日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


2013/8/3(土)

[MSP2013Poster] 研究会

Mathematical Statistical Physics
の全日程が終了。

運営も最後まで驚くほど順調で、講演での議論も盛り上がり、ほとんど何の文句もない研究会になったと思う。

お世話になったみなさんに感謝。

おもしろかった。しかし、やっぱり疲れた。


2013/8/11(日)

暑い。


今日は日曜日か。

ということは、ちょうど一週間前の今日は、チェックアウトを終えたホテルのロビーで、原から孤立量子系での緩和についてのアイディアを聞きながら、時々通りかかる外国からお客さんたちに別れの挨拶をしていたのだ。 なんと、遠い昔のことのようだ。

そして、さらに、そのもう一週間前の日曜日には、いよいよ翌日から研究会だということで、オープニングの挨拶の内容を検討したり、謝金の書類を整えたり、直前の準備を進めつつ、夜は、Jona-Lasinio 先生を始めとするお客さんたちと居酒屋に食事に行ったりしていたのだ。 ああ、ほんとうに、ものすごく遠い、懐かしい昔のようだ。まるで、シガンシナ区でみんなが平穏に暮らしていた遠いの日のよう


研究会の後は、かなり疲れてはいたが、妙に脱力するといったことはなく、ひたすら仕事をしている。 大学の雑用や採点を後に残さないよう事前に必死でがんばっていたので、科研費の書類を整理して事務に提出し、学科の会議に一つ出た以外は、ずっと物理学者としての仕事だ。 しばらく思うように研究や論文書きに時間が取れなかったので、また、取り戻す。本も書く。

さしあたっては、Goldstein-Hara-Tasaki のレフェリーレポートが戻ってきて、どう見ても、もうほんの一押しで確実に掲載されそうな雰囲気なので、そちらのレフェリーへの対応と、論文の書き直しを。

前後して、(こっちも研究会の直後から再開しているのだが)「マクスウェルの悪魔」について、ひたすら沙川さんに教わりながら講義の準備を進めるあいだに到達した理解を論文にまとめる作業。 自分で言うのもなんだけれど、けっこうきれいな仕事だと思う。ぼくは、これを見て、沙川さんと上田さんが何年間かかけて進めて来た相互情報量を軸にした定式化の意味と重要性を、ようやく、理解・納得したのだ。 ただ、きれいで素敵な仕事だとは思うけれど、どうも自分の研究という気がしてこないのも事実。

本文はきれいに書けているのだが、どうもイントロで時間を取られている。というより、うまく書き出せないんだな。珍しいことだ。 ぼくは普段から「Physical Review Letters のサイズのものなら一日で書ける」と豪語しているのだが、これには、既にもっと費やしているかも。 早く書こう。


あ、なんか、書けた。

今日は乗らないから他のことをしてようとか思って、実際、他のことをして過ごしていたんだけど、なんか、急に書き始めたら、一気に、力の入った(ちょっと入り過ぎか?)イントロと最後の議論を書いてしまった。 こういうのって、ほんと、不思議なんだよね。タイミングが来ると、あっという間に終わる。

さて、本文に戻って全体を整える楽しい作業に入るわけだけど、明日は、おそらく長距離ドライブすることになるので、お休みです。


2013/8/30(金)

前の日記を書いた少し後から「夏休み」に入った。

単に大学の雑用や教育関連の仕事をしないというだけでなく、家の仕事もせず、家族と遊ぶこともせず、基本的にずっと「物理学者としてやりたいこと」だけをして過ごすという意味での「夏休み」だ。 意図的に工夫して、そういう時間の過ごし方をする日々を確保したのである。 こんなことをするのは初めてだ。

もちろん、それが可能だというだけでも本当に幸せで恵まれていると思う。 家族、同僚、学習院の経営陣(?)を初めとする多くの人々に感謝。


「夏休み」の前半は、朝から晩まで遊びまくる小学生の暮らしだった。 朝起きてから深夜まで(子供は深夜までは起きてないね)、ずっと物理に関わる仕事をしていた。 ほとんど息抜きもしないし、お酒も飲まないし、自分でもアホみたいだと思うほどの集中力で、ともかく、ずっと物理。

けっきょく、それが猛烈に楽しい。 ああ、俺って、やっぱりこういう人なんだなあと、今さらながら思った。

この間にやったことの一部を書くと、

こうやって列挙したのを見ると、論文の仕事ばっかりしているようだが、もちろん、物理学者なので自然と研究のことも色々と考えている。

特に、具体的なことを書くまでもないかとも思っていたが、8 月 25 日の佐々さんの日記に「リーク」があるので、それについてちょっと書いておこう。


「夏休み」の後半は、言うまでもなく、宿題に追われる小学生だ。

ぼくの場合は、本当に、何年間も何年間もため込んだ文字通りの「積年の宿題」がある。

相転移と臨界現象の数理
田崎晴明、原隆
という数理物理の教科書、別名、「イジング本」だ。

この本については、もう何度も何度も、「そろそろ脱稿」と宣言しながら、けっきょくは脱稿せずにずるずるずるずるずるずるずるずるずるずると執筆・改訂を続けている。 なんせ 400 ページ近い本だから、本気で時間をとって集中しないかぎり、実質的な作業はできないのだよね。 なんだかんだとやっているうちに、色々と忙しいこと(放射線の本とか・・)が発生して、時間が取れないまま 2013 年を迎えていたのだ。

「夏休み」をとろうと決めた一つの理由は、この積年の宿題と直面する時間を確保することだったのだ。

そして、一生懸命に、やりました。

「朝から深夜まで、研究や論文で楽しく遊びまくる」時期に比べると、ちょっとだけ集中力は鈍っていた気もする。 それでも、(息抜きと言えば、ちょっとギターを練習したり、読書(最近は、ずっとダレルの『アレクサンドリア四重奏』を読んでいる.素晴らしい本です)したりするくらいで)ひたすら朝から晩まで仕事をしたのであった。

まずは、本全体の構成や構想を思い出すところから始まり(←けっこう,時間がかかる)、 草稿を読んでくれた様々な立場の人たちからのコメントを吟味し、ときには微修正し、ときには思い切って新しい節を足すなどの大胆な変更をおこなう。 「『・・・』という言葉を未だ説明していないのに平然と使っているぞ」、「微分についてのこの記法は混乱する」などなどの厳しいがありがたいコメントを着々と取り入れる。 それと平行して、自分でも、すべてを読み返して、全体の整合性を高め、表現を工夫する。

こうやって作業を進め、通り過ぎた章については、かなり最終稿に近いと思っている。

残念ながら、未だ最後までは来ていない。 そして、「夏休み」は終わろうとしている。

しかし、ここまでピントを合わせたからには、これを逃したくはない。 「夏休み」が明けても、定期的に作業の時間を取って進めるつもりですので、共立出版の関係者のみなさまにおかれましては、あと少しだけお待ちください。どうかよろしくお願いします。


さて、「夏休み」の最後は、まとめて夏休みの日記を書く小学生。

これがその日記です。

「夏休み」はそろそろ終了。月曜日の会議を皮切りに日常に復帰します。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp