茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
さて、気がつくと 7 月も半ば近い。
実際、この間の金曜日で学習院の今学期の講義はすべて終了。あとは明日の駒場を追えれば今学期の講義はおしまいだ。
今学期はが始まる前には自分自身の体力をかなり心配していたのだが、結果的には(途中でばて気味の時期があったものの)大禍なく --- というと大げさかもしれないけど、まあ、休講なんかもなく --- ここまで来られて大変にうれしい。 もちろん、まだ、定期試験やレポートの採点や、JST 関連の仕事や会議、オープンキャンパス、学科の重要会議、あ、それからすごく重要な人事公募に関わる諸々など、やることはいっぱいある。そうはいっても、やっぱり講義が終わると一つの区切りがついた感じで、すごくほっとするのだ。
初めて彼らのライブに行ったときのことが 2012/11/32 の日記(←「え、なに、この日付、なんか間違ったかな?」と素直に思ってしまった。昔の俺のアホな小ネタだった(←別に面白くねえぞ、2012 年の俺)。)にあるけれど、実は、あれからかなりの回数このバンドの(といっても、編成は色々に変わるんだけど)ライブに足を運んだ。
しかし、今回のライブは別格なのだ。
「プログレナイト」と銘打ってプログレ(語源的には progressive rock の略なんですが、でも、やっぱ「プログレ」なのですね)色の強い曲 --- つまり、(よくわかっていないので、いい加減な説明だが)10 分を超えるような長く複雑な構成の曲が多く、やたらと難しい早いパッセージを複数の楽器でばっちり合わせる「見せ場」が随所にあったり、7 拍子とか 13 拍子とかみたいな変拍子がばんばん出てくる上に曲の途中でリズムが頻繁に変わったりという、聴く方は無性に快感だが、演奏する方は(アレンジや練習を含めて)相当に大変そうな曲 --- ばかりを聴かせるという企画。 しかも、今回はリーダーの吉良さんが仕上がりに相当の自信をもっているということも事前に聞こえていた。 いやが上にも期待は高まってしまうではないか。
実際のライブは、事前の大きな期待を裏切らないどころか、大きな期待をさらに超える素晴らしさだった。
なんせ、メンバーがみなさん超絶にうまい人ばかりなので、長大な難曲も(少なくとも外から見た目には)何の苦もなく楽しそうに演奏している。 二人のパーカッションが寸分の狂いもなくシンクロして複雑なリズムを叩く様子なんかは聴いていても見ていても本当にぞくっとするものがある。 メンバーの一人である難波弘之さんが、どこかのインタビューで「プログレッシブロックのライブには、サーカスのような名人芸を見に来るという要素もある」というようなことを言われていたが、確かに、そういう快感もあるよ。
ステージをすぐ上から見下ろせる席からの眺めも素晴らしかった。 吉良さんを初めとしたステージ上のメンバーが楽しそうに演奏している姿が手に取るように見えるし、お互いに顔を見たり視線を送ったりしている様子もわかる。 おまけに、ステージ上の歌姫の小峰公子さんがぼくがいるほうを見上げたときに、ばっちりと目があったりもしたのである!!(←おまえがそう思っているだけだろうという意見は認めません)
ライブ全体の構成も選曲も素晴らしく、本当に「おいしい音楽」を贅沢に堪能した。 やっぱりライブというのはいいものだなあと思う。
そして、なんと言っても素晴らしかったのは、バンドを率いる吉良さんの生き生きとした姿だった。 めっちゃ楽しそうにギターを奏で、歌を歌い、何度かステージ上でジャンプするという元気さ。ぼくと同い年とは思えない体力とエネルギーだ。 でも、それは単に明るく元気なおっさんというのとは全く違っていて、バンドをまとめあげ難曲の演奏をリードしていくという、ぼくら凡人には想像もつかない精緻でデリケートな仕事をこなしている上での明るさ・元気さなのだから素晴らしいではないか。
というわけで、もうやたらと感動してしまった単純なぼくは、「吉良さんたちが音楽家として最高のものを見せてくれたんだから、おれも物理学者として最高のことをするぞ!」と決意するのであった(←こんなのばっかしだよね)。
さしあたっては、11 月から 12 月にかけての、東大での多体系についての集中講義を
俺一人のプログレナイトと勝手に呼ぶことにした! 多体系の超難問を最高のテクニックでばんばんと解析するという精緻な仕事を、明るく、元気にこなすのが目標である!! ちなみに講義は夜じゃなくて午後だけど「プログレアフターヌーン」だと気合いが入らないので(PFM とかの緩めの曲を聴いてくつろぐ感じだしねえ)、あくまで「ナイト」なのである。 (まだ先だけど)がんばるど!
さあて、講義も終わって「ふう」と一息ついたところで、昨日くらいから、
さらに個人的に時間を使うことがあるなあと思っていたところに、さる大先生の奥様の訃報。ご冥福をお祈りします。
思い返してみれば、若い頃には随分と可愛がっていただいたなあ。やはりお葬式には行ってくるか。
数理物理・物性基礎セミナー(第 35 回)
日時:2014 年 7 月 19 日(土)14:00 〜 17:30
場所:学習院大学南 7 号館 101 教室
中山 優 (東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)「 共形ブートストラップで理解する相転移と臨界現象」
実は、中山さんのことはずっと前から知っているのですよ。お会いしたのは一回だけだけれど。そういう意味でもとても楽しみ。今回の講演のテーマは臨界現象や場の理論の本質的な側面と深く関わっていると思う。統計物理だけでなく場の理論に興味のある多くの人に聴いてほしい。中山さんが書いた概要も素晴らしいので是非読んで見てください。暑いかもしれませんが、みなさん、是非、目白でお目にかかりましょう!
いや、それ以上かな。興奮したし、感動したと言ってもいい。 物理と(それに比べるとかなり劣るけど)数学がわかって、臨界現象と(それに比べるとかなり劣るけど)場の理論を知っていて、本当によかったなあと心から思える時間だった。
一般の次元での「ありうる臨界点の姿」を conformal bootstrap という方法で調べるという話なのだけれど、それで 3 次元 Ising 模型の臨界指数をかなりのところまで絞り込めるし(←これは中山さんたちの研究ではない)、QCD のカイラル転移や反強磁性体での転移に伴う臨界現象についてもかなり強い予言ができる(←こちらが中山 + 大槻のお仕事)。 モデルのミクロな定義から叩き上げていく構成的なアプローチからは遠く隔たっているとはいえ、3 次元の臨界現象についての「事実」が少しずつ明らかになっていっていることは確かだ。 出口さんが思わず「進むものなんですねえ」と感嘆していたが、まったく賛成。
思い返してみれば、2 次元 percolation に CFT を応用して得られた Cardy's formula を初めて見たときには、それが数学的なアプローチと融合する日が来ることは想像だにできないと考えたのだった。 しかし、今や、Cardy's formula は Smirnov の定理の帰結であり、れっきとした数学の定理だ。 3 次元の臨界現象と共形不変性の関係だって、少しずつ数学になっていくのかもしれない。
他にも中山さんの結果には色々と気になるところがある。 セミナーが終わって後も色々とメールで質問を続ける。楽しいぞ。
例年のことなのだけれど、今年も、当初に思っていたのとはかなり違う構成と流れになって最終回を向かえた。 思っていたより「硬派」だったかもしれないなあ。 「1 年生にもわかる知識しか仮定しない」という強い縛りを守ったまま、ランダムウォークの再帰時間の分布、Scheidegger の川のモデルにおける川の長さのベキ分布、voter model における独特の coarsening、そして、三角格子上の percolation における相転移とスケール不変性を、すべて厳密に扱ったのだから、けっこう根性が入っている。こんな講義は世界中を探しても他にはないと思うよ。
例年、ぼくの講義テーマも変わるけれど、前のほうに座っていて講義の後にだべる「常連」の顔ぶれも変わっていくのが楽しい。 こうして、その年、その年の空気が作られていくように思う(実際、参加している人たちとの会話が講義の進み方にもかなり影響していると思う)。
さあて、駒場の教育システムが大きく変わって講義も 105 分になる来年も、「現代物理」を担当することになるのかな?