日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


10/5/2005(水)

今日は、新機軸の「日々の雑感的なもの」として、一日の記録を書いてみようと思う(よく考えると、日記とは本来そういうものか・・)


9時前:大学に着く。メールを見たり、統計力学の講義の直前の予習をしたり。

9時から10時半まで:統計力学の講義。Planck 分布の導出の山場。 今年から論理構成を少し変えたのだが、そういうところの方が勢いがあるかも。 最近は歴史も勉強しているので、つい力が入る。

講義のあと:ぼくの第二法則の導出と跳ね返り係数の話に関連して、ある人からノートをもらったので、その解読をおこなう。 なるほど relative entropy をこういう風に使えるのか。 ソファに寝っ転がってノートの式を追う。 目を閉じて考えているあいだに、少しだけ眠ったかも --- 講義のあとは肉体的にも疲れているのだ。

お昼ごろ:普段は家に帰るか妻のつくってくれたお弁当を食べるのだが、今日は妻が忙しかったので、栄屋さんにラーメンを食べに行く。 歩いているあいだに、ノートにあった手法の本質があっさりとわかって、自分でやり直す方法も見えた。

お昼から戻って、その続きを検討。 さしあたって美しくできる範囲には限度があり、どこから汚い評価に入るかが問題だ。 それによって、既存のぼくの証明より優れたものができればうれしいのだが。

考えられることは考えたので、ともかく、ぼくの意見をまとめてメールを書く。 相手はヨーロッパなので、微妙に時差がある。

そろそろおやつ。 コーヒーをいれて、クッキーをかじりながら、金曜日に配る「物理数学」の講義ノートの作業を開始。 長かった線形代数パートもそろそろ終わりだ。 しかし、行列の対角化の適切な例をつくるのは面倒じゃなあ。

5時過ぎ:ひたすら作業すると夕方になっている。 先週はあまりプールに行けなかったし、今週も、木、金、土と確実に行けないから、今日は行こうと決意。 実はプールの支度(したく)はもってきてあるのだ。

家の近所のプールはメインテナンスのためお休みなので、池袋のプール(9/2)へ。 月、火と続けて大学の帰りに行ったので、池袋のもっとも混雑したエリアを迂回して(すると、必然的にフーゾク系エリアを通るんだけど)うまい具合に巨大歩道橋の下に出るルートがほぼ確立した。 自転車で二十分強でプールに着く。

この季節になってくると、プールに来るのは、ほとんどが筋骨たくましいスポーツ人間たちだ。 夏には多かった、へたっぴで泳ぐのが遅い人たちは、去っていってしまったのだ --- おれ以外は・・

時間がないので、強制的な休憩以外は休まず、ともかく 1000 メートル泳ぐ。 自分的には少しクロールの効率が上がってきたかなあと思うのだが、それでも、まわりの人に比べると遅いよなあ。

泳ぎ終わったら、シャワー室に行かず、プールサイドのシャワーを浴びる。 そして、体と頭をタオルで拭きながら、体が乾くまで、窓からの夜景を見ながらストレッチなどをする。 これが、最近になって開発した新方式。 せっかくこのプールに来たからには、窓からの景色を見なくてはね。

自転車で帰宅。プールから家に帰るときも、やはり新たに開発した、混雑を回避する新ルートで。 こっちは、もろにホテルとか、雑然たる飲み屋とかの地帯を通るのである。 われながら、すごいところ(の近所)に住んでいるなあ。

7時前:帰宅。

食事をしたり、お風呂にはいったり、片づけを手伝ったりと、普通のことをしたあと、再び講義ノートの準備に。 これは深夜までつづく。


とくにオチもなくて面白くないが、実際の一日の生活なのだから、仕方がない。 毎日、一日の最後にオチがあるのでは、生きていくのも大変だろうし。
10/8/2005(土)

恒例の久保シンポジウムで、理科大へ。


伏見さんの「分子進化」の実験のお話。 目標を設定して人為的に淘汰をおこなうことで、強制的に「進化」を実現する。 地球上でおきた進化(少なくとも、その大局的な側面)とは、まだ本質的につながらないと思うのだが、それにしても、こういうことができるというだけで驚異である。

金子さんの進化とゆらぎの話。 (少なくとも、ぼくには)明快で、何をやりたくてどういうことができているか、かなりきちんと理解したつもり。 「生命の普遍的側面を理解する」という絶望的に大きな目標にむかっていることを思うと、問題と設定の切り出し方は、さすが絶妙としか言いようがない。 誰もが思うことだが、もっともっと実験がほしい。

昨年の受賞者の堀田さんのお話。 前半は、授賞対象となった研究に関連して、反強磁性相互作用と電子のホッピングの競合から(軌道、電荷密度、スピン構造に)ジグザグの幾何的なパターンが生じる話の見事な解説。 泥臭い計算や枝葉を取り除いて本質的な描像と機構をわかりやすく話してくれて、きわめて、ぼく好みであった。 この話の厳密版をやる、というのは、決して悪くないテーマだなと思う。 後半は、その後の発展ということで、動的ヤン・テラー起因の近藤効果の話。 こちらも面白かった。


今年の久保賞は、量子情報の古澤さん。

ここまで範囲を広げて、すぐれた研究に賞を出したのは立派だと思う。

江沢先生が祝辞を述べる来賓としていらっしゃっていた。 あまりにも長年、お近くにいたので、久しぶりにお会いしたという感覚はなかった。


授賞式のあとのパーティーで、かなり年長の方(複数)から「田崎さんの web 日記を読んでます」と言っていただき、ちょっと驚く。

そういうお話を伺うと、いよいよ心をこめて文章を書かねばと身が引き締まる思いで、こうしていても緊張して文章が書けなくなってしまいそうです。




っていうのは、前にも書いたね。


10/10/2005(月)

Chris Jarzynski が佐々研を訪問するというので、ぼくも同席させていただくことに。

朝、渋谷駅で井の頭線の電車にすわって iPod で音楽を聴きながら、「今、佐々さんが Chris を連れて電車に乗りに来たら面白いのに」と思っていたら、まさに、その通りあっちから佐々さんがやってくる。 出迎えて挨拶をする --- 実は、Chris とは(現実世界では)初対面なのである。

今日は、大学院生の人たちが次々とお仕事の話をし、そこに Chris や佐々さんやぼくがつっこみを入れたり質問したり議論したりするという企画。 いくつかの話は初めて聞くものだったので、とくに楽しかった。

こやっていっしょにインフォーマルに議論することで、お互いにどういう科学者なのかを知り合うことができる。 それは、優れた論文をじっくり読むとか、用意された講演を聴くといったやり方(もちろん、これらも重要だけど)では得られないものなので、貴重だった。 Chris は、予想していたとおり、回転が速くセンスとノリのよい理論家だった。


主として移動のあいだなど、立ち話・歩き話で Chris といろいろと話したが、ぼくら二人にはけっこう意外なオーバーラップがあることが判明。
  1. ぼくの祖父母がずっと住んでいて、今は祖母と叔父叔母が住んでいる街は、Chris が育ち今も彼の両親が暮らしている地でもあった。 ぼくが小学校のとき一年間アメリカで暮らした際も、頻繁に祖父母の家に滞在した。 Chris の家までは歩いていける距離だったのだ。
  2. ぼくがポスドクとして Princeton に滞在した一年目(AKLT とかを必死でやっていた頃)、実は同じ Jadwin Hall の地下で Chris は卒業研究の実験をしていた(年齢差がわかってしまうが)。 地下の自販機に飲み物を買いに行ったりしたところですれ違っていたかも。
  3. つづく
よく考えてみると、アメリカは馬鹿みたいに広く、かつ、ぼくは通算で三年くらいしかアメリカにいなかったわけで、この偶然は単に「意外」というよりはもうちょいすごい。
夕方から新宿に移動して、ちゃんこ料理の店で夕食と飲み会。 けっこう有名な店らしく、帰って妻に言ったらちゃんと知っていた。

集団行動をとることの少ない佐々研だけあって、新宿に移動するだけで何度も皆がはぐれそうになる。 さらに、お店の名物らしきチーズの混ざった豆腐が運ばれてくるや "Oh, it's very small!!" と大声で連発する○○さん(←ウェイトレスさんにも、その英語は確実に理解できたと思う)。 お店の中で「相撲取りがいない」としきりに残念がったあげぐ、店の外に出たところでガタイのいい人を見かけるや、大声で「あっ! 相撲取りだっ!」と叫んだ○○さん(夜の歌舞伎町だぜ・・)。 佐々研の人材は豊富であると実感する夜であった(あ、もちろん、みなさん発表は立派だったし、ちゃんこ屋は一週間前からしっかり予約してあったらしいし、○○さんは Chris とぼくの分の渋谷から新宿までの JR の切符をあらかじめ買ってくださっていたし、正しい意味でもすぐれた人材が豊富だと思っております、と自らフォローしておきます)。


10/11/2005(火)

夕方から、恒例の「ノーベル賞の内容を解説する会」。

これまで物理学賞は毎年ぼくがやっていた。 そもそも物理の範囲なら多少は専門からずれていても解説できるべきだと思うし、あわてて勉強してどこまでちゃんとわかるか自分自身へのテストにもなるし、それなりに楽しい仕事だ。

が、今年はもろに量子光学なので、さすがに平野さんにやってもらう。 控えめに真面目に解説しながら、ところどころ、照れながら自分の研究室の紹介も交える平野さんの話しぶりは聞いていて楽しかった。 ぼくなら、どう話すだろうとか思ったりもしながら聞いていた。

化学賞の解説は秋山さん。 新しいタイプの有機反応を開拓した業績だが、こういうのは、どこまでねらって研究できるものなのかが気になるなあ。

とはいえ、化学賞でもっとも印象に残ったのは、

開環メタセシス
という言葉が、きわめて林檎っぽいということだ。 昔の林檎ね。
10/15/2005(土)

昨日までけっこう厳しく講義の準備と雑用に追われる日々を過ごしたので(そして、今日が締め切りの書類を昨日の夜に提出したので)、ともかく、今日は在宅で自分の仕事だけをする。

第二法則の話の新しい論法をまじめに検討して、(本当はやりたくないような)めんどうな証明と評価をちゃんと書き下す。 残念ながら、以前の評価に比べて圧倒的な改良というほどにはならなかったが、こっちのやり方の方が少しきれいに見える。

午後は、あまり遅くならないうちにプールへ。 多少、混んではいたが、ぼくくらいのスピードで泳ぐ人が多く、快適。 1300 メートル泳いだところで、「あ、疲れたかな」と感じたので、そこで終わりにする。 最近は、がんばって距離を伸ばそうとはせず気楽に泳ぐようになってきた。

プールから上がって更衣室に行くと、High Way Star のキーボードソロが流れていた。 そーいえば、菊池さんが学会かどっかで交通渋滞の理論の発表をしたときバックにずっと High Way Star を流していたという話を聞いたなあ。

家に戻って、仕事のつづきをし、人に(仕事の)メールを書く。

自分の仕事をして、自分の健康管理をした土曜日であった。 しかし、この週末は人の論文や本の原稿を読むというお約束もあるのだ。がんばろう。


10/20/2005(木)

しばらく前の日記(6/24/2005)で「公然たる排他」は嫌いと啖呵(たんか)をきり、さらに、

web というのは、まさに誰でもが参加できる「機会の平等性」と、面白いものは人気を集めつまらないものは読まれないという「結果の不平等」がきわめて明快に実現された世界だと思う。そういう意味で、好きだ。だから、その世界で、ちょびっとでも「公然たる排他」に近いものが出てくると、無性に反発してしまう。
と書いた。

このときは、ミュージックバトンに反応しない言い訳としてこういう話をしてたわけだけど、この話は、そのまま「存在は公言されているけど、ある条件を満たした人しか見ることのできない web 上のページ」にも、あてはまる。 そういうのは、露骨に「公然たる排他」だから、きらいだということになる(たとえば、家族だけで連絡をとりあうためのページとか、仲間内だけで楽しむためのページとかは全然かまわない。 そういうのは、ひっそりと隠れて楽しくやっているので、「公然たる排他」には、いれない)。 つまり、「会員に紹介してもらった人しか見られないよ」という、mixi とかのソーシャルネットワークというような奴は、俺は嫌いだぞ、ということになるのだ。

それは、実際、本当のところで、せっかくオープンな web 世界ができたのに、何で、その中に中途半端に排他的な空間をつくらなくてはいけないのか、理解できなかったし、今も、あんまし理解できない。


そういうわけで、ぼくが意図するにせよ意図しないにせよ、mixi とかに触れてこなかったのは事実だったのである。 「事実だったのである」が、あえて過去形で書いたことからも明らかなように、それも今日の午前中までのことであった。

少し前、きしさんのブログ(←これは、誰でも読める)に、

なぜ信じたのか、教えてください(←これぞ、「公然たる排他」! おもしろいとして紹介されていても、mixi 会員じゃないと読めないんだ!!(付記:菊地さんの書かれた部分だけは、こちらで読めるようになった。))
という掲示板のスレッドのことが紹介されていた。 これは、mixi の「水からの伝言」コミュニティーなるものの掲示板に、菊池誠さんが設けたもので、読んだ人はみな一様に「おもしろい」と絶賛しているようだ。 (「水からの伝言」の話は、少しも書いたことがなかったけれど、ぼくも一定の関心を持ち続けています。 何じゃそりゃという方は、たとえば、菊地さんのブログの関連項目をご覧になるといいでしょう。) 非常に興味をそそられるテーマだし、今、実はまさにこういうことにピントをあわせるべき理由(これについては、しばらくしたら書くと思う)があり、是非ともこのスレッドが読みたいと思った私は、あっさりと魂を売り渡し(←というほどじゃないけど)紹介してもらって mixi に登録してしまったのであーる。 ががーーん。

実際、この掲示板のスレッドを読むためだけでも(というより、本当に、読むためだけなんだけど)mixi に入る価値はあった。 「水は言葉に反応する」という話をなぜ信じたか、信じそうになったか、信じたいと感じたかを、多くの人たちが素直に語り、また、科学者への疑問をすなおに表明している。 それらに対し、菊地さんが一つ一つ、実にていねいに答える。 しかも、いかにも科学者でっせという通り一遍の答じゃなくて、ちゃんと相手にあわせつつ、無理のないギャグ(時には、ちょっと無理があるかも)をはさみつつ、もちろん科学的正確さは損なわず、しかも科学的傲慢に陥らず、誠実にしっかりと答えている。 偉いやっちゃ。

菊地さんの返答や姿勢だけでなく、それに反応する他の人たちの様子や変化も非常に興味深い。 社会のなかの「ニセ科学」の横行に対して何をどうするかという答はまだまだ見えてこないけれど、このスレッドは、まじめに考えるための一つの出発点になりうる。 多くの人が見るべきスレッドだと私も思います。


さあて。

こうやって、菊池スレッドを宣伝することによって、ぼくも嫌悪していた(いる)「公然たる排他」の片棒を堂々と担ぐことになってしまったわけだ。 やれやれ。

こーなった以上、ぼくにできることは、この「排他」の度合いをせっせと低下させることくらいか・・・

実は mixi の仕組みとかあまり理解していないし、そういうものを理解するために時間を使う余裕もないのですが、ともかく、「菊池スレッドが読みたいけど mixi に入っていない」という十二時間くらい前のぼくと同じ立場の方がいらっしゃれば、「友人の紹介」とかいう奴をやってみようと思います(まだやったことないので、よくわからないのではあるが)。 メールください。 ただし、ぼくは実名で登録してますので、ぼくが紹介した人は、 mixi で「田崎晴明の友人」というレッテルを貼られることになるんだと思います。 どうかそれを覚悟の上でご連絡ください(「誰でも招待する」と宣言してしまうと規約違反で除名になるとのご指摘を受けました。もちろん無差別招待するつもりはありません。 招待するのは「田崎晴明の友人」です!)。


午前中は、mixi のことや雑用をして、午後から駒場へ。 小芦さんのセミナーにでる。 内容は、量子暗号(正しくは、量子鍵配送)の(無条件)安全性をいかに証明するか。

ぼくは、量子暗号の基本的な方法は、平野研の学生さんの発表を通じて、知っているのだけれど、無条件安全性の証明は聞いたことがなかった。 前々から知りたいと思っていた(けど、全然、勉強しなかった)ことなので、大いに期待してセミナーに臨んだ。

小芦さんのお話は、大いなる期待をまったく裏切らなかった。

ストーリー+証明は、みごとに構成されていて、実に論理的にコンパクトにまとめあげられている。 内容は豊富でスピードも速いのだけれど、流れが明快なので、なんとかついて行ける。 久しぶりに、めいっぱい集中して、時には置いて行かれそうになったり、時には証明を先回りしたりしながら、きわめて楽しい時を過ごした。

これまで、量子暗号のプロトコルはきわめて賢いし実にうまくできているとは思っていたが、今日、無条件安全性の証明を聞き、ひょっとすると、単に賢い以上に、なにか本質的なものを含んでいるのかもなあという不思議な気分になった。 いや、単なる気分なのだけど。 あと、無条件安全性のもっと「かっこいい」証明ができないかな、という当然だれもが思うことも思った。

セミナーの後は、清水さんのお部屋におじゃまし、何人かの専門家の方たちの雑談を(おとなしくなく)拝聴し、量子情報関連の耳学問を大幅にアップデートする。


10/21/2005(金)

それってば,いわゆるひとつの“転向”というべきかと……
「転向」つうか「転び」つうか。 ごめんなさい、すみません、ごめんなさい、すみません、ごめんなさい、すみません・・・

考えてみたら、mixi に入っている家族のアカウントからこっそり覗くという手もあったんですね。 しかし、他大学に押しかけるときは(警備の薄い裏門ではなく)あえて正門を突破するというかつての過激派の思想にも似て、どうせ見るなら堂々たる正面突破で臨んだのでありましょう。


10/22/2005(土)

ネットを見まわすと、科学を尊び、明るい未来に希望を抱き、そして何よりも、物理法則を越える物語と愛の力を信じる、ハードエスエフファンのみなさんのあいだでは、

グレッグ・イーガン「ディアスポラ」
が話題を呼んでいるようだが、今や SF ファンとはとうてい言えないものの、若き日にはアシモフ、クラークからレム、ディックなどを読み、さらに、吾妻ひでおの全作品を集めていたという血潮が騒いだか、私も、先日、人に送ってもらったなんとかいうキノコ(へへへ)を網焼きにするためにスダチと金網を買いに散歩がてら高田馬場に行ったついでに、ちょうど Fermi の伝記を先日読み終わったばかりというタイミングもあったせいか、つい本屋に立ち寄り、ついつい「ディアスポラ」を手に取り、しばし立ち読みした後、レジに並んで立ち読みを続け、購入して家に買って座り読みをはじめたのでありました。 この人の本は「万物理論」っていうのしか読んでない(で、これは、ぼくには駄目だったんだなあ・・)のだが、どうも一定以上の長さ人間が主役になって物語が進むと激しく難が出てくる人なんじゃないかという気がする、勝手にそういう気がする、ファンの方、ごめんなさい。 そういう意味では、今のところ(特に序盤が終わってから)そういう難をあまり出さずにうまく進んでいると思う。 けっこう楽しい。

 私:実は、この前「ディアスポラ」を買ってきて読んでいるんだ。ほら。

 妻:えっ! 私も買っちゃったわ。「宇宙の果てのレストラン」買ったときに。

 私:ええ? ○○も、○○も、まだ読んでなかったんでは・・・

そう。 妻は、本 を買うの が大好きなのである。

しっかし、こんな本が二冊もあって、どうすりゃいいんだ。

と思ったが、すぐさま、私に妙案がひらめいた。 妻が買ってきた方の「ディアスポラ」を「クローン」と呼び、これを一階に、ぼくが買ってきた「ディアスポラ」を今まで通り二階に、置く。 これによって、ぼくは一階にいても二階にいても、時間があけばすぐさま手近の「ディアスポラ」を手に取って読むことができるのである。 このように、クローンを使って家の中の広範囲をカバーする計画の名は、もちろん・・・


10/23/2005(日)

ハンガリーの Karlo Penc 氏が来日されていると知ったので、家に夕食に招く。

もう何年前になるだろうか、ぼくが会議でブダペストに行ったとき、Karlo が家に招いてくれたことがあった。 奥さんと二人で、ブダペストの少し郊外の、山の中腹のすてきな一軒家に住んでいた。 首都の街からほんの少し離れるだけで静かできれいな住宅街になることに驚き、家から見下おろすブダペストの街の夜景の美しさに息をのんだのを覚えている。

というわけで、今日は、お返しというわけではないが、ぼくの家の屋上に Karlo を連れて行き、見渡すかぎり家とビルがびっしりと連なるごみごみとした東京の景色を見せた。 まったく対極の世界かも。 うっすらとはいえ、富士山が見えたのは、よかった。

Karlo からは、最近のスピン系の磁化プラトーの話などを聞く。おもしろい。 まだ、この分野の仕事はちゃんと理解できる。

家族と食事をしながら、軽い話題、やや重い話題など、いろいろ。

先日来た Aernout は身長が百八十何センチかで、大きい大きいと息子が感心していたのだが、Karlo はひょろりと背が高く百九十何センチあるらしく、息子がよりいっそう感心していた。 となると、次は二メートルある奴を呼ばないといけないのか? だれ?


10/27/2005(木)

朝、平野さんからのメールを読んで、以下の告知を書いて日記の頭にのせた。

一気に書いた勢いがあってけっこう気に入ったので、そのままここに残しておこう。

めずらしく、純粋な内部向けの連絡:(外部のみなさん、ごめんなさい。) この「雑感」では有名人ともいえる K 君(たとえば、2/27/2003)その人が、後輩の皆さんに向けて、就職や仕事をテーマにしたお話をしてくれるそうです。 物理学科三年生、必見!  気合いを分けてほしい人もみんな行け!!  ぼくは今日はたくさんの宿題と会議があるので、行けたら行きます。 本日(27日)5時から、実験1とかをやる、あの部屋にて。

本当にたくさんの宿題のある日だったが、ひたすら、やった。

K 君の話も聞いた。 めちゃくちゃ重要な仕事を任されてそれを全力でこなしている彼の仕事ぶりが伝わってきて感動ものであった。 進路を決めたり会社に面接に行ったりすることについての話も面白かったし、予想以上に、ぼくとしても学ぶところがあった。 悩める学生さんと話をするときの参考にさせてもらいます。 学生さんもたくさん出席していて、いろいろと質問していたし、K 君の講演会は大成功だったと思う。

そのあとも、会議に出たり、仕事をしたりで、久々に十時過ぎに大学を出た。 今週は、いっさい妥協も逃げもせず、やりたいことを次々とやっているから、こういうスケジュールになってしまう。 充実感はあるが、プールどころじゃないのがちょっと悲しい。


10/28/2005(金)

なんか、どうかなるほどよく働いた。明日が締め切りのことも今日の間にできた。えらい。ま、いろいろやった。

「明日が締め切りのこと」については、もう少ししたら詳述の予定。 きくちさんが詳述してくれるかも知れない、予定。


10/29/2005(土)

何でもありの多忙な一週間の締めくくりは、オープンキャンパス説明係。 さすがに疲れましたが、楽しかったです。


家に帰ってさすがにぐったりとしていたが、ソファーにぶっ倒れて、なんとベートーベンの第九交響曲を聴いているあいだに元気が戻ってくる(補足:ぼくは基本的にミーハーであり、実は、この交響曲はすなおに好きなのである。 第三楽章とか聴きながら、じじいになるまで生きて死ぬ間際にこの楽章を聴きつつ「ああ幸せな人生だった、みんなありがとう」とか言うのも悪くないなあとか、アホなことを思ってしまう人なのだ。 でも、日本では暮れになるとやたらこのシンフォニーがかかるので、つい聴くのが照れくさくなってしまうという、これまた凡庸な人なのであった)。

夕食後は完全に復活して、第二法則の論文の修正などをばりばりと。


10/30/2005(日)

この日記はプールの話ばかりだという指摘を受けた。

考えてみると、昔は、けっこう話をうまく引き延ばしてネタを展開したり、あるいは、物理の研究や教育のあり方について本格的な論陣を張ったり、ついには、郵政民営化法案をめぐる自民党の茶番劇を一年以上前に正確に予言したりと、一部に嘘があるものの、けっこう気合いを入れて長いものを書いていたような気もするのだが、最近は、ひたすら「今日はプールに行った気持ちよかった」「今日はプールに行けなかった悲しかった」だけだもんな。 この年齢になって運動をはじめて、新鮮なのでついついそればかりになっているのであろう。 あるいはプール馬鹿になって文章が書けなくなっている兆候か。 ともかくご指摘を心に留めて日記を書こうと思います。

というわけで、今日は朝から集中的に働き、細かい計算をして、論文の草稿をいじって共著者に送り、午後の早い時間からプールに行く。 今週は忙しかったので、月曜以来のプールだ。わーい、プールだ。

何ヶ月か前にプールに通い始めてからずっと、ぼくは、泳ぎながらひたすら距離をきちんと数えて、それを予定表に記録していた(予定じゃないけど)。 そうやって、自分がどこまで運動できるかを定量化しようとしていたのだ。 プールに入っているあいだも、「まだ、300」とか「これで、725」とか、ずっと心で思いながら、ストイックに泳いでいたのだった。

しかし、これが最近変わってきたのだ。 ずっと泳ぎながら考え事をしているうちに、ふと距離を忘れてしまうということがでてきた。 かなり楽に泳げるようになったので、距離にこだわらなくてもよくなったということもあるのだろう。 そうなると、もう面倒だから、距離のことなんか無視して、ただただ時間が経つまで、あるいは、疲れたなあと思うまで、ひたすら泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ。これぞ快感。

今日にいたっては、泳ぎはじめ早々で距離が不確かになったので、さっさと数えるのをやめて、ひたすら仕事のことを考えながら、泳ぐ。 すると、どうであろう。 距離を覚えないでいいとなると、頭が相当に自由に使えるではないか!  考えてみれば、ぼくは数を暗算で扱ったり覚えていたりするのはまったく得意でないので、今まで、距離をカウントしながら泳いでいたのは、頭脳にとって大いなる負担だったのであーる。 というわけで、次の課題でる量子系の跳ね返りの問題の証明を詰めることにして、考えていたところ、何往復かするうちに、基本的なところは理解した(ある種の急におわる音楽のような日記の結び方)。


10/31/2005(月)

今日は、講義のあと、もうとてもとても真面目に働いて、多面的にいろいろなことをやった。 人ともいろいろと話をした。 たまっていた伝票の類も一気に全部処理して、このあとの支出のことも真面目に考えた。 えらいぞ、おれ。

で、ふと気づくと、明日から 11 月ではないか。


明日から 11 月ということは、11 月 1 日である明日の今頃は 11 月 2 日発売予定の東京事変「修羅場」を、一日早めに購入して聴いているということになるのだろう。 なんかややこしいけど。

で、「修羅場」はというと、すでに家の Mac にも iPod にも入っていて、日々激しくリピートされていて(別にずるいことはしていなくて、ビデオがネットで配信されたときに音声をアナログ録音したものを個人として楽しんでいるのだ)すでに懐かしさすら覚えるのではあるが、しかし、林檎さまには申し訳ないけれど、ひとつだけ難を言えば、やっぱしキーボードが気に入らん。 きれいはきれいだが、ちょっとピロピロ感が高すぎないか。 キーボードソロがおわってドラムが受けるところで、必ずと言っていいほど、あり得なかった前任者による激しいアコピのソロが終わってドラムに渡す際の緊張感を勝手に想像してしまう私なのだ。 忠実なファンとは言えないのお。

しかし、これって伊澤さんが腱鞘炎だったから、こうなったってこと?  さすがに、腱鞘炎はもう治ってるよね?  ということは、ひょっとすると、明日、シングルを買ったら、案外、キーボードのところだけもっとかちょいいのと差し替えになってたり?



するわけないな。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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