茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
びっくりすほど日記を書いてない。 「あ、これは書いておこう」「これこそ記録しておかねば」と思うことは多いのだが、それをタイプしてまとめるだけの時間と、おそらくはそれにも増して、心の余裕がない。
時間とともに単調増加する「やりたいこと・やるべきこと」に、時間ととも単調減少する「体力」が追いつかず苦しいなどという情けない台詞をしばしば口にしてしまう今日この頃。情けない。
しかし、これから夏に向けてさらに忙しくなることが確定しているのであった。 ふう。体力よ戻って来い。
学習院大学理学部物理学科教員公募のように、ぼくの所属する理論物理のグループで新しい専任教員を公募しているということ。 私見では、国内でももっとも自由に理論物理学の研究を進められる(そして停年 70 歳の)ポジションだから、是非ともしっかりとした人を選びだいと思っている。個人的にも、ぼく自身の停年(なんと、残り十数年になってしまった!!)まで(おそらくは)近くで過ごすことになる人だし、人選はきわめて大事だよね。
というわけで、7 月 25 日の締め切りの後は、ひたすら膨大な数の書類を読んで必死で選考を進めることになる。 経験のない方でも想像がつくだろうけれど、これは、頭脳的にも、肉体的にも、そして、精神的にも、たいへん疲れる厳しい作業なのだ。
ちなみに、これは公募だから、もちろん公募。 「独自の研究を進められる高い能力を有し、本学での教育に情熱を持って取り組める理論物理学の研究者」という以外には何も決まっていない。 候補者はもちろん、候補とする分野もまったく想定していないのである。 該当する方にはぜひとも積極的に応募してほしい。
このようなことはわざわざ書くまでもないと思うだろうけど、世の中には、分野を絞るどころか、採用する人を決めてから堂々と公募を出すようなところもあるという話を耳にしないでもないので、まあ、書いておきました。
CREST 「現代の数理科学と連携するモデリング手法の構築」の領域アドバイザーなるものを引き受けてしまったということだ。 どちらも数学の分野の研究領域である。さきがけ「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働」
こんなのをやるのはもちろん初めてだし、そもそも JST のプロジェクトとかその類の(大きなお金が動く)ものとは無縁の人生を送ってきたので、いったいどういう仕事があるのかも正確にはわかっていない。 聞くところでは(最初は楽だと言われていて、詳しく聞くほどにそうでないことが判明してきているわけだが)、プロジェクトに応募してきた研究計画の審査が最初の山場らしい。 これについては、既にスケジュール表も送られてきたが、確かに大変そうだ。会議もいっぱいあるし、それ以外の作業もたっぷりあるようだ。 やれやれ。
もちろん、反射的に断ろうかと思ったし、その後もかなり迷った。でも、今回は、数学コミュニティーから丁寧に依頼されたというところがやっぱり大きかった。それで、つい、引き受ける方向で考えてしまったのだ。
そもそも、ぼくは純粋な「数学ファン」であり、数学のコミュニティーのお役に立てるのはうれしいと素直に思っている。これはけっこう大きな理由になるよね(一方、今回の研究領域が数学の実際的な問題への応用であることについては、それなりに厳しい真面目な意見をもっている。数学というのはやはり数学であって、現実の問題への応用というのは、やっぱり別の「文化」を必要とする世界で、一筋縄ではいかないと信じているから)。
そして、それ以上に大きな理由として、変な言い方だけど「数学コミュニティーへの恩返し」をいつか何らかの形でしたいと前々から感じていたということがあるのだ。
ぼくは、それこそ大学生の頃から数学と物理学の関わりということについてかなり本気で考えてきた(ま、だいたい、数学科に行くか物理学科に行くか迷ってたわけだし)。 そして、大学院を出た後でアメリカでポスドク生活をした際に「生きた数理物理」に触れ、数学と物理のきわめて密接な関係を体験して衝撃を受けたのだ。 帰国してからは、アメリカでの経験とのあまりの差に愕然としつつ、日本での数学と物理学の関わりが弱く表層的であるという意見をことあるごとに表明していた。
しかし、それから二十数年が経った(まじで〜?)今、日本での数学と物理の関わりはびっくりするほどよくなっている。 弦理論系の物理学と幾何学の結びつきというのは既に人類文化の大事件と認定されているので(←俺が認定した)、そういう特別な事情は別にするとして、確率論なんかの動きを考えるだけでも、ほんとうにすごい変化があった。 そもそも、ぼくの友人の(物理学者の、あるいは、物理学者出身の)原や服部さんは今や確率論の先生として大学に勤めている。 また、確率論プロパーの人が主催した研究会に数理物理よりの人が(そして、時には竹内さんのような実験家も!)いっぱい呼ばれるようになっている。 こういうことは、ぼくらが学生の頃には、ちょっと想像もできなかったことなのだ。
で、いったいどうして二つの分野の関係がここまでよくなったのかとふり返ってみると(もちろん、ぼやいているだけで、自分の研究に忙しかったぼくの貢献なんてゼロに等しくて)もっぱら数学サイドが積極的に物理との交流を進めて来たことによるんじゃないかという気がする。 ちゃんとしたデータに基づいているわけじゃないけど、ぼくの感触では、物理サイドは淡々と今まで通りのやり方を続けていて、数学のほうが(いくつかのところで看板を「数学」から「数理」に掛け替えたこともあって)どんどんと懐を広げていったという気がするのだ。
ま、そんなわけで、ぼくは、数学の人たちにはお世話になっているなあとずっと思っていた。いつか数学コミュニティーに「恩返し」ができるチャンスがあれば、そのときにはちゃんと勤めを果たそうと思っていたというわけだ。
しかし、もしかすると、「これは断れない」と思ったからといって引き受けていると、いつの間にかそういうのがどんどんと蓄積しいき、あっという間に「会議や書類読みが忙しくて研究ができない中堅」に成り下がってしまうのかもしれない。 それだけは避けなくては!