれやれ。電話回線だってパンク寸前だろうし、ひどい商売をするものだ。

これに関連し、某所でも話題になっていのですが、固定電話からローソンチケットにかけると、ほぼ確実に「電話が混み合っていますので、しばらくしたらおかけなおしください」という録音が流れるのに対し、携帯電話からかけると、上記録音が流れることもあるものの、ツーツーというお話中の信号音が聞こえることが多い。 実は、録音音声の方は、電話局で排除されているのであり、ツーツーの方が、より相手に近づいているらしい。 ということは、携帯電話の方が、つながり具合がよい、ということなのだろうか?  なんか納得できないなあ。 家族で携帯もってないのは、ぼくだけだし・・

このあたりの事情をご存じの方、あるいは、こういう電話予約で成功するこつをご存じの方がいらっしゃったら、 まだ 8 日にも一般発売のごくごくごくわずかな望みがあるし 純粋な知的好奇心から、教えていただきたい物でございます。

それはさておき、(某所の)事情通によると、今夜のローソンの先行販売は、実はまったく売るべき席のない「空売り」の可能性もあるという。 本当だったら、ひどい話ではないかっ。 ローソンに対する経済制裁も検討したい!  (学習院の中のローソンで月に一回くらいお茶菓子を買ってたのを廃止するとか。)


6/7/2003(土)

久々に電車を遠く(でもないか)まで乗り継いで講演会へ。

国際日本文化研究センター(京都)東京講演会

第13回 日本文化を考える

 ■日時 : 平成15年6月7日(土) 開場13:00 開演13:30

 ■会場 : 東京有楽町「有楽町マリオン」11F 朝日ホール

 ■講演者・演題 :デビッド・ハウエル
         (米国プリンストン大学準教授/日文研外国人研究員)
         『悪者たちの明治維新』

というのを聴講。 講演者のハウエル氏は、日本史の研究者である。

「なぜに田崎が日本史の講演を?」と疑問に思われる方もいるでしょうが、何を隠そう、ぼくは昔からの日本史ファンなのです。高校時代は「室町中期の田崎」と恐れられ山川の日本史事典などはほぼ完全に頭に入れて文学部を受験する奴らと対等以上に歴史問答や問題の出し合いに興じたものです --- というのは、もちろん、めちゃめちゃハイパーに嘘です。 日本史とか駄目駄目です。 子供が小学校の頃塾でもらった問題とかもぜんぜんできないレベルでござんす。 (一瞬でも信じた人がもしいたら、ごめんなさい。)

実は、講演者のデビットが Princeton 以来家族ぐるみでおつきあいのある友人なので、(妻が用事でどうしても出席できないということもあり)なんか面白そうだし、見に行ったのである。 家を出る前に、「明治維新は確か 1868 年だよね」と頼りない歴史知識を家人に確認し、心の準備をして会場に向かった。 マリオンのエレベーターがおかしくなられていて、上にいくはずがいったん地下に向かい、しかし、どこにも止まらず再び上昇し、誰もボタンを押していないのに8階に止まり、そのままなぜか一気に地下3階まで降り、再び1階に止まって何も知らない人を何人かのせ、そのあとようやく気を取り直したらしく、われわれが指示した9階と11階に止まったというのは特筆すべき体験だが、その際この加速運動をする直方体状の空間にたまたま居合わせた老若男女一人一人の反応や行動を掘り下げて描写し都会の一隅で生じた奇異なできごとを背景に無関係な人生たちが一時交錯する様を生き生きと描き出す短編小説にふくらませるのは、今回はやめちこう。 (しかし、書いているだに、なんじゃこれって感じ。さすが有楽町だよね。)

講演の基本テーマとなるのは、なぜ日本の庶民は二百年以上続いた江戸の体制から明治の体制への変革を素直におおむね静かに受け入れたのか、という疑問。 地方の古文書などの一次資料にもとづいて、当時の農村社会の様子を描き出すことで、この疑問への一つの解答を探っていこうという趣向であった。 「その時歴史が動いた」風のメジャーな人物を中心にした歴史解説とはかなり趣を異にする歴史の話であり、歴史の知識がなくてもあまりハンディーにならないので、私にはうれしかった。

一次資料の古文書からの抜き書きも配布されたのだけど、こんな感じ。

此頃近在所々江、浪人又者無宿躰之もの共徘徊いたし、無心ケ間敷候儀等申掛ケ、及不法候ものも有之哉ニ相聞江、不届之事ニ候、(タイプするのも疲れるので、後略でござ候。)
椎名林檎(←明日の朝もチケット獲得を夢見て電話だ。ローソンよ、おやつボイコットを避けたくば、ぼくらにチケットくれ!!)もびっくりですな。 文字面を見ても何にもわからないけど、これを、壇上でデビッドがすらすらと読んで(彼は、筆でぐちゃぐちゃと書かれた古文書もすらすらと解読できるのです)、さらに解説してくれると、よくわかるので面白い。

19世紀の経済成長やら外国船の到来やらで、江戸の農村社会の構造が変化し、武士の武力独占が崩壊し、幕府支配を見放し新体制を試してみる下地が作られていったというシナリオ。 江戸風の強引な分業の秩序が崩壊して、如何にも現代風の流動的な社会構造に変化していくのは、やはりダーウィニズム的には必然なのかもしれない(やっぱ分業した方が能率的だから、いったんそういうのが発生すれば不安定化するよね)などと思いつつ聞く。 この分野の講演を聴くのは初めてだと思うが、ともかく、面白かったです。 歴史家はそういう発想をするのか質問してみようと思ったのだけど、残念ながら質問の時間はなかった。 ひょっとして、こういう題目で一般人の質問を許すと、もう収集がつかなくなるのかもね。 公演後、ロビーでデビット一家やかつて Princeton でいっしょだった人たちなどと少し立ち話。

そうそう。 質問がない変わりに、講演のあとも、司会の人がやたら長々としゃべったのだけど(確かに話のうまい人で、壇上に上がると話したくて仕方がないという感じだった)、その中に、幕府の改革三人組の一人として川路なにがしという名前がでてきた。 実は、この川路なにがしは、学習院大学名誉教授の川路先生の曾祖父かなにかなのである。 改革三人組の一人の子孫が世界的物理学者となり量子ホール効果を発見し物理学の新しい流れの誕生に貢献したという近年の科学史を知っているのは、歴史ファン・歴史研究家の多数集まったあの会場でも私一人であったにちがいない。 どうだ。


6/8/2003(日)

椎名林檎のコンサートの一般発売チケットを獲得すべく朝10時から家族でローソンに電話。

予想通り、もう、ぜんぜんダメ。

誰一人かすりもせず、5分を過ぎたところで断念。 噂では、2分で完売したそうである。

一昨日も少し書いた電話のつながり具合だけど、

となっていて、確実に、古くからのお客様が確実に不利になっている。 なんとすばらしい経営姿勢。 (注:「ツーツー」の方が相手に近づいているそうです。)

電話回線がどうやって割り振られるかについての知識があれば、この現象は理解可能なのかも知れない --- とか知的好奇心を振り起こそうかとも思うけど、もう、チケット買えなかったしなあ・・・


6/9/2003(月)

大槻さんのセミナー。

彼の最近の仕事を理解するとともに、アンダーソン局在の分野の研究の近年の動向も把握しようという大胆な目標。 しかし、川路、川畑というお二人の大家(「たいか」です、「おおや」じゃないよ)の深い質問とは裏腹にわからないことは初歩からすべて聞きまくり、目標はほぼ達成。 実は、毎週金曜日に、大槻さんが非常勤講師でもってくださっている講義のあと、高麗さんと三人でお昼を食べて関連分野の話などをしているので、それなりに耳学問だけはあったのだけれど。

さあて。 問題設定も動機もきわめて魅力的な基礎研究であり、数値計算の技術も進んでいて、大槻さんなどはきわめて信頼できそうな結果を出してみせてくれる。 スケーリングやくりこみ群の描像もある程度はみえてきている。 の、ではあるが、しかし、やはりまだまだ理論不在である。 理想化したモデルが解析できないので、さらに、それをいろいろな描像にもとづいて近似した「モデル」を作り、さらに、それを数値計算、というのは、うれしくない。 しっかりした結果を蓄積している部分がある反面、重要な事柄についてどちらかというとやや安易にコンセンサスが作られている感が否めない。

しかし、確かに、むずかしいのである。 数学として満足にできるのは、きわめて局在しそうな領域での局在の証明だけで、他のことは、まったく、さっぱり。 spin-orbit cooupling のある二次元系の伝導の問題は、きわめて魅力的だと思うのだが、まあ、ちょっとどれくらい難しいのか想像もつかない。 大槻さんが帰られたあと、高麗さんと二人で話し合って、あまりの難しさに二人でため息。

でも、完全にあきらめたくはないよなあ。


などと気楽に書いているのだが、実は、いくつかの雑用をためていたところに新たなものが転がり込み、破滅的な状況が近づいているような気がする。

今夜中に、フランスの哲学者の書いた本の翻訳のゲラ刷りにざっと一通り目を通すことができれば、だいぶ楽になるだろうなあ。 とはいっても、いま、夜の11時半で、この本は200ページ強か・・・


6/10/2003(火)

7 日の雑感にでてきた川路先生のご先祖様は、川路聖謨でした。(Y さん、ども。)

さて、川路紳治先生のお写真と見比べて、どうでしょうね?  たしかに、輪郭や耳など、よく似ているかも。


心配していた200ページのゲラ刷りを、昨夜と今朝で一通り読んでしまった。 ちょっと偉いかも。

でも、まだ雑用ためまくり。 理学部パンフレットの原稿も、他人には催促するくせに、自分ではゼロ。 ちっとも偉くない。

(↑明文化していたら、落ち込んできた。)


ひい。夜になってもずっとメール書いたり掲示板で質問したり原稿しあげたりと働きづめで、もう1時をまわってしまったが明日の講義の最後の準備をしないとだめじゃあ。

こんなの書いている暇はないけど、つい書きたくなる。

あんまり忙しいから今日は教授会をさぼろうかと思っていたのだが、頭がぼけていたので、けっきょく出席してしまった。 しかたがないので、SST 理想接触を操作的に定義する方法をずっと検討していたところ、なかなかに、よい設定を考えついてしまったのだ。 わーい。 この設定で、温度差効果を拾わずに熱流効果だけを見ることができるし、しかも、その際に接触のタイプ(つまり、mu-contact か p-contact か、その中間か(って、この用語は今日ぼくが作ったんだけどさ))を気にしなくてもよい。 また、同じ設定にちょっとポテンシャルをかけてやると、理想的な mu-contact の場合のみ流体の流れのない状況が実現するので、理想接触を(原理的には)操作的に決定しうるのだ。 って、めちゃめちゃ意味不明だけど、こういう状況だからお許しを。 詳しくは、近日執筆を開始するはずの SST 本論文第一弾に書くことになるであろう。 本当は佐々さんにメール書いて議論すべきなんだけど、その暇もないので、ちょっと待ってくれ。 (とか書いておいて、実はスカだったら恥ずかしいのお。 「あ、日記見ちゃった? まちがいに気づいてすぐに消したんだけど間に合わなかったか」とか言ってね。)


6/12/2003(木)

二日つづけて睡眠不足のくせに、まあ、よく働いてるなあ、おれ。

自業自得なんだけど、月曜くらいから、起きている間はずっと何かしら雑用をやっているような気がしないではないではない。 とくに、今日は各種雑用をずっとやっている。 昼ご飯も学食の牛丼で瞬間ですませて時間を節約しているのだ。

いま、ようやく三つ目の雑用が収束し、次に備えてコーヒーを飲んでいるところ。 ま、いわゆる、憩いの一時ですな。 コーヒーといっしょに「ローズネットクッキー」なる80円のドーナツを食べている(今、半分食べてある)。 見た目はドーナツのねじれたようなものなのだが、食べてみると、異様に密度が高く重厚でお腹に張る感じがして、お得感がある。 てなことを雑感に書こうかな、でも、それだけじゃネタにはならないしなあ、と思いつつ、なにげにドーナツの入っている袋の裏をみると、これを買ったお店のシール。

げ、しまった。

ボイコット 経済制裁するはずだったのに、早くもローソンで買ってしまった!!

ううむ。雑用責めでぼけた頭にさせておいて、学食帰りにお菓子を買わせてしまうとは、ローソンおそるべし。 (よく考えてみると、レジの奧に椎名林檎のツアーの宣伝みたいなのが貼ってあって、それをぼおおっと見ながら「チケットとれないのに貼るなよ」とか思っていたのだった・・)


6/13/2003(金)

よし。

本日のおやつは、この建物のすぐ下の自動販売機で購入。 見たか、ローソン。(というか、同じ学内といっても5分くらいあるので、ついでがないとローソンまで行く気はしない。)

今日買ったのは「クリーミー・チーズケーキ」という菓子パン(昨日のは、「ローズネットクッキー」というドーナツ。 近頃の食べ物には、自分のアイデンティティーについての悩みがあるのかもしれないと思った。)なのだけど、ちょっとべたべたしていて食べると上あごにくっつくので、少しイヤかも。

おやつ日記かよ・・


6/14/2003(土)

昨日、恒例の金曜昼食会(大槻さんが非常勤でいらっしゃるので、授業のあと、高麗さん、私と三人で栄屋さんに食事に行く)のときに大槻さんに教わった話を、わすれないように書いておこう。

ちなみに、一般の方には、面白くないです。

磁場 H のかかっているメゾスコピック系に四つの電極をつける。 a, b, c, d とでも呼ぼう。 a, b 間に一定の電流 I を流し、その際、c, d 間に現れる電圧 V を測定すると、抵抗の次元をもった量 R(H) = V / I が得られる。 電流は小さく線形応答が成り立つとしている。 ここで、R(H) は H の関数としてどうふるまうか?  波動関数のコヒーレンスが伝導にもろに影響するメゾ系では、これは、H の奇関数にも、偶関数にもならない。 なんか、ややこしい振る舞いをするらしい。

ところが、電極の役割をいれかえ、c, d 間に定電流 I' を流し、a, b 間に生じる電圧 V' を測り、R'(H) = V' / I' という抵抗を定義すると、これは、みごとに

R(H) = R'(-H)
という対称性を満たすらしい。 これは、この状況でのオンサーガーの相反定理の帰結であり、実験でもきちんと確かめられているらしい。 相反定理というと、どうも、わかるようでわからず、驚くべきなような気もするしそうでないような気もするのだけど、この例は、なんか妙に面白くないでしょうか?  また、メゾスコピック系というのも、どうも、面白いんだが面白くないんだか、ピンと来ない話が多いのだけど、これは、なかなか面白いではないか。 いずれ、関連する物事を真面目に考えるときの出発点になりそうな、よい例だと思う。

ついでに、電気伝導の Landauer 公式が、相互作用のある電子系にどういう形でどこまで拡張可能か、というのも面白い問であると認識。

ついでですが、今日のおやつは、田中屋で買ったジンジャーマンクッキーでした。


6/16/2003(月)

月水金の講義と火曜日の会議に加え、突発的な複数(けっこうたくさん)の公用と、例外的な一つの私用で、火曜の午前中以外はすべて予定が入っているという恐ろしい一週間が開始。 (念のため書いておきますが、普通は、予定の入っていないところで、講義の準備をしたり、研究をしたり、雑用をしたりしているわけです。 よって、ぜんぶ予定が入っているというのは、けっこう無茶なんです。)

だいじょぶかな、おれ。


駒場での講義。

教室に向かおうとしていると、金子さんに会う。 なぜか二人とも同じ階段を昇っていく。

今学期は、同じ時間に、同じ建物で講義をしていたことをはじめて知る。 しかも、ぼくの部屋が 723、金子さんの部屋が 722 であった!  生き別れた親子が互いに相手を必死で捜し続けながら、実は都会の片隅の小さなアパートの隣同士の部屋にそれと知らず何十年も暮らしていたという話のようではありますまいか --- ってほどじゃねえか。


第三回拡大 SST 懇談会。 参加者は、伏木さん(←ここに書くと、伏木さんの行動が全国に知れてしまうなあと思ったが、すでに佐々さんが書いているので気にしない)、佐々さん、林さんと、ぼく。

伏木さんから、熱流系の BBGKY hierarchy による扱いのアイディアを聞く。 Boltzmann equation に補正が入る可能性。 なるほど。

ぼくは 、Hayashi-Sasa のポテンシャル変化法について伏木さんにじっくりと説明し、あと、10 日の教授会(内職の)報告。 p-contact(両側で圧力が等しくなるような接触)、mu-contact(両側で化学ポテンシャルが等しくなるような接触(今までは、理想接触と呼んでいた))という用語も、使いまくって、定着させる。 新しい設定については、調子に乗って、当初思っていたよりも強い形の事を言って盛り上がったのだが、いろいろと難点があることを認識。 しかし、弱い形でも、意味はあるだろう。 さらに、ぼくが以前に提案したあと捨てられていた i-contact をこの話と組み合わせることができるのではないかと佐々さんが指摘 。 そこから、けっこう色々なプランができあがる。

なかなか、実り豊かな第三回拡大懇談会ではあった。

あ、ちなみに i-contact は inchiki-contact と呼ばれていたこともあるが、 inclined-contact ということにしておこう。さしあたっては。


6/25/2003(水)

おお。あまりにずっと雑感を書かなかったので、書き方を忘れたかと思った。

ま、ともかく、先週は、たくさんの細かい雑用をこなしたし、ここには書けないので書かないこと、書けるけど面倒なので書かないこと、書けるけど忘れて書かないこと、書けるけど面白くないので書かないこと、などなど色々な仕事をして、たいへんよく働きました。 めでたしめでたし。

今週も、レポートを出したり、けっこうばたばたと忙しいのではあるが。


忙しい一週間、本業の方は、ひたすら思考の枝葉を払い、雑念を捨て去るという作業だった。 けっきょく、i-contact(後の自分(←どうせ忘れるだろうしね)のためのメモ:p-contact (←これが何だったかも忘れたら読んでもわかんないよなあ)の部分に人工的なポテンシャルの差 psi をつけて mu-contact を実効的に実現しようというアイディア)を使った数値実験のアイディアは、ダメダメと判明。 なかなかうまい話だと思ったのだが、やはり罠がある。
There is no free lunch. (無料の昼飯はねえ)
という科学の研究における経験法則が再び確認された。 よって、i-contact は、ひたすら inchiki-contact に降格中であります。

月曜は、講義の後に佐々さんをたずねて、如何にダメかという話をする。 愉しくないねえ。

しかし、余分な色気が消えて、ぼくらの立つ地点が非常にはっきりと見えるようになってきたことであるなあ。 よくはないが、悪くもない。 がんばろう。 というか、どうがんばればいいか、がんばって考えよう。 (要するに、がんばろうということだけど。)


少し余裕が出てきた証に、今日の午後は妻と二人で、久しぶりに「がんこラーメン総本家」へ。

幸い行列もなく、数ヶ月前から新しくはじまった汽鍋(きなべ)という特殊な鍋を利用してスープをとったラーメンを食す。 いやあ、素直にうまい。 幸せ。 麺のゆで加減もスープの温度もトッピングののせ具合もすべて完璧。 さすがです。

汽鍋というのは二重構造になった鍋で、下の部分に水(というかお湯)を入れて沸騰させ、それが蓋の内側で液化して、上の部分(ここにだしをとる具材が入っている)にぽたぽたとふりかかる仕組み。 具はまずゆっくりと蒸され、それからじっくりと時間をかけてだしが出るそうだ。 幸い人がとぎれたので、特注のバーナーや鍋を見学。

あと、本日は、家元の一条さんから直々に

麺 喰 道 三 段
なる認定証をいただく。 よくわからないが、ありがたいことである。 (ちなみに妻は二段をもらった。こっちはちょっと甘いらしい。)

ぼくは、小学校時代は「表彰台の田崎」と言われて恐れられあらゆる賞状を総なめにした --- というのは、もちろん、めちゃめちゃハイパーに嘘で、表彰・免状のたぐいとはほぼ完璧に無縁な人間なので、晴れて認定証をいただいたのは喜ばしいことである。 久保賞の賞状と並べておこうと思います。


6/26/2003(木)

第二部で出している味噌ラーメンも是非食べに来いと家元の一条さんがおっしゃるので、つい、今日も「がんこラーメン」に足を運んでしまう私の姿があった。 いかんな、ほかで塩分を控えないと・・

彼が以前に出していた味噌ラーメンとはまた違ったスープ、そして、なにより、今までのがんこでは食べたことのないぷりぷりした食感の麺に驚く。 意外なだけでなく、もちろん、うまい。

料理人というのは自分なりの幅のある味を切り拓いていくもののはずなのに、世のラーメン屋だけは、同じ一つの味を作り続けて満足しているのは困ったものだと語る一条さん。 ぼくが多くの物理屋について言っていることと似ているし、つい

「一条さんの場合、ひとつの味が完成すると、飽きて、新しいことをやりたくなるんじゃないですか?」
と言うと、にやりと笑う。 思わず、
「ぼくも、そうなんですよ。」

と言って笑いをとって店を後にした私ではあったが、昨今抱えているものについては、飽きるなんて贅沢が言える日は夢想だにできないのであった。


6/27/2003(金)

いつもどおり大槻さんがいらっしゃったので、高麗さんと三人で、学習院の裏手にある栄屋へ。

栄屋さんは、学習院に近い割には、知らない人の多い(というか、知っている人のごく少ない)隠れた名店である。 実は、ぼくも、がんこラーメンの一条さんに紹介されるまで知らなかったのだ。 近所に住んでいたのに。 しかし、実はラーメンの本や雑誌にも着実に紹介されているし、最近でたラーメン本では表紙の写真になっているくらいの有名店なのである。 (とはいえ、雑誌や本で持ち上げられていて行列ができていても、まったく駄目なラーメン屋というのも多いので、要注意。 物理といっしょですな。

栄屋さんは、基本的にはおそば屋さんだが、メニューは豊富で、どんぶりものなども大変おいしい。

が、やはり、私にとっての定番は、中華そばの中盛り。 「ラーメン」と言うよりは「中華そば」と呼ぶのが圧倒的に正しい、おそば屋さんならではのだしのよくとれたスープに自家製の麺。 本日は、少し濃いめのスープを頼み、麺も堅めにしてもらったが、これは正解で、だしとスープのバランスは絶妙であった。 また、自家製のチャーシューも日によって微妙に違うのだが、今日のは絶品。

大いに満足したが、いよいよ、塩分を控えなくては。


というわけで、最近は、ラーメン日記なのだが、物理のことも書いた方がいいよなあ。

実は、今日の「解析力学」の講義で、二つの新しい剛体力学小道具を登場させたので、その話を書くべきなのだが、こういうのを書き出すと長いので、ちょっと待ってくれ。

だいたい、明日から研究室の合宿なので、今日のうちに月曜の講義の準備をせねばならないのだ。 ちょうど、準備のストックが切れたところ。 残り三回で如何に着地するかをよく検討しなければ。


6/30/2003(月)

ラーメンを食べなかったので、日記はお休み。


というものでもないけど、もう遅くて眠いので、ちゃんとは書けない。

合宿の疲れがとれないまま駒場で講義。

講義のあと、学食での昼食だけではエネルギーが戻らず、生協でアイスもなかを買って噴水の前で食べる。 大学受験の時もこの噴水の前で昼飯を食べた気がする。 アイスもなかは「ボブサップ・アイスもなか」なるもので、ボブ・サップの写真がパッケージにつている。 これほど、ぼくに似合わない食べ物のパッケージも少ないだろうな、と思う。

けっきょく、何となく貧血気味で力がでないまま佐々さんのところに行き、そのあとは、川崎さんや佐々さんや佐藤さんの話を聞いてひたすら議論。 もうエネルギー切れのはずなのに、理論屋としての魂のなせる技か、あるいは、ボブ・サップの霊験か、けっこう元気に黒板で計算しまくりながら楽しい時を過ごした。 特に、佐々さんの話を如何に高次元に拡張するかについて、佐々さんとぼくとで入れ替わり立ち替わり黒板で計算した「アドリブ・セッション」は愉しかった。 (最後まで行き着かなかったし、大問題でもないけど、やっぱり、新しいのもの見方で一生懸命に考えるというのは楽しい。 人といっしょに考えながら計算するのも楽しい。) でも、おじさん二人は体力ないんだから、若い人にも飛び入りで参加してほしかったなあ。

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言うまでもないことかもしれませんが、私の書いたページの内容に興味を持って下さった方がご自分のページから私のページのいずれかへリンクして下さる際には、特に私にお断りいただく必要はありません。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp