茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
さてさて、月曜に佐々さんの話を聞いて「洗脳」されて以来、蜂の巣格子に線や点が並んだ図を延々と描いている(これを始めた月曜には、妻も誘って、夫婦二人で深夜まで絵を描いていた)。 蜂の巣格子上の BM 模型というものの最密充填構造、あるいは、それに近い密度の高い配置のパターンを見抜くのが課題だが、なかなかどうして奥が深いのである。
最初は、まず白紙に手で蜂の巣格子を描いてから作図していた。 しかし、事前に蜂の巣を印刷した用紙を大量に作ってから作業すべきだと妻が提案して、月曜の夜に「蜂の巣用紙(右は 40 パーセント縮小したもの)」をたくさん作り本格体制に入ったのだ。 今日も、その「蜂の巣用紙」を使って図を描いている。 (ちなみに、佐々さんは、何ヶ月か前からこの問題に取り組んでいるのだけれど、なんと、こういう「蜂の巣用紙」を作っていなかったという。 毎回、手で格子を描いているんじゃ能率悪いと思うんだけど、そこが佐々さんらしいところと言うべきか。 しかも、専用の用紙なしに、最密充填(の候補)が 9/16 であることを見抜いてしまったのだから、さすが(いい意味で)佐々さんらしい。)
絵を描いて、あれこれ考えて、佐々さんにメールを書いて、質問や議論。
ううむ、難しい。
もう少し粘りたいが、今週はまだプールに行ってない。
ここで行き損なうと、肉体と頭脳のバランスを著しく崩してしまうことになる。
ここは、いったん中断してプールじゃ!
(プールに行っても研究は中断しないんじゃないのと思われる読者もいらっしゃるだろうから、解説しよう。
確かに、プールだろうが、散歩中だろうが、ベッドの中だろうが、研究はできる。いや、むしろ、そういうところでこそ仕事が本質的に進むというのも経験事実なのだ。
ただ、やっぱり仕事のタイプによっては、机に向かって絵や式をかかないことには、どうしても進まないということがある。
細かい計算や不等式の評価のぎりぎりの詰めみたいなのは、もちろん、机が必要。
また、今回やっているみたいに、具体的なパターンを描いて、詰まり具合やつながり具合を見るというのは、人によっては紙なしでできるんだろうけど、ぼくは全然だめ。
空で考えてもきわめて苦しいし、絶対に数え間違うのだ。)
やはりプールは公開していない。 水を交換するために、プールは数日間お休みらしい。
休みだと言われても、昂ぶってしまったプールに行く気持ちはどうしようもない。 考えるまでもなく、その足で、池袋の駅のそばの池袋スポーツセンターのプールに向かうことにする(2005/9/2を参照)。 プールのプリペイドカードの他にはロッカー用の 10 円しか持っていないのだが、池袋でも同じカードが使えるのだ。 体を動かそうと思っているのだから、もう 15 分間だけ自転車に乗るのは何でもないことだ。
池袋といっても、普段はあまり行かないゾーン。「・・・サロン」「・・・マッサージ」「萌え・・・」などなどの怪しげなお店などがある界隈を、さわやかに自転車で走り抜け、目指すビルの駐輪場に自転車をとめる。
プールの受付は 11 階建てのビルの 9 階にある。 エレベーターの壁はガラス張りで、見晴らしがよい。 自分の視点がすーっと持ち上がって、目の前に池袋の町並みがみるみる広がっていく様子は絶景。 このエレベーターに乗ると誰もが、扉に背を向けて、ガラス越しに外をじっと見ている・・・・と思ったんだけど、ぼくと一緒に乗った兄ちゃんは、ムスッとしたままずっと扉のほうを向いているぞ。 外を見るのが好きじゃないのかな??
9 階の更衣室で着替えて、水着になって 11 階に向かう。 このエレベーターの壁もガラス張りで、いよいよ池袋の街を見下ろす感じ。 このエレベーターに乗ると誰もが、扉に背を向けて、ガラス越しに外をじっと見ている・・・・と思ったんだけど、ぼくと一緒に乗ったおじいちゃんは、ムスッとしたままずっと扉のほうを向いているぞ。 みんな、外を見るのが好きじゃないのかな??
プールはきれいなのだが、人が多く、コースの使い方も窮屈だ。 見晴らしや雰囲気は素晴らしいが、泳ぎやすさでは普段の西池袋のプールがはるかによい。
それでも、ゆっくりと、定番の 1000 メートルを泳ぐ。 プールからあがってシャワーをあび、再びプールサイドに戻って、髪を拭きながら窓の外の風景をみる。
池袋から西側に広がる広大な平地。 靄がかかった地平線まで、まったく途切れることなく、家と建物がびっしりと建っている。 ちょうど夕暮れのオレンジ色がかった太陽がビルや家や高架道路を斜めから照らしている。
限りなく人工的な風景だが、不思議な美しさがある。 この風景のなかに、決して一生をかけても知り合えない数の人たちが暮らしているのだ。
これが、アジアの巨大都市、東京。
「そして、あなたが守った街」
(すみません。これが言いたかっただけでした。下の 2 分 40 秒あたりですね。)
駒場での「現代物理学」の最終回。
「対称性の自発的破れをめぐって」という無茶なテーマを選び、マニアックでハードな講義をしてきた。 すべて「原理的には一年生に理解可能」という縛りを設けて、確率過程の収束定理を証明し、イジング模型の定義や解析をしてきた。
そういう意味で、使われる数理的テクニックやアイディアは多彩で華麗だったと思うが、物理としての進み方は遅々たるものだった。 学期も半ばをだいぶ過ぎた頃に、熱心に聞いてくれている学生さんから「けっきょく、対称性が破れる系はでてくるんでしょうか?」とまじめに質問されてしまった。 「対称性の自発的破れをめぐって」と題しつつ、「結局、対称性は破れませんでした」では、詐欺になってしまうものな。
思ったよりはるかに時間がかかったが、ともかく、先週と今日で、(無限レンジモデルの)対称性がばっちりと(かつ、自発的に)破れるところは見ることができた。よかったよかった。
とはいえ、最後の講義が終わったあとの質問を受けていると、いい足りなかったことがいっぱいあるなあと痛感。 本当は、もう一時間くらい余計にやって、質問に答えて補足し続ける必要があったかなあ?
いずれにせよ、こんな変わった講義を、最後まで熱心に聞いてくださった多くの学生さんたちに感謝。
終わったときには、T シャツが汗でぐっしょりと濡れていた。
金曜の「数学 II」に続いて、今日の「熱・統計力学 2」も最終回。
結晶の比熱のパートが終わらないのではと危惧されたのだが、事前に時間配分をよおく吟味しておいたので、それなりにうまくいった。 最後は、統計力学や普遍性について言いたいことを言って、なかなかよい感じで終わった。
これで今学期の講義はすべて終わり。 学期はじめに体調が今ひとつだったので、なかなか大変な一学期であった。 とはいっても、休講はもちろんなかったし、講義も毎回全力でやった(つもり)。
暑く長い一日で、よく働いたので、5 時半頃に大学をあとにしてプールに。 すいているし、水温もちょうどよく、実に気持ちがいい。
一日の疲れがあるにもかかわらず、楽々と 1000 メートルを泳ぐことができた。 土曜、日曜と続けて泳いでいるので、体力がついているということもあるのかもしれない。
家に帰って水着を簡単に洗い、屋上に干しに行く。 さすがに夜は少しだけ涼しくなるので、屋上は気持ちがいい。
すっかり日が暮れたと思っていたのだが、西の空には、沈んだばかりの太陽の光を受けて不思議に赤く染まった雲が横に長く浮かんでいる。 きれいだ。 見渡す限り続く家々やところどころに建つビルの窓にも灯りがともる。 人工的だが、不思議に懐かしさを感じる光景だ。
これが、ぼくらの暮らす巨大都市、東京。
「そして、あなたが守った街」
は、もういいですね。すみません。