学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A24-1 明治期日本人の雲南認識:大江卓『雲南紀行』とその周辺(2024年度)

 

構成員
代表研究員 武内房司
研究員 千葉功  島田誠
客員研究員 野本敬
(1)研究の目的・意義

明治期、多くの日本人が中国をはじめとするアジア各地に進出し、多くの記録を残した。歴史研究者や 外交官の残した諸記録は日中関係をはじめとする日本・アジア間関係史の重要な史料として活用されて きた。しかし、それ以外にも多くの民間アーカイプズが残されている。本プロジェクトにおいては、1908 年にミャンマーを経由して中国西南の雲南に入境・滞在した大江卓の記録『雲南紀行』(稿本、国図書 館憲政資料室蔵)に着目し、その翻刻と解題を試みるものである。大江卓は京釜鉄道株式会社の経営に あたった財界人であったが、雲南省のタイ族首長刀安仁の近代化プロジェクト支援のため雲南を訪問し た。この記録において注目されるのは以下の3点である。ア)大江卓の雲南訪問は、立憲と革命という 二つの政治勢力がせめぎ合っていた清末雲南の政治状況をよく伝えていること、イ)雲南タイ族の政治・ 社会組織に対する優れた観察記録であること、ウ)刀安仁の近代化プロジェクトには多くの日本人がか かわり、さまざまな記録を残しているが、それらと相互参照することでプロジェクトの実態を詳細に描 き出す事ができること、などである。この『雲南紀行』に詳細な解題・注を付し、刊行することで、こ れまで十分に取り上げられてこなかった中国西南・東南アジア大陸部に対する明治期日本人のアジア認 識の具体相を提示することができ、さらにまた、最近の革命や現代化の流れの中で失われた雲南タイ族 社会の過去の記憶や社会像を復元する上でも重要な貢献をなしうるものと期待される。

(2)研究内容・方法

 本プロジェクトにおいては、日本近代史、中国近代史、東南アジア史の専門家からの学際的な共同研究 を行うことで、上記課題に接近したいと考える。具体的には以下の方法・作業を予定している。 ①大江卓が雲南を訪問する契機となった雲南土司刀安仁の来日、刀安仁と宮崎沿天ら日本のアジア主義 者との関係、刀安仁と孫文ら革命派との関係について、日本側の史料以外に台湾国史館や中央研究院 近代史研究所福案館などの諸史料を駆使して明らかにする。 ②大江卓の雲南行に参加した日本人の記録の収集• 発掘に努め、稿本『雲南紀行』の注釈・解題に活か していく。 ③『雲南紀行』には、人口統計を含め、さまざまな民族誌データ・記述が登場するが、それらは現地の タイ族首長(干崖土司)より提供されたものと推察され、史料的価値が高いと判断される。その史料 的意義を近年の民族学・東南アジア研究の成果を踏まえつつ注釈を加え、その意義を明らかにしてい く。 ④ミャンマーを植民地化して以降、隣接する雲南の政治情勢、とくに刀安仁ら雲南タイ族の動向に強い 関心を有していたイギリス側の記録(F.O文書など)を読み解きながら、大江卓の裳南訪間の背屎を 考察する