茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
11 月だ。
日が過ぎていくに従って、着々と予定は終了していく。目まぐるしい。
記録しておきたいところだが、なんでこうなったのか、あいかわらず(週末を含めて)予定がびっしりとあって、余裕がない。
会場案内が(研究会レベルで)不親切といった点はあっただろうが、基本的には、きわめて意義のある会になったと思っている。 菊池さんの総論があったのは適切だったし、なんといっても、小内(おない)さんの講演はすばらしかった。
約百人が参加した懇親会もにぎやかで楽しい雰囲気で進んだ(と書いたが、天羽さんは実はけっこうディープな話をしていた(天羽ブログ 11/9)らしい)。 菊池さんのテルミンと T 君のギターの即興セッションも好評。
ひい。 毎日びっしりと色々ある。 Dream Fighter をリピートしてがんばるのじゃ。
と書いてからかなり時間がたって、だいぶ準備ができてきた。 普段の講義よりはかなり分量が多いので、頭に全体像をロードするのに時間がかかったが、だいたい何とかなりつつある。 やっぱり二年前の駒場の講義とは力点の置き方が変わってきた。
準備はよさそうだが、微妙に、くしゃみと鼻水がでるのが気になる。 風邪をひいた状態で長時間の講義をすると喉を激烈に痛めて苦しいのだ。 是非、明日は万全の調子で集中講義に臨みたい。
集中講義第一回終了。
後のために、日記に上に書いた告知をここに写しておこう。
「1. イジング模型における相転移、対称性の自発的破れ、臨界現象(臨界現象はやらないかも)」、「2. 量子スピン系におけるゆらぎと対称性の自発的破れ」、「3. ハバード模型と強磁性の起源」という三つのテーマについて話します。 いずれも広い意味での磁性を題材にした内容ですが、磁性そのものに関心があるというだけでなく、それぞれ、「1. 大自由度系の協力現象の結果として相転移、対称性の自発的破れ、臨界現象が生じる」、「2. 量子効果が本質的に重要になる場合の対称性の自発的破れ」、「3. 量子多体問題における力学的自由度と内部自由度の競合と協力」という理論物理学の根本的な問題に対して、いまのところ人類がもっとも進んだ理解をもっている題材だと考えています。
標準的な統計力学と量子力学のコースを終えた人ならば理解できるはずですが、回を追うごとにだんだん難しくなるかもしれません。 二年前に駒場でおこなった集中講義に近いですが、あのときよりはやや題材をしぼって、より聞きやすい(話しやすい)講義にするつもりです。 また、南部さんのノーベル賞受賞を記念する意味もこめて、全体として、「対称性の自発的破れ」について深く踏み込んで議論するつもりです。 集中講義は外部の方にもオープンなはずですので、二年前に聞き損なった方も、新たに興味をもった方も、是非どうぞ。
第一回の今日は、1 時半から 6 時で、途中 15 分休憩。 もちろん、すべて板書でしゃべりまくる。 まあまあの労働である。
多くの方にご出席いただき、熱心に聞いていただけて、充実した時間をすごせた。 ありがとうございました(今回は、 正規に登録して出席している人数と総出席人数(数えてない。何人だろう? 三十人くらい?)の比についての最高記録を更新したようだ)。
おおよそプラン通りに話せたと思うが、自発磁化の証明のところは、直前に方針を変更したので今ひとつスムーズに行かなかった。 後半になるとさすがにばてて、アドリブ能力(←ネタじゃなくて、その場で証明を再構成したり計算したり説明の方針を工夫したりする能力)が低下していたのも、原因だな。反省。
それなりに元気に講義し、おわったあとは、今回招いてくれた矢彦沢さん(大学院時代の同級生なのだ)たちと楽しくだべっていたのだが、さすがに家に戻ると疲れがどっとでる。
明日も忙しいし、週末も休めないので、さっさと寝よう。
集中講義で午後いっぱい話すと翌日(つまり、昨日の金曜日)は朝から微妙に貧血気味で、気合いを入れないと普段通りには活動できない。 これが半世紀近くを生きてきたことの現れなのであろう(←がーん。なんかうまい表現はないかなと思って、気楽に「半世紀近く」と書いてしまってから、なんか、その言葉の重々しさに圧倒されることであるよ)。
それでも、根性を入れまくって、一年生の講義。 こういうとき、ばてていると思われたくなくて、かえってハイテンションになってしまう癖があるのだ。 いずれにせよ講義は順調に進んでいて、予定通り、ベクトル場の線積分のところを終了。
四年生といっしょに Landau の Statistical Mechanics をしつこく読むゼミでは、さすがに疲れを隠せなかったが(というか、隠さなかったと言うべきか)、幸い、お二人の発表が順調に進んだので、無事におわった。
やはり仕事帰りだった妻と駅で待ち合わせて、二人で、目白近辺の店に行って軽くビールを飲みながら食事。 あとは気ままに過ごす。
まあ、半世紀近く生きてるんだから、たまには、こういう風に一日の終わりを過ごすことも許されるだろう。
しかし、今日はさぼってはいられない。
大学にやってきて、明日の指定校推薦の面接の準備をし、今週の大輪講での出席カードの整理をし、来週の大輪講の準備をし、「統計力学」の本の原稿修正の最終確認をし、さらには、たまっているレフェリーレポート三つのうちの二つを超スピードで終えてしまう。
理想気体なら、熱伝導状態は自明に作れるし、過剰熱も工夫すれば計算できる。 その過剰熱が、(Komatsu-Nakagawa-Sasa-Tasaki の一般論の帰結の通り)対称化シャノンエントロピーの差と一致することを、直接の計算で確かめておこうということだ。
もちろん(厳密でないとはいえ)一般論ができているのだから、これは一致して当然。 逆に、もし一致しなかったら、ぼくらの一般論は間違いという、実におそろしいことになるのだ。
実は、しばらく前に、線型応答公式を経由して平衡での相関を用いて上の計算をしようとすると、何か妙なことになると、小松さんに教えられたのだ。 それではというので、SST の関係式(正確には、拡張クラウジウス関係式)の成立を直接に確認しようと計算をはじめたわけである。 ところが、理想気体と侮っていたせいもあったのか、当初は、初歩的なところで混乱してしまって、理想気体では拡張クラウジウスは破れているのではないかという、顔も青ざめるような結果がでてしまった。 しかし、そこは伊達に半世紀近く生きているわけじゃないので、落ち着いて計算を立て直し、全てのステップを地道に追っていったら、最後は、ばっちりと計算があったというわけだ。 ほっとしたというか、この KNST の話には、いつもヒヤヒヤさせられる。
しかし、理想気体とはいえ、過剰熱の表式はけっこう面倒であり、それが、(やはりかなりこみ入った)対称化シャノンエントロピーの差と(二次まで)ピタリと一致する様子を目の当たりにみると、やっぱり感心する。 少なくともぼくには、なぜ過剰熱と対称化シャノンエントロピーの差が関係するのかは、まったくピンと来ない(KNST の導出はあまりに技巧的でぜんぜん直感が育たない)。 ここには、ぼくらが理解すべき非自明な何物かがきっと潜んでいるに違いないという気持ちがますます強くなってくる。
お。 なんか、急に日記を頻繁に書くようになったぞ。
それにしても、色々なことがある。「ニセ科学フォーラム」から一週間しかたっていないなんて信じられない。
去年も一度、主任として面接を切り回したので、かなり楽になった。 とはいえ、デリケートな気疲れする仕事であることにかわりはない。
面接を終えて、ああ、今日は早起きもしたし一仕事して疲れたなあと思ったとき、無性にプールに行きたくなった。 精神的にばかり疲れているときは、体を動かして、身も心も疲れるのが健全なのではなかるまいか? かつてのぼくだったら、絶対にあり得なかった発想である。
思えば、ここのところ、あまりの慌ただしさに全くプールに行っていなかったのだ。 最近は、佐々さんがプール通いを始めて、ばんばん泳いでいるみたいだ。 その分、ぼくが行っていない。 ううむ。佐々さんが行くと、ぼくが行かなくなるというような保存則があるのだろうか? しかし、日記を見るかぎり、佐々さんの方もやたら忙しいようだから、その隙にぼくがプールに行ってしまえばいいのではないか。早い者勝ちだ。
というわけで、雨の中を歩いて帰宅してから、さらに歩いてプールへ。 こういうとき、職場と家が近いのは本当にうれしい。
ばてているし久しぶりなので、リハビリ感覚で少し泳ぐだけでもかまわないと思い、ゆっくりとプールの中を歩き、それから、少しずつ泳ぐ。 100 メートル泳いでは、歩き、また 100 メートルという風に徐々に体を慣らしていると、自然と泳げるようになってくる。 体が温まってくると、息を止めてプールサイドを蹴って水に潜りながら静かに進むとき、ふと、一種異常な快感というか陶酔感を覚える瞬間がたまに訪れる。おお、ベアトリス様、これが「祈りの海」か(実は、英語で Oceanic も読んだのだ)。 トリップして泳いでいると、けっきょく久々に 1000 メートルを越えた。
対称化シャノンエントロピーの持っている意味(if any)を見抜くという目標に向けて、頭をゆっくり、じっくり使うことを開始する。こちらは易々とはウォームアップはしない。
家に戻り、Count Down Japan の録画で、Perfume の武道館公演の様子を少しみる。
「Dream Fighter・願い」をひたすらローテーションする日々。
立教での集中講義の二回目が終了。
おやつと水筒(と、もちろん、講義ノート)をもって家を出て、コンビニに寄り、リポビタンD と缶コーヒーを買い、リポ D はその場で一気にのむ。 これで 5 時間近くばっちりしゃべり続けることができるのであーる。
「1. イジング模型における相転移、対称性の自発的破れ、臨界現象」は、ほぼ終了。
第二回から第三回にかけての「2. 量子スピン系におけるゆらぎと対称性の自発的破れ」では、量子スピン系への入門から出発して、高次元での対称性の自発的破れと長距離秩序の関連、低次元での Haldane gap について話す予定。 一回目の話とは完全に独立して聞けます。 まだ空席があるようですから、二回目からでもご遠慮なくどうぞ。
イジングの残りをさっと片付けるつもりだったが、けっきょく、無限系の平衡状態について概念をきちんと話していたら長くなった。 みなさん、しっかりとピントを合わせて、きわめて適切な質問をしてくれるので話していて気持ちがいい。
量子スピン系は、入門をやり、ペロン・フロベニウスの定理をちゃんと証明し、さらに、Marshall-Lieb-Mattis theorem の証明を説明していたら時間切れになってしまった。 美味しいところは来週だなあ。さあて、ハバード模型をやる時間がなくなってきたぞ。
それにしても、ペロン・フロベニウス定理を話したとき、すらすらと板書しながらも心の中では、わが畏友・中村匡さんによる「風呂辺に臼」という「シュールな情景(2002年7月25日の雑感)」に言及しようかどうか激しく迷っていたことに気付いた人はいなかったであろう(けっきょく言わなくてよかったと思っているが)。
今年度の大輪講(卒業研究の中間発表の会、ほぼ理想的なプレゼンテーション教育)が終了。
手間はかかるが、一人一人の発表を聴くのは楽しかった。 やっぱ、こんなこと、楽しくないとやっていられない。 とくに、何度も何度も練習したんだなあということがしっかりと分かるような堂々としたみごとな流れの発表を聴いていると気持ちがいい。 こんな凡庸な言葉をぼくが書くとは驚きではあるが、やっぱり、がんばっている若者と接していると元気がでる。
とはいえ、これで水曜の午後が自由になったので、さすがにほっとする。
とはいっても、物理学科のコロキウムと、物理学科全体のコンパ。 ぼくが面白がって企画した、物理学科のイベントデー(←なんか、チープな表現)である。 気楽なものだ。
考えてみると、こうやってちょぼちょぼと「お楽しみイベント」を企画するのって、小学生以来の趣味のような気がする。 ぜんぜん変わっていない。むしろ、おっさんになって、かえって小学生の頃の指向性に戻っている気もする。
立って教える、立教大学での集中講義、第三回目。 量子スピン系を今回でおわらせなければ、第三部のハバード模型について話すのは無理になる。
というわけで、途中で暴走モードに入ることを決め、「今日は 6 時には終わらないだろうから、ご用とお急ぎの方は遠慮なく途中で出ていって下さい。根に持って、次に会ったときに『あ、あのとき途中で出た人だね』なんて言いませんから」と宣言。
といっても、1時半に始め、15分の休憩を入れて、6 時 55 分までだったから、そんなにひどくはない。
「2. 量子スピン系におけるゆらぎと対称性の自発的破れ」は、今のところ、量子スピン系への入門と基本まで。 高次元での対称性の自発的破れと長距離秩序の関連、低次元での Haldane gap といった「色気」のある話は第三回で。 「3. ハバード模型と強磁性の起源」は、どこまでできるのだろう?
実は、二年前の駒場での集中講義では、量子スピン系の部分がどうも絞り込みが甘く、不満が残ったのだ。 今回は、そのリベンジのつもりで、色々と力点を変える工夫をして、かなり作り直したのである。
高次元では、有限系での基底状態が、長距離秩序を示すが対称性を破らないことを出発点に、低エネルギー励起状態の存在、対称性を破る基底状態の構築、無限系の基底状態などについて。 主要な題材は Koma-Tasaki の仕事だが、その下敷きになった Horsch-von der Linden の仕事も丁寧に解説した。 ボース・アインシュタイン凝縮や超伝導の場合について少しだけ言及したが、これは、明らかに簡単すぎ。ピントのあっている人には申し訳なかった(しかし、時間がない)。
一次元では、同じ基本的なモデルについての Haldane 予想、とくに、整数スピン系での Haldane gap について。 Haldane の予想から出発し、基本的なところをおさえてから、Affleck-Kennedy-Lieb-Tasaki の AKLT model から出発し、 Kennedy-Tasaki の隠れた対称性の破れまで。 既に二十年近く前の話だが、なかなかどうして面白く非自明なストーリー。 しかも、それが、ややこしい技巧的なモデルでなく、Heinseberg 反強磁性体というもっとも単純なモデルを舞台におきるのだから、すばらしい。
どちらも、ぼくとしては、ストーリーとその背後にある数理を明確に伝えられたように思う。 二年前のリベンジは果たしたことにしよう。 この調子で、少しずつ改良していきたい。
終わった後も、参加してくださった方とそのまま議論する。 少し耳学問が増えて満足。
大輪講もおわり、集中講義も四回のうち三回がおわり、精神的に楽になってきた。
今週は、木曜の午後に 5 時間をこえて話しまくっても、その晩も、翌日の金曜もけっこう元気に過ごしている。 だんだん体が集中講義に慣れてきたのか? これなら、もっと続けてもいいかも(続けないけど)。
講義の内容も、やや昔の研究を下敷きにしつつ、半分以上は、ぼく自身が関わった比較的最近の研究を取り上げ、(かなり偉そうだけど)理論物理学における厳密さと直観の融合の規範となりうるようなものを紹介しているつもり。 即座に続きを研究すべきホットな話題を提供しているわけではないが、逆に、幅広く理論物理に関わる研究者に有益な、発想、理論的視点、そして、物理を進める「構え」を伝えることが目標であり、それは、ある程度は成功していると思いたい。
そういうわけだから、もしまたチャンスがあれば、今回のような集中講義をよりバージョンアップしてどこかでやってみたい気もする。 さすがに毎年やっても聞く人がいなくなるだろうしぼくも疲れてしまうから、たとえば、再び二年後とか?
昨日 29 日の土曜日は某氏のお宅での宴会に出席し、5 時過ぎから 10 時頃まで、ひたすらビールを飲んで他愛もない話を。 普段はあまり会わないタイプの人たちにたくさん会って、普段は話さないようなことを話すので、愉しい。 初対面の(全く分野の違う方に)「雑感」を昔から読んでいると言っていただいたのは、うれしい驚き。 やはり継続して書き続けるといいことがあるのだなあ。
本日 30 日は、さいたまスーパーアリーナでの、椎名林檎のデビュー十周年ライブ。
広大な会場の二階席。 ステージでの林檎は小さくてよく見えないが、音響は素晴らしく、ボーカルも楽器の音色もきれいに聴き分けることができる。 ステージも照明も整然と美しい。
例によって過剰演出が鼻につくところもあったが、音楽については文句はない。 ファンとして心から望んでいるものがそこにあった。
スモークに霞む広大な会場を埋め尽くした観客をみながら、ぼくが、この(ほぼ)十年間、ずっと彼女の音楽を聴き続けながら、家族との生活を送り、子供を育て、学生さんを教育し、少しばかりの本を書き、そして、自分なりに物理の研究を進めてきたのだということを強く強く実感する。