日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


6/13/2002(木)

ぴゅいいいいいいいいいんん。

(↑再起動中の音です。)


6/14/2002(金)

個人的ごたごたもようやく峠を越しつつありますが、長々と雑感を書く余裕はまだちょっとないかな。

それでも、講義をこなし、たまった雑用を片づけるかたわら、物理についてのメールを書いたり、物を考えたりする余裕もようやくでてきて、ちょっとうれしい。


今年の田崎ゼミではみんながんばって準備している、と少し前に書いた。

がんばってるせいかどうかはしらないけれど、前々回のゼミでは、発表していた T 君がとつじょ足の指がつって苦しみはじめ、それでも、靴を脱いで痛みに耐えながら板書をつづけるという痛々しいアクシデントがあった。 さらに、前回のゼミでも、必死で黒板で計算していた S 君が、とつじょ手の指がつって苦しみはじめ、それでも、チョークを左手に持ち替えて計算を続けようとして、さすがにみんなに止められ休憩をとるというアクシデントがあった。

なんと、おそろしい。 別に、筋肉に過負荷かけるようなゼミ指導をしているつもりはないんだけど。

さて、今日のゼミでは発表者の O 君はどこがつるだろうか、と一同緊張する中ゼミが進んだのだが、幸いにも、(またしても著者のいい加減な勘違いが発覚した以外は)なんのアクシデントもなく無事にゼミは終了。 いや、別につらなかったからがんばってなかった、というわけじゃないのでご安心を。


6/17/2002(月)

順調に復活中。

最近の行動についての箇条書き的メモ。


木曜:

余裕がでてきたことを自ら確認することも兼ねて(?)、久々に、散歩をがてらに、早稲田の○○○ラーメンへ。

最近にはめずらしく若干の行列。 「二つの異方的な SST を統合する理論の模索」という答がでないに決まっている問題について検討しつつ順番を待つ。 (もちろん答はでない。)

今年になって新店舗にうつり新機軸のラーメンを出していたのだが、またしても、メニューが大幅にかわっている。 一種、おもちゃ箱をひっくり返したようなバラエティを見せてくれる時期のようだ。

とはいえ、初めて食べる彼のタンタンメンは、見事であった。 猛烈においしい極上のすんだスープ。 辛い挽肉の煮込みがうまくマッチする。 これまでのラーメンからの(ぼくの)類推を裏切る作品に脱帽に。

何事も、基礎的な実力があってこそうまくいく、ということを教えてくれる例でもあった。 (←ちょっと、わざとらしい文章であるなあ。読み返してみると。)

さいごに、店主の I さんに、アエラムックにぼくが書いた記事のコピーを渡す。 (なぜかは、記事の結びを読むとわかる。 そろそろ、ここで公開してもいい頃かな?)


金曜:

通信教育などをてがける(メジャーな) B 社の O さんと、(メジャーな)広告系の会社に勤める物理学科卒業生の T さんが、力学の講義を参観に。 シ○ジローは来なかった・・・

できれば、ゆで卵で盛り上がっているところを見てほしかったけれど、それは、仕方がない。 いつ見ていただいても恥ずかしくないようにやっているつもりだし。


月曜(今日):

家で、Hubbard 模型についての田中さんのノートを読む。

強磁性の問題についての良質のリハビリ。 さて、Mielke やぼくがやってきたことを含む大きな何かがあるのか??

大学に来て、統計力学の講義で配るノート(分配関数の古典極限の導出)をつくる。

Tr を平面波の波動関数で評価する、というきわめてまっとうな方法。 長岡さんの岩波の教科書には、前期量子論を用いるという議論があるが、ぼくには理解できない。 Ma か何かに、露骨に B-Z の量子化条件を用いる方法が書いてあったが、それだと、一次元一粒子以外はお手上げなのだ。 Landau をみると、ぼくと同じやり方で、さらに h の高次までの展開計算がかいてあった。 さすが、というか、当然か。


6/18/2002(火)

雨だが気温が低いので蒸し暑くはない。

午前中は、家にこもって田中さんのノートの続きを読み進める。

問題ととことん付き合ってその素性を知り尽くしてはじめてできるような技巧的な評価に感心することしきり。 一体、この論法のエレガントな一般論はあり得ないのか、とぼおっと考えていると、ふと、胸の奥で妙な懐かしさを感じる。 それもそのはずで、この田中さんの証明は、ぼくがずっと昔に一次元のモデルについて苦し紛れにやっていた評価のはるかに洗練され進化した姿だったのだ。 それに集中して頭を使おうとすると、ずっと昔に同じ問題を考えていたときの脳+精神の状態が自然とよみがえってくるのであろう。


午後からは大学へ。

研究室に来て下さった那須野さんとコーヒーをのみつつ少し話す。

テーマは自ずと統計物理の展望について。 現状を見ると、どうしても重い気持ちになる。 とはいえ、そんなことで重がっていたのでは、ますます世の中悪くなる。 ともかく、わしらが頑張らねば、というところか。


田中さんのノートを読むことで、失われていた動機が戻ってきた気がするので、しばし Hubbard 模型に集中しよう、という気になった。 とはいえ、数年前に達したところを越えることは、ほぼ確実にあり得ないと知ってはいるのだが。 (もちろん論文を完成させるだけでも一定の意味はあるし。)

それに連動してかどうかは知らないが、何年も読み続けていて、ここしばらく中断しているプルーストの続きを読もうという気にもなっている。 こちらは、確実に進むよね。 (以下ネタバレなので、これから読む人は注意(とか言ってみる)。) パリのアパルトマンでアルベルチーヌが浴びるシャワーの音を聞いているあたりで時が止まったみたいになってしまったのも、不思議と心地よいのではあるけれど。


6/19/2002(水)

個人的多忙さが一段落したあたりから、理学部で出している紹介パンフレットの改訂作業というのをやっているのだった。 別にやりたいわけじゃないのだけど、はじめに作成にかかわったメンバーで今年活動できるのがぼく一人なので、しかたなくやっている。 (そのために、去年よりも相当に遅れて改訂をやっているのだ。 ぼくは、一見、事務能力がありそうだけれど、スケジュール管理ができないので、根本的には信用できないということを知っておいて下さい。 あまり、事務仕事をさせない方がいいということです。 (←平野さん、那須野さん、ご覧になってますか??))

コピー風の短文を書いたり、レイアウトを相談したり、資料をまとめてデータにしたり。

なんか、学生の頃にやってたのと同じようなことをやっているなあ、と思ってしまう。 もちろん、今のは、業者の方がきれいに仕上げてくれるから、ぜんぜん違うんだけど。

というわけで、今日は写真撮影。 みごとな撮影日よりの快晴になった。

ぼく「今日は撮影があるから、そろそろいかないと。」
妻「え、じゃ、そんないい加減な T シャツじゃ駄目じゃない。」
ぼく「あ、今日は、新しく来た人の写真と演習の風景の写真を撮るだけ。ぼくは打ち合わせとかをするだけなんで、写真とは関係ないんだ。」
本当に「関係ない」予定だったのだ。 ところが、午前中に打ち合わせをしたところ、成り行き上、ぼくの午後の講義にもカメラマンがいらっしゃって写真を撮っていただくことになってしまった。 なるべく、ぼくではなく学生さんがうつっている写真を使ってもらおう。

そのあとは、物理学科の演習風景の撮影。 板書する学生さんに、すぐ後ろに立った先生がつっこみを入れる場面などなど。 被写体になってくださった皆さん、ありがとうございました。 (「あれ、水曜日は物理学科の演習ないんじゃなかったけ」とか言っているあなたへ。 あなたは重要な秘密に近づきつつあります。 それ以上考えを進めないのが得策ですぞ。)


6/21/2002(金)

うううむ。 金曜の講義が残り二回とは驚いたぜい。

もちろん休講なんて一回もないんだけど、進まないものだねえ。 あと二回でどうやって着地するか必死で考えなければ。

って、学期末になるといつも同じこと言ってますなあ。


忙しくて髪の毛を切らないでいたら、なんと、どんどん伸びていくではないか。 ほんと、生きているっていうのは、非平衡かつ非定常なことだ。

あつくてうっとうしいし、シャンプーもたくさん消費するし、頭が重くなるから移動する際の仕事が大きくなるし・・・と、いいことはないので、さっさと切りたい。 しかし、パーマ屋さんが混んでるかもと思うと気が滅入る。

今にして思えば、日本中の人が同じテレビを見ていた時をねらってパーマ屋さんに行けばよかったよなあ。


明日から研究室の合宿で秩父へ行ってきます。
6/24/2002(月)

金曜日に、

日本中の人が同じテレビを見ていた時をねらってパーマ屋さんに行けばよかった
と虚心坦懐に書いたあと、覚悟をきめてパーマ屋さんへ。 すると、お客はゼロ、店員はみな奥の部屋に集まってテレビをみている。

にゃあんだ、今日もだったのか。

というわけで、ぼくを担当して下さった方は「事実上の決勝戦」の最後を見逃すことになったのでありました。


週末は合宿のあった秩父まではレッドアローで往復。

車内はなかなか快適。 計算用紙を出して、Hubbard 模型の論文のための証明の詳細を詰める。 田中さんのノートに触発され、できる限りエレガントな証明を目指しているのだ。 フェルミオン演算子を色々とひっくり返したりかけたり分解したり・・と遊ぶ感覚は快感。 長いつきあいのせいか、こいつら(=フェルミオン演算子たち)のことは結構好きなのだ。


6/25/2002(火)

そろそろ来るかな、それとも今回は来ないでおわるのかな、と思っていたら、やっぱり来た。来た。昨夜来た。ベッドに入ってから来た。

何が来たかというと、年来の病気である

Hubbard 模型で金属強磁性が発現することの証明ができるんじゃないかとアイディアを思いついて悩む病
の発作が来たのであった。

説明すると長くなるのだが、ぼくらの仕事で理解できるようになった強磁性体を示すモデルは、電気を通さない絶縁体の系に対応している。 (実は、Mielke や田中さんの例については、デリケートなところがあるので、これは電気伝導の専門家に出会ったら聞こうとかねがね思っているのだ。 じつは、電気伝導の理論では世界的な権威である川畑さんとは、ほとんど毎日会っているのだが、ついつい、会ってもくだらない駄洒落とかしか言わない癖がついているのといつでも会えると思う気のゆるみがあって聞き損なっているではないか。) 電気も通すし強磁性を示す、というお馴染みの鉄みたいな状況を、類似のモデルで理解できないか、というのが、ぼくの積年の課題なのだ。 もう少しちゃんというと、ぼくらのモデルでは、強磁性に関連するバンドがちょうど half-filled になっているため、相互作用がつよく完全強磁性がでると、これが effective には full-filled になる、ということだ。 ま、Mott insulator と言えないことはない。(言うほどのこともないが。) だから、同じ様なモデルで、filling が 1/2 より真に小さい場合が扱えないだろうか、というのが、課題。 といっても、これは、(少なくとも理論や数学の問題としては)絶縁体の場合とは比較にならないほど難しいだろうとずっと信じている。

それで、半ばあきらめているのだけれど、それでも、時折、アイディアらしき物が浮かぶと色々と思い悩んで時を過ごすことになる。 で、やっぱり駄目駄目で敗退して、また他のことをやりながら時が過ぎていく、ということをくり返すのである。

で、まあ、昨夜やってきたアイディアというのは、大して自慢できる物じゃなくて、絶縁体のためにぼくが作った方法が思っていたより強力みたいだから、うまい場合には金属にも使えるんじゃないか、という「ちょっぴりせこい路線」。 それでも結構興奮して、寝ながら計算したり、そのあともずっとわけのわからない夢(リンゴを箱に仕分けしているおじさんがいて、ぼくの強磁性の証明を完全に理解していて、それに対応する分け方をしているのであった。って、自分で書いていても意味不明。)を見続けたりしたけど、もちろん、いつものように駄目駄目でありました。


教授会をおえて部屋に戻ると、K 君が来ていた。 そう。 かつて(調べてみると、9/4/2001 だった。月日のたつのは速いものよのお)「やらせ的柔道着着用答案受け取り事件」で全国に波紋を投げかけた K 君である。

今回は、さらにインパクトを増すべく、羽織袴姿であった。

というのは、もちろん嘘だが、インパクトを増していたというのは真実。 卒業研究の実験で彼がとった謎の最新データを手にしての来訪だったのだ。

ううむ。

一見すると、おもしろそうだぞ。

が、ぼくのような頭でっかちの理論屋が安易にのっておもしろがってしまって、あとで、興奮がさめて少し考えると、単純な説明がついてしまう、という場合があまりに多いので、落ち着いて考えてみる。

が、おもしろい気がするぞい。(まだわかんないけどね。)

とりあえず、この謎のパターンが BEC 系の集団運動の反映である、という方に、かけておこう。 千点くらい。


昨日から腕時計がみつからなくて、部屋のあっちこっちの書類をひっくり返したり、机の上に積み上げてある論文や計算用紙を全部床に降ろしたりしてみてもみつからず、秘かにおろおろして、前みたいに本にはさまっているんじゃないかとあたり中の本を見てもやっぱりみつからなくて、今日は事務室にまで「落ちてませんでしたか」とか聞きに行ってもそんなのは届いてなくて、このまま出てこなかったらどうしようと悲しくなりつつも半ばあきらめて、明日の統計力学の準備のためにノートを開いたら、わーい、わーい、はさまっていた。 次回からはノートにも注意だ!

最近、こうやって腕時計を探し回ってつぶす時間が着実に増えているのだが、年齢を重ねるというのは、こういうことなのであらふ。


6/30/2002(日)

急用のため月曜日は出勤できないことになったので、今日やって来て解析力学の問題を作成・印刷。 部屋の前に置いてありますので、解析力学を履修している人は、持っていってください。

印刷の途中でインクがなくなるという予期しなかった事態が生じたけれど、書いてある通りにやったら、簡単にインク交換もできた。 印刷機も進歩した。 手も汚れない。

講義のとき言ったように、問題のファイルをダウンロードする事も可能。 大学に来ないでも問題を手に入れることができます。 ネットワークは進歩した。 手も汚れない。

でも、手を汚して、計算してください。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

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