赤荻研究室
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(理学部)
1.ポストぺロブスカイト型ABX3化合物の高圧合成、構造解析、相平衡、物性測定
原子が極めて密に充填しているペロブスカイト構造も高圧下でポストぺロブスカイト型と呼ばれる2次元的構造に転移することが2004年にMgSiO3で報告されて以来、ポストぺロブスカイト型ABX3化合物は地球科学と物質科学の両面で関心を持たれている。赤荻研究室では30万気圧、2000℃にわたる高温高圧合成技術を用いて、様々な酸化物、フッ化物のポストぺロブスカイト型ABX3化合物を初めて合成し、それらの安定領域や結晶構造の詳細を決定し、電気伝導度測定、磁気測定、熱容量測定などを行うことにより興味ある物性と構造を持つことを見出した。下にNaNiF3の例を示す。現在知られている13種類のポストぺロブスカイト型酸化物、フッ化物の内、CaRuO3, CaRhO3, NaNiF3, NaCoF3の4つは白子、糀谷らによって初めて見出され、構造、物性が調べられたものである。(Kojitani et al., 2007, Shirako, et al., 2011, 2012a,bなど)
ポストぺロブスカイト型NaNiF3の構造 |
NaNiF3の高圧相平衡関係 |
NaNiF3 PvとP-pvの磁化測定 |
NaNiF3 PvとP-pvの熱容量 |
2.マントル岩石、鉱物の高圧相転移
地球のマントルは主にマグネシウムケイ酸塩鉱物から構成された岩石(パイロライト)で出来ている。石井らは、従来よりも高精度の高温高圧相平衡実験法(マルチセル法)を用いて、地球の深さ660qで起こると考えられている相転移(ポストスピネル転移)の特徴を詳細に解明し、ポストスピネル転移境界がパイロライトとMg2SiO4では異なることを見出した(Ishii et al., 2011)。またプレートの沈み込みに伴い、大陸地殻物質の一部がマントルに沈み込む場合の高圧相転移を調べ、それが下部マントルまで沈み込み得ることを示した(Ishii et al., 2012)。またCAS相と呼ばれるCa,Alケイ酸塩や酸化チタン鉱物などの高圧相転移も明らかにした(Akaogi et al., 2009、2012など)。
パイロライトの高圧相平衡図 |
パイロライトの鉱物組合せの温度圧力変化 |
3.新規金属酸化物高圧相の高圧合成と結晶構造解析
一連のAO2、ABO3、AB2O4型化合物の高圧相転移を研究する中で、様々な新規高圧相を初めて高圧合成し、その結晶構造を明らかにした。変型ludwigite型と名付けられたMg2Al2O5高圧相はMgAl2O4スピネルの高圧分解相の一つであり、同構造の化合物が他のAB2O4型化合物の高圧分解相中にも出現する(Enomoto et al., 2009, Kojitani et al., 2010)。また赤荻研究室でMgAl2O4−CaAl2O4系において初めて見つけられて構造決定され、六方晶系アルミニウム含有相 (NAL相)として知られている高圧鉱物(Akaogi et al., 1999, Miura et al., 2000)は、現在ではマントル深部へ沈み込む海洋地殻の主要構成鉱物の一つとして認識されており、構造中にKとNaを多く取り込む相であることが明らかにされた(Kojitani et al., 2011)。
変型ludwigite型Mg2Al2O5 |
KMg2Al4.8Si1.2O12六方晶系相 (NAL相) |
CaRhO3ペロブスカイト相とポストぺロブスカイト相の中間の圧力温度で安定な新規CaRhO3高圧相を見出し、その構造を決定した(Shirako et al., 2012)。以上のように、ここに挙げた新規構造の高圧相はいずれも、BO6八面体が稜と頂点を共有することによって複数のBO6八面体鎖が一つの結晶軸方向に伸び、大きなAイオンに占められたトンネル状の空間を持つ構造を持っている。
新規CaRhO3高圧相 |
またクロム含有鉱物MgCr2O4、FeCr2O4の高圧相転移を明らかにし、どちらも約13GPaまではスピネル相が安定であるが、13〜18GPaでは変型ludwigite型相+コランダム型Cr2O3が安定になること、約18GPa以上の圧力でカルシウムタイタネイト(CT)型相が安定になることが示された(FeCr2O4では、1200℃以下でカルシウムフェライト(CF)型相が安定)(Ishii et al., 2014, 2015)。以上の結果は、衝撃変成を受けた隕石中に発見されたCT型FeCr2O4の衝撃圧力の推定や、地球深部を循環したとされる超高圧クロミタイトの起源に対して制約を加えることを可能にする。
4.ケイ酸塩高圧相などの熱力学的性質
ケイ酸塩鉱物やアナログ物質などの高圧相の熱力学的性質は、それらのエネルギーと安定性を明らかにし、高温高圧下の相平衡関係の熱力学計算を行うために不可欠である。しかし高圧相は一回に数mg程度の少量しか合成できないため、従来は限られた物質しか、それらの熱力学的諸量が実測されてこなかった。糀谷らは、20〜25万気圧以上の高圧下で安定なスピネル型Mg2SiO4やイルメナイト型、ペロブスカイト型MgSiO3、カルシウムフェライト型MgAl2O4などの少量しか合成できない高圧相試料について、高温微少熱量計や示差走査熱量計、PPMSを用いて熱力学的性質(エンタルピーや熱容量)を測定した。さらに、ラマン分光測定に基づく理論計算も併用することにより、熱測定温度範囲を越えた熱力学的諸量を計算し、それらの高圧相平衡関係を決定した(Akaogi et al., 2007, 2008, Kojitani et al., 2012a,b, 2013など)。またMgSiO3ポストペロブスカイトのアナログ物質であるCaIrO3ポストペロブスカイトについても、同様の研究を行った(Kojitani et al., 2007)。
スピネル型Mg2SiO4の熱容量 |
MgAl2O4の高温高圧相平衡境界線 |
Il型、Pv型MgSiO3の低温熱容量 |
CaIrO3のPv‐Ppvの相平衡関係 |
またMgSiO3ペロブスカイト(ブリッジマナイト)、Mg2SiO4スピネル(リングウッダイト)、MgOについて、従来より格段に精密なエンタルピー測定を行い、ポスト・スピネル転移境界線を精密な条件下で計算した。その結果、Mg2SiO4のポスト・スピネル転移境界はマントルの660km不連続面よりやや浅い深さに位置し、そのクラペイロン勾配も−1MPa/K程度であって、Mg2SiO4成分だけでは660km不連続面が説明できないことが示された(Kojitani et al., 2016)。