日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


6/3/2006(土)

今学期はもともと忙しいことを覚悟していたのだが、先月はさらに公私ともども時間を取られることが入ってしまって、さあ大変。 ドジョウは出てこないが、今月になって、公私ともども一応は一段落してきた。 普通に「来週の準備に追われて大変だ」程度の忙しさを喜ぶ私がここにいる。

というわけで、在宅で来週の諸々の準備。けっこう、はかどる。


夕方になって、家に家族が誰もいなくなった。 仕事も一通りに区切りがついたので、プールに行こうと思い立つ。

この前、プリペイドカードが切れてしまったので、今日はカードにチャージするか、入場料の 600 円を現金で払うしかない。 ま、そのくらいのお金はいつも持っているはずだが、念のため財布の中身をチェックすると、

528 円
で、ま、そのくらいのお金を持っている。

妻がいないとお金のありかもよくわからないので、困ってしまう。 が、ふと、居間の床をみると、なんと百円玉が落ちているではないか!  こんな風にお金を粗末に扱うのはいったい誰だ --- と怒るべきところだという気もしないではないが、そこはそれ、これでプールに行けるじょ。 入場料 600 円を払い、ロッカーのデポジット(ていうほどでもないけど)の 10 円を出しても、まだ 18 円残る計算だ!

というわけで、自転車でプールへ。 土曜の割りにはすいていて、黙々と泳いで、けっきょく 2000 メートル泳ぎ通してしまった。 これだけの距離を泳いだのは本当に久しぶり。 多忙で運動不足になって落ちていたスタミナも回復してきということか、あるいは、お金のありがたさを痛感したということか。


6/5/2006(月)

駒場の講義で 90 分間、汗をかきながら話しまくる → 学生さんの質問にたくさん答える → 笹本さんと話しながらあわてて食事 → 国場研の自主勉強会で丸二時間話す → 笹本さんと歩いて渋谷へ → 渋谷駅の売店で菓子パンを買って食べる → 電車+徒歩で帰宅  → プールに行って気持ちよく泳ぎはじめ、けっきょく、2000 メートル。

今までの人生で、最高に元気かも。


6/6/2006(火)

学会に申し込み忘れたことを知った。

だいたい、今までも、ぼくは知り合いの web 日記などに「学会申し込みの締め切りまであと三日だ!」とか書いてあるのを見て、あせって申し込んだりしていたのだ。 今回は、ぼくの知り合いたちが、あまり騒がずに静かに申し込んだりしていたせいか、完全に忘れてしまった --- などと人のせいにしてはいけないのであって、私の怠慢です。 色々なスケジュールを着々とこなしていい気になっていたが、大事なことを忘れていたのであった。

実は、千葉の学会には、「非平衡定常状態について、堅実に地味に、しかし着実に考えましょう」シリーズで二つ、「低速の異常跳ね返り」で一つ、合計三つの講演を申し込む予定だったのだ。 一つがゼロなら我慢もできようが、三つがゼロになってしまうなんて、辛いよなあ(というものでもない)


6/11/2006(日)

自分で言うのもなんだが(という台詞もまったく白々しいが)、ぼくは、ものを書くのがけっこう速い方だと日頃から思っている。 しかし、そんな私が、自分で見ていても「げえ、こいつ速っ!」と思うほどの猛烈な能率で何かを書いてしまうということが時たまある。

この週末あたりから、そういう「異常能率モード」に突入している。 数学の講義ノートの微分方程式の改訂が終わったところで、今度は、「統計力学の講義ノート」=「某社から出る予定の統計力学の入門書の草稿」に取り組んでいるのであーる。 長年の懸案だったし、今年、書き始めてもなかなか勢いがつかなったのだが、ついにスイッチが入った。 なぜだろう? ともかく入った。 まだ、講義には追いつけないのだが、この週末に、難関の一つの量子系の状態数のところを、きちんと詰め、曖昧にしていた評価もすべて正確にやり直し、Ruelle の読みがたい本を解読して、厳密な結果もきちんと引用し証明の方針もわかりやすく述べた。 その勢いで、本の中の一つの山である「平衡統計力学の基礎」の章にも手をつける。 なかなか、快調。 スイッチが切れないといいな。


6/13/2006(火)

大学に行くと、部屋の留守番電話に録音が残っている。

某テレビ局の人からの電話である。なにやら、

フラフープがまわる原理は未だに解明されていないらしい
という視聴者からの問い合わせがあったので、それについて教えてほしいという。

解明もなにも、この手の剛体の運動は、すべてニュートン力学でばっちり記述できるわけで、根本の原理は 1687 年の昔からよーくわかっている。 だいたい、フラフープの原理もわからない種族がロケットをとばして軌道を制御したりできるわけがなかろう。 いったい、誰がそういう嘘ネタを広めるんだろうか?

もちろん、原理がわかっていても、実際的な回し方がなかなかややこしくて理解し難いと言うことはあるかも知れない。

一応、図を描いて考えるに、(まずは重力を無視したとして)フラフープの回転を維持するのに必要な向心力は体が支える抗力だし、回転を加速するためのトルクは体とフープの間に摩擦があるとして体をこう動かせば発生すると納得。 要するに、体を小さく回転運動してやれば、フープは回り続ける。 あとは重力で落っこちないように調整するわけで、これは、回転が速いときと遅いときで微妙に違うだろうけど、ま、いいでしょう。

で、次は実験・観察だというわけで、さっそくロッカーから愛用のフラフープを取り出してブンブンと回しながら自分の動きを観察してみた。

というのは、もちろん嘘で、生まれてこの方フラフープなどやったことないし、そういうのはなかなか上達しないという強い自信がある。 輪っかを回せば何でもよいのだから、ガムテープを探してきて、これをマジックに通して、くるくる回す。 そして、自分が何をやっているか観察すると、明らかに、図に描いたのと同じ小さな回転運動をやっているよ。

だいたい納得したので、ガムテープをグルグルまわしながら(しかし、しょっちゅうすっぽ抜けてあさっての方に飛んでいくので困る)井田さんの部屋に入っていって、ホワイトボードに絵を描いて話をする。 マーカーと間違えて、ぼくが(回転の軸として)持って行った赤マジックでホワイトボードに書いてしまったのはどうでもいいとして(←井田さん、ごめんなさい)、重力の効果を具体的にどうやって取り入れるかという点(これについては、複数の戦略があると思う)と「田崎さん、ガムテープ回すのヘタですね」という井田さんの見解を除けば、フラフープ問題についての二人の意見は一致。

というわけで、基本的な回転の機構については、ほとんど何の問題もないみたいである。

フラフープが、まわる原理は



ニュートン力学で完全に説明できる。
じゃあ、まったく「へえ」じゃないよな。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp