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「熱力学 ― 現代的な視点から」への補足

更新日 2021 年 9 月 2 日

【重要】三重点における熱力学の操作的構成(付録 E への追加)

(2021/9/2)
本書で採用した温度をパラメターとする状態の指定方法では、三重点にある系の状態を指定できないため、厳密にいうと一貫した熱力学の体系を操作的に構築できないということを本文で述べた。しかし、これは正しくなかった。

本書の英語版を準備する過程で、三重点においても、状態の指定方法を工夫すれば、温度を指定する方法でも熱力学を完全に構築できることがわかった。 温度を指定する操作的な構築の欠点は、本質的なものではなく、技術的なものだったといってもいいだろう。 これは主として英語版の共著者の Glenn Paquette さんの貢献である。

これによって、本書の出版から二十年以上(←え、そんなに経つんだ!!)引っかかっていた(マニアックだけど)最大の不満点が解消した。よかった、よかった。 この新展開を教科書にどう反映できるかよくわからないのだが、ともかく「付録 E」に続けて読める文書を公開する。

【重要】Carnot の定理の証明(5-4 節)の改良について

(2015/8/26)
この項目は 18 刷(2016 年 9 月 20 日)以降には不必要です(すでに完全に修正されています)。
東工大の田中琢真さんのご指摘で、5-4 節でのCarnotの定理(結果 5.2, 75 ページ)の証明が圧倒的に改良されることがわかった。難解な付録 A もまったく不要になった。

これに関して、二つの文書を公開する。

「スケートが滑る理由」について

(2010/3/1)
p 146 の脚注 31 で、「スケートが滑るのは、スケート靴に押された氷の圧力があがり融点が下がるためだ」という「通説」に疑問を表明した。 このテーマについて、Physics Today の 2005 年 12 月号 p. 50 に "Why is Ice Slippery?" by Robert Roseberg という記事が載っている(完全な pdf ファイルが公開されていた)。 この記事での結論は、やはり上の単純な説明には問題があり、「スケートが滑る理由」は摩擦や表面状態などと関わるデリケートな話だということだ。

以下、少しだけこの記事の中身を要約する。

結局は、「ややこしい」ということに尽きるわけだが、「スケートが滑る」というような複雑な現実の現象を考えるときは、さまざまな要素が絡まってきて話がややこしくなるのは、ほぼ当たり前のように思う。 それについて、なんとなくかっこいい説明が出てくると、ろくに実験的な検証がなくても、みなが信じて俗説が一人歩きしてしまうというのはちょっと情けない話である。

浸透圧の実例について

p.186 図 9.3 の説明 (3/22/2000, revised 5/16/2000)

ここで、浸透圧の一般的な説明のあとに、

長時間入浴していると指の先の皮膚がしわしわになることがあるが、 これはわれわれの皮膚が塩分を透過させない半透膜として機能するからである。
という記述がある。 お恥ずかしいことだが、 この「一口科学知識」的な記述は、私がどこかで耳にしたことを、 きちんとした裏付けをとらずに、そのまま書いてしまったものである。 スケートとクラペイロンの関係を「俗説」として厳しく扱っているにもかかわらず、 自分自身、こういう俗説かもしれないものを気楽に書いてしまったというのは、 まったく不覚であった。

ふと気になり始めて、 調べたり、人に聞いたりした。 その結果、今のところ、

この説明は、おそらく正しいが、 いろいろとデリケートなところはある
との結論に達した。

以下、わたしの理解したことを簡単に書きます。 より詳しい事情をご存じの方がいらっしゃたら、教えて下さい。


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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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