茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
さて、8 日の最終回を目前に集中講義の準備に時間をかける。 ノートはずっと前に一通りできあがっているわけだが、第二部が残っていて時間が圧迫されていることもあり、なんとか時間内(って何時までだろ??)におさめるべく、ストーリを崩さない範囲で除ける部分を除き、また、一部の話の進め方や説明のロジックを簡略化していくという作業を続ける。
思い返せば、やっぱり、この集中講義の準備には異様に長い時間とエネルギーを使っている。これだけ凝縮した話をしようと思うと普通の講義の完成度よりは二段階くらい上を目指さなくては行けないわけで、改良しても改良してもなかなかゴールに近づかないという感触がある。 別に凝縮して押し込めばいいというものではないからね。あくまで「一生懸命に聴いた人にはこれらの理論をめぐる大局的なストーリーと具体的な強い結果についてかなりの事が伝わり、後から学び直す際の基盤になる物の見方や考え方を自然に身につけてもらう」という大きな目標は忘れたくないのである。
聴いてくれている人たちから、素晴らしいタイミングでポンポンと実に的確な質問が出てくるのもうれしい。 まさに強調したいこと、強調すべきこと、次に強調するつもりだったことを質問してもらえるというのは(もちろん質問してくれた人たちが優秀で理解が的確ということなんだけど)解説のストーリー性が明確に出ているということでもあるから。
一方で、自分自身の体感とは全く異なる時間の流れをも痛感する。 Koma-Tasaki の定理を紹介していてこの仕事が 1994 年なのに自分で驚いてしまった。「20 年前じゃない、ひょっとして、生まれてない人もいる?」と聴いてしまったが、実際に、余裕で生まれていない若者も聴いてくれていた。 Affleck-Kennedy-Lieb-Tasaki に至っては 1987 年。生まれていない人のほうが多数派かもしれない。 考えてみれば、Princeton に行ってこのあたりを必死でやっていたのはちょうどドクター 3 年の冬に相当する時期だったのだ。今回の講義にも何人かの D3 の人たちが顔をだしてくれているが、ぼくが彼らの年齢だったのだから、そりゃ昔か・・・
あ、しかし、何にもやっていないわけじゃないよ。 ちょっと必要があり、高麗さんに手ほどきを受けて Lieb-Robinson bound について学び、自分でも簡単な場合は証明できるようになった。 また、教育方面では、通常の講義等の他にそれなりに気を使うことがあって、けっこう時間もかけて、がんばってなんとかやっているつもりだ(でしょ? 周囲のみなさん?)。
幸い、体力も戻ってきたし、年末年始がどうのこうの言わずに、がんばろう。 尻切れトンボの日記だけど、ま、いいや。
ぼくたちにとって「11 日」が特別の日付になってしまってから 3 年と 9 ヶ月か・・
集中講義のおしらせ
11 月 17 日、12 月 1 日, 8 日に東大(本郷のほうです)で集中講義をします。
多体問題の数理物理についての本格的な講義を目指しています。ご興味のある方は是非ともご参加ください。
学問的にも、「量子多体系での長距離秩序と対称性の自発的破れ」、「低次元量子スピン系における量子液体」、「ハバード模型と強磁性の起源」という三つの重要なテーマについて自分自身の仕事も含めて今日の視点からストーリーを作り直すのは愉しくそれなりに実りのある仕事だった。ちょっとあれだが、胸を張って後に残せる仕事を過去の自分が手がけたという事実を再認識するのはやっぱりうれしい。一方で、こんな若造(←かつての俺のことね)に負けないようにがんばらねばという気にもなるんだけどね。がんばろ。
しかし、これがよくできたもので、これまで水面下に沈んでいた感じで意識にもあまり昇らなかったいくつかの研究トピックや論文のテーマたちがごく自然に水面に向かって浮き上がってくる感じで、最初は朧げに見えて思い出し来て、次第にくっきりと浮き上がってきつつある。 これは強く意識してやっているわけでもないし何か苦労して習得した技でもない。 何を最優先すべきかを判断して決定すると、わりと自然に「面白い」と思う対象が上手に絞られる機能がぼくの脳にはあるみたいだね(ただし、本当に研究がばりばりに進んでしまっているときにはもうそっちに集中してしまってどうしようもなくなるけど)。
まずはあれを片付けて、それから、あれ。そして、ちょっと大きめのあいつだ。 年末は容赦なく迫るけど、そんなことを気にせずにやろう。
や、大晦日になってしまった。 早い。
技術的には Koma-Tasaki の諸定理よりもずっと簡単で、あの頃にできていてもおかしくはなかったんだけど、なかなかそこまでの動機が盛り上がらなかったのだと思う。 今年になって、東大の集中講義のために Koma-Tasaki を復習したこと、そして、(バークレーの大学院生の)渡辺さんがこのあたりに興味をもって色々と質問して議論してくれたことで、物理的に何がおきているかの理解が深まり、結果として、ちょっとだけ数学的な結果も進んだというわけだ。
やっぱり、ちょっとずつでも自分の理解が進んでしっかりしたものになっていくのが何よりもうれしいな。
だんだん、残りの人生でどれだけのものを後に残せるのかということを真面目に考えるべき年齢になっている気もするし、何に時間を使うかについては厳しく吟味せねば。
みなさま、どうかよいお年を。