学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A23-4 インド及びインドネシア等のアジア諸国における州別SDGs達成度の時系列変化分析及び諸外国間での比較(2023年度)

 

構成員
代表研究員 白田由香利
研究員 久保山哲二
(1)研究の目的・意義

 SDGs達成度向上は現在、 世界中が真剣に取り組んでいる最重要課題と言える[1]。 東南アジア諸国の達 成度は達成までの道のりが長い国が少なくない[2]。 165カ国中、 日本18位、 タイ43位、 ベトナム51位、 マレーシア65位、 イン ドネシア97位,インド120位である。 SDGsのゴールは17個あり、 夫々に評価スコアが 計算され、 最終的に統合化された composite scoreが計算される。 本研究では、 SDGスコア間の関係性を解析し、 各国の達成度増加パターンを評価し、 比較を行う。 比較により、 共通する成長パターン、 及び、 国独自の事情によるロ ーカルパターンの抽出を目指す。 ここで言う成長パターンとは、 スコア間の因果関 係等である。 例えば、 教育の質(SDG4)向上が、 工業化(SDG9)を促進する、という仮説である。 成長パタ ーン仮説がデータ分析により証明できれば、 現在、 スコア向上中の発展途上国における有益な指針となる。換言すると、政府がSDG達成のために、限定された資源をSDGのどの項目に投資することが有効であるか、という知見を得ることとなるであろう。  先行研究として、我々はインドのトイレ普及について分析を行った。トイレ普及はSDG6 " Clearn Water and Sanitation" のゴールに含まれる。2014年10月2日モディ首相はスワッチ・バートラというトイレ 普及活動を開始した。運動を管轄する飲料水・衛生局はインド各州のトイレ普及状況を数値化して達成率 を分かるようにした。結果として,国民と約束した5年後2019年10月2日、モディ首相は計画の達成を宣 言。ここでモディ首相は「トイレ普及により保健・医療支出は減少」と述べ、これはインドによって重要 な節目であることを説明した。トイレ普及⇒健康レベル向上、という因果関係は通説としては複数の文献で認められているが、その関係性の数値化及び可視化を行いたい。インドのSDGs達成において、我々が最も注目する点のひとつはトイレ普及が男女平等(SDG5)達成に与えた影響である。インドでは女性の地 位向上、ジェンダー間格差の解消が社会的問題となっている。家にトイレが無い、学校に女子トイレが無い、という問題は女性の行動に大きな制約を与え、活動を束縛するものである[3]。本研究では、トイレ普及率の高い地域では,ジェンダー間格差が減少していることを示したい。  本研究は、東南アジア諸国のSDGs達成の加速に役立つ。可能性としては、アフリカ等の達成度の低い国でも役立つ知見となるかもしれない。従来は経済重視の成長戦略に基づき資源投資を行ってきた。過去人類の歴史を見ても、現在のSDGs達成活動のように、地球規模でESG(環境・社会・ガバナンス)のバランスに配慮しつつ、かつ、データの可視化により活動推進を行った事例はない。通説や経験から為政者は、どの項目に資源投資を行うとどこのような国民の利益を産むか、という因果関係を理解して政治を行ってきた。しかし、世界中がここまで大規模かつ詳細にデータ収集を行えば、そのデータベースを用いてAIによる精緻なデータ分析が可能となる。SDG達成度のデータベース化が詳細な関連分析を可能とした。本研究では、SDGs達成への時系列及び国の州別分析を行い、人類が渇望していた「資源投資によるSDG s達成・成長パターン」の抽出及び可視化を行っていく。 く参考文献> 1.Sachs, J., Kroll, C., Lafortune, G., Fuller, G., & Woelm, F. (2021). Sustainable development report 2021.Cambridge University Press. 2.Chaturvedi, S. (2021). Evolving Indian Strategy on SDGs and Scope for Regional Cooperation. South a nd South-West Asia Development Papers, 21-01. 3.Drishti Kohli,Dr. Manisha Raj, "AN ANAL YSlS OF SDG lNDlA lNDEX : WHERE DOES INDIA STAND?", International Journal of Creative Research Thoughts (IJCRT), ISSN:2320-2882, Volume.9, Iss ue 5, pp.f76-f85, May 2021, Available at :http://www.ijcrt.org/papers/lJCRT2105542.pdf

(2)研究内容・方法

 データおよび方法、研究者のスキルについて説明する。  本研究における最重要課題はデタの取得である。インドに関しては、SDG India”というインド政府によるサイトから入手可能である(https://sdgindiaindex.niti. gov.in/#/).ここには2018年から年次データが '州別で収集されている。我々は既にこのデータで予備実験を開始している。右図はSDGsスコアの2018年度と2020年度の比較である。スコア中、ジェンダーSDG5が最も低くこのスコアの成長が期待されていることが分かる。インドネシアに関しては、インドネシア統計局によるStatistics Indonesiaがあり(https://www.bps.go.id/)プロビンス毎のデータが収集さ れている。タイ、マレーシア、ベトナムについては、我々の研究者ネットワークにより、各国の研究者に問合せ中である。SDGsランキングの低いインドとインドネシア両国のデータが必須であるが、それは取得できたので、問題なく研究は進められる。  手法は最新のAI(機械学習)手法を用いる。まずクラスタリング手法による分析を行う。上図は、インドの2018年度と2020年度のSDGゴールの州によるパターン類似度によるクラスタリング結果の比較である。右が2020年度である。共通する特徴は「教育、工業化、再生可能エネルギーの州別分布パターンの類似度が高い」ことである。天候問題が重要化していることも上図から読み取れる。2020年度では、サニタリーとジェンダーの州別分布パターンの類似度が高い。これは2018年度には見られなかった関係性で、2020年度に初めて出現した。今後州別の詳細分析を行うが、これは「トイレ普及によるジェンダー問題への正の影密」の重要なエビデンスとなる。  2番目のAI手法はShapley値による回帰分析の評価(以後SHAPアプローチと呼ぶ)である。このSHAPにより州毎の構造特性に基づき、その州では各SDGs説明変数の統合スコアへの貢献度が抽出可能となる。インドの中でSDGs統合スコアが最も高いKerala州の2018年と2020年の比較をすると(右図)、3健康の貢献はほぼ0となり、インドの他の州と比較するとKeralaでは健康問題は、ほぼ達成され統合スコアへの貢献は無くなったことが読み取れる。4教育及びジェンダー、13紀行の貢献は大きく増加した。6サニタリーに関しては、負の値から0に向上して、トイレ環境の改善が読み取れる。  SHAPの他にもShape Analysis等の分析手法を用いて州別の時系列分析を行い、地図上に可視化する。  研究者のスキルについて述べる。代表者である白田はインドネシア大学の人口問題研究所で長期研究したこともあり(2018年)インドネシア研究者とネットワークをもつ。本研究では、分析及び可視化プログラムの作成と分析を行う。  インドネシアに関しては、同大学工学部Prof Riri Fitri Sariに協力して頂く。橋本氏は2011から2014年まで、IEEEのReration10(アジアパシフィック)のWIE(Women in Engineering)の議長を務め、2020-2021まで、IEEE R10 Sesretaryを務め、アジア諸国において強固な研究者ネットワークを持つ。橋本氏はデータ収集、分析を主に行う。  チャクラボルティ氏は元インド国籍で、現在、岩手県立大学に所属し、自身の科研の研究を行っている。6月から8月はインドMadanapalle Institure of Technology and Scienceおいてvisiting scholarとして研究をする。コルカタ大学及び、インド統計大学(ISI)とのには元同級生及び教え子が多く、インドに関するデータ分析に最適な人物である。  過去の東文研プロジェクトにおいても、この4人で共同で研究を行い、以下の成果等がある。 ●"COVID-19 に関するインド、日本、インドネシアSNS上でのトピック比較," Reseach for oriental Cultures, Vol. 24 (March 2022), The research institure for Oriental Cultures of Gakushuin Universit y, pp.287-328. ● "Time Series Analysis of Gender Empowerment Index by Provinces in Indonesia, " Reseach for Oriental Cultures, Vol.23(March 2021), The research institure for Oriental Cultures of Gakushuin University, pp.283-304.  山口氏は現在、日本大学経済学部の専任講師である。また、お茶の水女子大学附属嵩等学校の教員時代 に生徒のデータ分析を指導して、統計データ分析コンペティションにおいて2019年に総務大臣賞、2021年に特別賞(統計分析)と特別賞(統計活用)を受賞させた実績を持つ。白田研究室の社会人ドクターコースの学生でもある。山口氏は可視化プログラムの作成と分析を行う。  久保山氏は、最新Al分析手法について知識が豊富であり、分析手法の改良点についてアドバイスを行う。 研究者メンバーには、東南アジア諸国との強いネットワークをもつ、橋本氏と白田が含まれ、チャクラボルティ氏、Prof Ririも含むので、データ収集に問題はない。研究は遂行可能である。