茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
8 月 5 日のオープンキャンパスまで、ほとんどずっと予定で埋まっている。やれやれ。と書いたのは、ベルリンに行く前の 7 月 10 日だったけれど、本当にそういう感じだった。 まあ、海外・国内を飛び回る超多忙な人と比べれば何のことはないスケジュールなんだけど、週末も含めて、ずっと用事(私用も含む)が続くと、疲れが蓄積してきて、やっぱり大変だ。 特に、最後のほう、研究会準備、突発的取材、定期試験、福島での会議、駒場の授業のレポートの採点、酷暑の京都での研究会と続いたあたりは、なかなかのものだった。 もちろん研究会は楽しく、また、考えることも多かったけれど、ともかく疲れた。
予定が埋まっている最後の日の昨日の朝、半分目覚めかけたまま「ああ、今日は何もないからゆっくりと寝ていられるはずだ」と考えていたが、次第に意識が戻ってくると、オープンキャンパスでミニ講義をしなくてはいけなかったことを思い出した。 講義のためのスライドは京都で懇親会の後に酔いを醒まして作り、京都から戻った晩に、最後の仕上げとタイミングの調整をしたのだった。
京都ほどではないが、やはり東京も暑い。 バスから降りて昼食のパンを買って、ふらふらと学内へ。 おれ大丈夫かなと心配になるくらいなのだが、いざ模擬講義が始まって壇上に立つと、すさまじく集中して元気なので、自分でも呆れる。 放射線の基礎や、原子力発電所事故の概要について話し、最後は、「科学とは、人間とは何か?」「何のために科学を学ぶのか?」みたいな大きなテーマまで。 一生懸命にハイテンションで話したし、聴いている人たち(高校生だけではなく、ご両親も多いのである)の反応もとてもよかった。
ぼくの役割は模擬講義だけのはずだったのだが、参加者があまりにも多かったので、急遽、その後の見学ツアーの先導もやることになった。 もちろん、状況をみて、ぼくが自分からやるって言ったんだけど。
もうエネルギーは尽きているはずなんだけど、スケジュールに従って案内しながら、工作工場やら研究室の説明をし、暑い屋外を歩きながらも、学習院の物理学科の魅力を語り続ける。 自分でもまったく呆れ果てるほどに馬鹿元気なのである。 こういう「客商売」に向いていると言えばそうかもしれないけれど、過剰にがんばり過ぎるから向いてないのかもしれない。 最後まで、見学してくれた高校生の質問に答えて、ようやく午前の部が終了。
幸い、午後の部の参加者は多くはなかったので、ぼくは本来の割り当てどおり、模擬講義だけで終わりだった。 講義を終えたあと、アルバイトの物理学科の学生たちに「すべてのエネルギーを使い切った・・」と言って、オフィスに戻ってソファーに倒れた。
疲れがたまっているせいか、昨夜、(多分、今年に入って最高に)蒸し暑くて寝付きが圧倒的に悪かったせいか、ともかく、へろへろ。 徐々に元気を出しながら、懸案だった「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識 」の改訂作業を進める。 同時に書籍版の入稿に相当する作業でもある。出版社との約束から、数日、遅れてしまっている。ごめんなさい。
ふう。とりあえず、終了。まだ、細かい修正は続けるけれど、やりたいと思ったところまでは、やった。
ともかく、明日から少しの間は数理物理学者らしく暮らす。
数理物理学者リハビリ中なう。
昼間でも、窓を開けて風を入れていれば涼しい。 畳の床に寝っ転がったまま、頭のなかで、無限和を三つにわけて、その内の二つは絶対値をとって(それぞれ別の方法で)上から抑え、主要項と望んでいる結果の差の絶対値も上から抑える。
実は以前に一度考えて仕上げきれなかった評価(中川等式の断熱定理)なので特に新しいアイディアなどはないのだが、ともかく、頭にロードしてきちんと考えなくては。 お、同じ手法を少し拡張すれば、前にはダメだと思っていた断熱定理も証明できそうだ。あ、しかし、それを証明したとして、物理的意味はあるのだろうか? 前に考えていたときは、これが面白いと思ったのだが、ううむ、今から見ると・・
発想が行き詰まってくると、息抜きに前から読みたかった数学の本をパラパラと読む。 で、また寝っ転がって、いろいろと考える。
まあ、これくらいが適切なバランスかなあ。 福島の「最前線」でそれぞれがんばっている知人たちの顔を思い浮かべない日はない。 100 パーセント物理のことだけを考えていた日々にはどうしたって戻れない。
中野さんといえば、林檎ちゃんファンとしても、Perfume ファンとしても大先輩で、私の音楽の趣味に多大な影響を与えている方なのである。 というわけで、軽く期待しながら YouTube で何曲が聴いてみて、迷わずセカンドアルバムを注文(だって、「きらきら武士」には林檎ちゃんが参加しているし(←ほんと、彼女の声は好き)、名曲「狩りから稲作へ」のインパクトはすごい。ついに日本語のラップを認めつつあるぼく)。すでに、家族全員が感染して、みんなで歌っている状態。
一発で覚えられる明快なメロディーラインだが、決してチープではなく、聴き込むほどに味がある。 曲作り、アレンジ、演奏の圧倒的な技術の高さと、かぎりなくふざけた基本コンセプトの取り合わせも絶妙。
「神聖かまってちゃん」のときも、ぼくがはまって、それがいずれ家族全員に感染したのだが、あっちは、何というか、あまり深入りしすぎるのも問題かなという躊躇があった。 「レキシ」は、そんな悩みなく、実にお気楽に「はまれる」ので大変よろしいです。
ああ、気づいたらもう 8 月も後半、20 日になっている --- と、夏休みの小学生のようなことを素直に思う。
今、新幹線に乗って京都に向かっている。 基礎物理学研究所将来計画委員会というものに出るための日帰りの出張だ。
あまりに暑そうなので、京大近辺のラーメン屋に行くのはあきらめて、駅弁を買って少し遅めの新幹線に乗った。 昼食も夕食も新幹線の中というのは、ちょっと悲しい。
家族と遊んだりもしたが、基本的には、じっくりとこもって、やるべき仕事をコツコツやることを目指した。
「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識 」の単行本化の作業が進んでいる。 大変な作業はすべて出版社でやってくれているわけだが、やはり、細かい問い合わせや相談のメールが断続的に届くので、それらを、日々、粛々と処理する。
あとは、非平衡熱力学の数理物理の論文を書く作業。ずっと前に書き始めいて、定理についても何カ所かで既に話している。とにかく完成させなくてはいけない。 ただ書けばいいというのではなく、書くにあたって、証明の整備など色々と必要なので、ともかく作業する。 それなりに進んだのだが、なんというか、得意の必殺技「あまりの集中力とスピードに自分でもあきれる」が発動されるのとはほど遠いなあ。あの技はどうやったら使えるんだっけ・・・
少しは新しいことも考えようとはしている。 散歩しながら、京都の研究会で中川さんと話したことの続きを考えていたら、派手ではないがそれなりに面白い関係式が出てきた --- と思っていたら、それは、すでに中川さんがかなり前に導いて、ぼくに教えてくれていたものだったことが後からわかった。 その時にはピントがあいきらず、頭から消えていたのだなあ。 なんか、冴えない話みたいだけど、でも、ともかく自分で頭を使ってあれこれ考えるのは、最高に愉しいことの一つなのだ。