茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
あいかわらず忙しいのだが、期間限定で復活した結城さんのTropy(11/4/2005を参照)で少しだけ遊ぶ。 こうやって、ごく限られた時間だけ、あの世界の戻っていけるというのも、不思議に楽しい。 そこまで含めて、結城 Tropy の文化ということか。
で、今日、四枚目にみたページが、
お元気ですか。私は元気です。
いろんなこともあるけれど、結構元気でやっています。
キキより。
Tropy では、何百、何千(?)のページの中の一枚がランダムに表示されるはず。 なんで、ぼく(?)へのメッセージが? ひょっとして結城さんがぼくのアクセス経路を調べて、ぼくが見ているところへ?? いや、いや、考え過ぎか。世の中、この程度の小さな奇跡はしょちゅう降ってくるものだ。 だから、世界は楽しいのだからね。
というわけで、Edit ボタンを押して、このページを
お元気ですか。私は元気です。
いろんなこともあるけれど、結構元気でやっています。
キキより。
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田崎です(まじで)
やりたいことが多すぎて破綻しそうになっていますが、ぎりぎり大丈夫。とても楽しくやっています。あなたも、どうか、がんばってください。
PS 今日(2006年11月1日)、Tropy を見始めて、四つ目のページがこれだった。ぼくらの生きている世界は素敵ですね。
しまった。 ドキドキして、「もしぼくのことだったら、『田崎先生』じゃなくて、『田崎さん』と呼んでね」っていう決まり文句を書くの忘れた。
人気コーナー「今月の言葉から」:
前野「いろもの物理学者」昌弘さんの昨日の日記より、高校での必修科目未履修問題に関連して
そんなの理想論だよ、という声が聞こえてきそうだが、先生と呼ばれるほどのなんとやら(教師も代議士も)は理想をこそ語るべきだ、とわしは思う。ズルをする奴は先生がどんな理想を語ろうともズルをする。だが先生からズルを始めたら、もう誰も理想を掲げたりしないのである。
よう言わはった、前野はん。わては、あんたについて行きまっせえ。いや、マジで。 前野さん、この素晴らしい発言が一つあれば、これから先、三年くらいの日記は関西限定ボケネタだけでも十分なくらいだ。
忙しいのだが、今日は、午後は休みにして、いわゆる一つの妻とのデート。 二人で、お台場に行って、日本科学未来館という科学博物館を見てきたのだ。
お台場というと、はるか彼方の夢の国のように思うだろうが、意外と近い。 地下鉄に少し乗って、そこから「ゆりかもめ」に乗る。 「ゆりかもめ」というからには、てっきり、かもめの形の遊覧船だろうと思っていたら、ハイテクの電車なのだ。 プラットホームには、ぼくの提案(2003年10月1日)どおり、ばっちりと柵と自動ドアがついていて、転落の危険はほとんどない。これでいいのだ(しかし、プラットホームが完全に屋内になっていないのは、減点だな)。 しかし、ハイテクもやりすぎだぞと思うのは、駅のホームに駅員がおらず、電車の中にも車掌はおろか運転手もいないこと。 運転手なしで上手に運行できる技術があるのはいいが、だったら、何かに備えて車掌を二人くらい同乗させてもいいのではないかな? 人件費や社員の教育コストがかかるからといって、こうやって無人化していくと、いよいよ雇用がなくなってしまうではないか。
特別展に行って見て回り、ボランティアの解説の人(初老の男性)に色々とお話を伺う。 ぼくは最初から「物理学者です」と名乗っているので、話が早い。 展示に関連する話から始まって、どういうわけか、日本語の文法や外国人への日本語教育の話題まで。 実は、行きの電車の中で妻とまさにその話をしていたのでタイムリー。
常設展に行って、高温超伝導のデモ実験を遠くから見学。 子供たちの反応もよし。 窒素温度の超伝導物質ができたことによる、もっとも顕著な進歩は、こういうデモが手軽にできるようになったことだなあと実感。 くだらないようだが、それはそれで重要なことだ。
超電導を使ったチップを顕微鏡で覗けるコーナーで、再びボランティアの解説の人(若い女性)と色々と話す。 やはり「物理学者です」と名乗ったので、いったいどう説明すればいいだろうと逆に聞かれてしまったけれど、これはむずかしい。
全般的に、ボランティアの説明員がたくさんいて、いい雰囲気で元気に活躍していて、とても好感をもった。 展示も、未来を謳うだけあって、かなり新しい成果まで取り込んでいて魅力的なのだが、一つ欲を言えば、見た人(とくに、子供)の想い出に強く残り、「また、あそこに、あれを見に(やりに)行こうよ!」という気持ちになるような「キラー展示」が見あたらないのがちょっと悲しかった(ただし、行列には並ばなかったので、そういうところにあったのかもしれないのだが)。
まわりは、すべて近代的なビル。 無駄な空き地とか、前の時代から取り残された木造家屋とか、そういった普通の都市に見られる「余分な」要素はいっさいない。 全てがかっこいい建造物で埋め尽くされたピュアな都会。 新しく埋め立て地に都市をつくったのだから当たり前なのだろうが、想像するのと、現実にその中にいるのとでは、全く違う。
これは違う世界だ。 なめらかなカーブを描くレールの上を電車が滑るように走る。 これは未来だ。 巨大なビルの脇に車道がななめにくっついていて、そこを車が昇っていく。 妻と二人で遊んでいるうちに、未来に来てしまった。 周囲の木立に無数の照明をつけたレストランが夜の中で不思議に輝いている。 あー、ぼくらは現代に帰れるのだろうか。それとも、このまま帰ると、近所の様子も変わり、子供たちも既に大人になっていて・・・
昨日は、朝一番からの講義、A 君、I 君の発表練習、大輪講等々で疲れたが、朦朧としたまま働き続けて、日付が変わった頃に「『水からの伝言』を信じないで下さい」を公開した。
内容は、これまで「水からの伝言」についての分析、批判を、ほぼ集大成して、かみ砕いたものだと思っている。 ただし、文章の性格上、誰かの隠れた意図を推測した上での批判とか、説得のための戦略にかかわる点は、いっさい論じていない。
短い分量ではないのだが、書いてみて、自分でも感無量なのは、大人になってから、ここまでオリジナリティーの低いものを書いたのは初めてだということ。 「実験」の分析、実例の収集、批判の論点の整備、web などを通じた「信じている人たち」との対話の試み、などなど、菊池さんや天羽さんをはじめとする多くの人たちが積み重ねてきた材料を、平易な文でまとめるのが、ぼくの唯一の仕事だったと言っていい。 本業にたとえれば、菊池さんや、天羽さんが、長年の研究の成果を、学会で単発で発表したり、プロシーディングスに書いたりと、ばらばらに書き散らしていたのを、ぼくがやってきて勝手にフルペーパーにしてしまったような物だ。なんてひどい奴だ!
とはいうものの、これは研究とはまったく別の活動なのだ。 書くものにオリジナリティーを求めたり、苦労して調べた人(菊池さんは、「実験」の解釈のため、何度もビデオを見なおし、北大の低温研にまで議論に行ったのだ!)にのみ発表の権利があるとか言い出すと、本来の啓蒙活動がちっとも進まなくなる。 ここは、がまん。 オリジナリティーがなくても、分業の精神で、ぼくがまとめを書こう。そう決心して、これを書くことにしたのだ。
そういわけですから、他のみなさんも、どんどん書いて下さい。
考えてみると、これと平行して「数学」と「統計力学」の講義ノートを百ページ近く書いているはずだし、田中さんとの論文(これは Physical Review letters 用の4ページだが、4ページに動機から結果、証明までを凝縮させるのは、それなりに苦労のいることなのだ)も書いている。 そういう意味では、決して、本業を大きく犠牲にして書いたわけではないのである。
朝は講義。午後からは、ひたすら働き続けて、来年度の時間割の作成を含めた諸雑用を次々と。
さらに、田中さんとの共著論文の最終的な手直しを終えて、田中さんに送る。 ずいぶん延々とやっているわけだが、それなりに意味のある仕事だから、じっくりと準備したい。 それに、いったん完成してからも、さまざまな改良が出てきて、証明もきれいになっているし、結果も強くなっているのだ。 といっても、こういう改良を出してきたのは、みんな田中さんの方なんだけどね。
どーも、ぼくは、一山こえると本気が出せなくなってしまう悪い癖があるようなのだ。 それじゃいけないと思って、田中さんに負けじと、「こう変えても、証明が拡張できそうだ!」というアイディアを出してメールを送ったのだけれど、これは、けっきょく勇み足であった。
論文を投稿。
Akinori Tanaka and Hal Tasaki三次元のハバード模型における金属強磁性の厳密な例を構成した。 もちろん、前人未踏の領域である。
Metallic ferromagnetism in the Hubbard model: A rigorous example
ハバード模型での強磁性は、一時期、大きく知見が膨らんだ分野だが、最近は明らかに停滞気味であった。 これは、新しい方向への確実な「半歩」である(物理的メカニズムはわれわれの絶縁体のモデルと共通であること、バンドギャップとクーロン相互作用を無限大にしなくてはならない点に不満が残ることを考慮し、「一歩」ではなく半歩に割り引いた)。
すなおに、いい気持ちだ。
うううむ、これ証明した人、どうやってこんなのを思いついたんだろっていう感じ。
あの頃、Mielke とぼくが、ほぼ同時に flat-band ferromagnetism に到達した頃には、それはきわめて非自明で難しい結果に見えた。 何十年間も未解決だった強磁性の起源の問題に、まったく新しいアプローチを拓いたわけだから、非自明に決まっている。 しかし、時が経つにつれて、物の見方や証明の技術が整備されていくと、(少なくとも Tasaki model での) flat-band ferromagnetism は、ほぼ自明な現象とみえるようになっていく。 そこまで来て、真に難しく本質的だった(と、ぼくは思う)特異性のないモデルでの強磁性の結果へと手を伸ばすことができたのだ(ちなみに、これが、ぼくが「世紀の大論文」にまとめた仕事で、絶縁性の強磁性については、もっとも進んだ結果)。
つまり、ぼくらは、今回の金属強磁性の結果が自明に見えるような境地を目指し、そこから、その先にありうる真に非自明な領域を夢見て旅を続けたいのである。 道はきわめて長いだろうし、技術的困難を考えると頭がくらくらするが、でも、楽しい。
忙しいながら楽しくやっているのだけれど、通常の教育・研究活動以外の、今後の予定を考えると、ちょっとこわい。
今度の日曜日は、指定校推薦入試の面接試験。 月曜日は、昼と夕方に会議。 火曜日は、大学の父母・保証人会の会合で模擬講義というのをやることになっている。 で、水曜は通常通り、講義と大輪講。
色々と前倒しで準備をしないと破綻する。 とくに水曜の統計力学の講義ノートは早め早めに作らなければ。
もう少し、先をみると、12 月 4, 11, 18 日と駒場で集中講義をすることになっている。 内容はスタンダードなもので、ぼくの「守備範囲」ではあるが、広い範囲を扱うことになるので、準備にはそれなりの時間がかかるだろう。 くわえて、12 月 10 日締め切りで、「水からの伝言」がらみで 6000 字の原稿を書くことになっている。 この間も、もちろん、もっとも重要な二つの講義は続いていく。 12 月は、またしても、いかにも 12 月らしいあわただしさと危機感の中で過ごすことになりそうだ。 あ、それで、全部がおわった 25 日あたりから京都に行って、小嶋さんが主催される研究会で話をするのだ。
父母・保証人向けの「体験授業」というものをやった。
普段とは違って、背広にネクタイ、Mac を使ったプレゼンテーションだったが、まあ、トークの方はいつも通り。アインシュタインのブラウン運動をテーマに、最後は、ボルツマンの悲劇的な死を悼むというお話。三十分は短すぎて、分子・原子の実在が如何に自明でないかを熱く語って時間を使い、けっきょく、ブラウン運動の理論(の前半)を説明する部分は急ぎ足になった。 それが正しかったと思うけど。
で、物理学者にして哲学者エルンスト・マッハに言及するところで、
「マッハ 15 のスピードだ」という時のマッハですという、学生さんに言って一度たりとも受けたことのないネタを出す。 さすが、同世代の人が多く、ちゃんとクスリと笑ってくれる。
実は、このあと、ブラウンに言及するところで、
清原なつのの「花岡ちゃん」シリーズに、「ロバート・ブラウン物語」なる架空の書物が登場するが、実はこの植物学者ブラウンの名前もロバート・ブラウンという、同世代のマンガ好きの
物理学科の学生さんのご両親としばし歓談。 なんと文学部の学生さんのお父様から、この「雑感」を愛読していると言っていただき、ひたすら恐縮する(でも、うれしい)。
年末のあわただしい時期に向けて、すべてをちょっとずつ前倒しで片づける(もちろん、そのために全く手つかずのものもある)。
「統計力学」の講義ノートも、少しずつ講義よりもリードしてきている。 それをやりながらも、12 月 10 日締め切りの原稿の、まあ、おかしくないバージョンを(さっき)完成させたのは大きい。
というわけで、スケジュール等を調べたので、ここに書いておこう。 きわめて堅実で地味な数理物理の講義です。全ての人に面白いはずとは言いません(ぼくには面白いけど)。
12 月 4, 11, 18 日 3 時限目から 5 時限目まで(つまり、1 時から終わるまで)
駒場 16 号館 827 室
講義のねらい: 多体系(無限自由度系)ならではの重要な物理現象を示す典型的なモデルを取り上げ、現象の物理的な本質をいかにして理論的にとらえるかをみる。これらの例を通じて、ミクロな法則とマクロな現象との関連を知る上でも、(「紙と鉛筆と頭脳」だけを用いた)理論物理学が真に力強く魅力的な営みであることを実感してもらいたい。
概要: 古典スピン系(Ising 模型)における相転移と自発的対称性の破れ(4 日)、量子スピン系における秩序と無秩序(11 日)、Hubbard 模型の磁気秩序(18 日)、という三つのテーマをあつかう。各々のテーマについて、簡単に背景を説明したあと、いくつかの現象、描像、概念、理論について踏み込んだ解説をおこなう。後半のテーマについては、私自身の研究も紹介し、理論を模索していく過程などについても触れてみたいと思う。
統計力学の基礎、強磁性 Ising 模型における相転移の概略(平均場近似など)、スピンの基礎(合成など)、fermion 多体系の生成消滅演算子表示についての予備知識があることが望ましい。
「『もぐり』は可能ですか?」という自明な質問をぼくにしないでね(あ、今、「もぐりこみ可能」というネタを思いついた。「超もぐりこみ可能」とかもいいねえ)。
ううむ、師走を目前に控えた私のところに、
本当は両方とも断るのが身のためとは思うが、科学者社会への一定の貢献という意味もあるし、レフェリーをすることが勉強になる場合もないわけではない。
先着一名様まで、引き受けるか・・・
集中講義の初回の Ising model の講義の中で、
低温で相共存があるとき h=0 のラインを経て(自由エネルギーを)解析接続することはできないという Isakov の結果に言及しようと思い、論文をチェック。 紹介すべき命題は実に簡単なので、これはすぐに終了。
さ、帰ろうかと思ったとき「その評価の帰結はわかりますが、何で、k 次の微係数がそういう形になるのか物理的メカニズムの説明はないんですか?」と質問する佐々さんの声がありありと聞こえてしまった。 そりゃそうだ。俺だって、質問したい。
というわけで、(脳内の)佐々さんの声に答えるべく、Isakov の論文
S. N. Isakovを持って家に帰る。
Nonanalytic Features of the First order Phase Transition in the Ising Model
Comm. Math. Phys. 95, 427-443 (1984)
しっかし、まあ、読みにくい論文であること。 物理的メカニズムの本質とかはいっさい書いてなくて、いきなりめっちゃ抽象的な証明。記号も自己流だし。 しばらく取り組んであきらめかけたところで、不等式評価の嵐の中に、もっとも肝心な評価を発見。 あ、そういうことか。 それを先に書け、イサコフよ。読んでないだろけど。 いや、しかし、これを厳密な評価にまで持って行く腕はすごい。物理としても、数理物理としても、きわめて重要な仕事だと再認識。