茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。
さて、ひたすら毎日のように根を詰めて働いたおかげで、今日の夜には予定以上に仕事が片付き、多忙な来週をなんとか迎えられそうな感じになった。偉いぞ、おれ。
ここまで来たから、明日は大学はさぼって、家にこもって久々に研究にまとまった時間を割くことにしよう。 と、よく考えると、明日は日曜だから別にさぼるわけじゃないのだ(というか、何曜だろうと、そもそも仕事するからさぼってないし)。
なるほど。 ようやく彼らのやっていることとぼくらのやってきたことを、もう少し広い視点からまとめて見られるような気がしてきた。 こうなると、考えたいこと、試したいことが、頭にどっとあふれてくる。 子供の頃に「次にどんな工作をしようか」って考えるとすごくワクワクしたんだけれど、それとまったく同じ素直なワクワク感があるんだなあ。 別に何ができるってわけじゃないし、理解が進むかどうかはわからないけど、でも、楽しい。
洗濯物を干しに屋上にあがると、午前中の風と日射しは既に秋の風と秋の日射し。
今度の学期は通例の学部の講義に加えて大学院の講義をするのだが、一部のみなさんのリクエストにお答えして、量子多体系を取り上げることにした。
基礎物理学 I 「量子多体系におけるゆらぎと対称性の破れ」上に引用したのは去年の暮れあたりにシラバスに書いた講義の内容。
第2学期 月曜日 3 時限目 (13:00-14:30) 南 3-204
第1回 9/14, 第 2 回 10/5(9/28 は学会出張のため休講)授業の目的・内容:量子スピン系や量子多体問題において、量子性と大自由度の相互作用が本質的な役割を果たすいくつかの現象について解説する。具体的には、1次元反強磁性量子スピン系の基底状態における量子スピン液体、高次元量子スピン系の長距離秩序と対称性の自発的破れ、相互作用のあるボゾン系におけるボース・アインシュタイン凝縮などのテーマを考えている。
その後つらつら考え、少なくとも講義の前半(と、もう少し)では、徹底的に「対称性の自発的破れ」をメインにすることに決めた。 イジング模型の平衡状態での相転移、長距離秩序、対称性の破れについて知られていることを簡潔にレビューし、それから、量子スピン系とボゾン系をしっかりとやる。 長距離秩序と自発的対称性の破れの関係、特に、量子スピン系の有限系や、BEC 系での非対角長距離秩序の意味など、デリケートなところを丁寧に議論しようと思う(きわめて重要なことなのだが、ぼくが知る限り、まとまってきちんと書いてある文献はない)。 それによって、(量子スピンや BEC といった個別のテーマを離れて)量子多体系での対称性の自発的破れの非自明さと本質を見ることを目指そう。
予備知識としては強磁性イジング模型の平均場近似、角運動量を含む量子力学の初歩的な知識。 生成・消滅演算子の方法(いわゆる第二量子化)などの進んだ知識はちゃんと解説する。
二年前の立教、四年前の駒場での集中講義などと共通点はあるだろうけど、今回は(まずは)「対称性の自発的破れ」に本気で焦点を当てることにする。 それで一通り終わったところで、その先のことは(出席者と相談しながら)考えていこう。
南 3-204 は縦長であまり好きな教室ではない(場合によっては教室を変えるかもしれない)ですが、通常の教室なので、たっぷりと余裕があるはず。 ご興味のある方はお誘いあわせの上、是非どうぞ。
さて、今日から二学期の講義。
いつも書いていることだが、教員を何年もやっていても、長い休み明けの最初の授業は緊張する。 しかも、今回は、例年とはひと味ちがう大学院の講義で、日記で外に向けてもアナウンスしている。 どれくらい人が来ているかも、ちょっとドキドキ。
教室はけっきょく南 3-103 に変更した。ここ十年くらい、ぼくがほとんどの講義に使っているホームグラウンド的教室だ。 学部の講義に普通に使う教室だから広すぎるはずで、なるべくみんなに前に座ってもらうよう頼むつもりだった。
が、教室に行ってみると、
人 が た く さ ん で、 教 室 が い っ ぱ い。
ヘタをすると、普段の必修の講義よりも多いくらいであった(普段の講義がんばれ!)。
教室が変更になったので、化学科の岩田さんの講義を取るつもりの学生さんがいるのかも知れない。 念のため、
「ぼくは田崎です。 岩田さんではありません。 岩田さんというのは、ええと、その、もっと、かっこいい人です(←これは客観的事実であることを論評・感想・感情抜きでお伝えしたい)」とアナウンスしてみたが、誰も動こうとしない(かつ、誰も笑おうともしない!)。
というわけで、みなさん、この量子多体系の講義を聴きに来てくださったのだと納得。 ありがたいことである。 見渡すと、当然知っている学習院のみなさんの他に、よく知ってる顔、ちょっと知っている顔、初めての顔などいろいろ。
もちろん、人数が多かろうが少なかろうが、全力で講義するわけですが、まあ、ともかくがんばりましょう。
初回は色々としゃべりまくったので、けっきょくイジングモデルの定義くらいしかやらなかった。 これで、来週は休日、その次の週は学会出張で休講だから、次回はなんと 10 月 5 日。
「そんなに間があいて『金返せ!』って感じですね」と言ったけど、そこで教室を見渡して、つい、続けて「まあ、金払ってない人もけっこう多いですけど」と言ってしまった。 本格的に対称性の破れとか量子スピン系を議論するのは次回以降なので、初回を逃した方もご遠慮なくどうぞ。まだ席はあります。
学期が始まったら絶望的に忙しくなると思って必死で雑用を早めに終えて身構えていたせいか、それほど忙しくない。 むしろ講義の後の時間はのんびりと考え事もできる。
で、今日は不思議と訪問者の多い一日。
つい、二人で、私の学習院での研究人生と、彼の学習院での研究人生を振り返ってしまう(前者はまだ途中だけど)。
実は、これを聞いてかなり驚いたのだ。
ぼくは最近ちょっとしたきっかけから、ロゲルギストエッセイをゆっくりと読み直している(「ロゲルギスト」っていうのが何だか知らない人は、まあ、軽く流してください。近いうちに、ゆっくり書くと思う)。 今日も、昼食に出かけたあと、近所の公園のベンチに座って「物理の散歩道」の最初の巻を読んでいた。 で、ちょうど p 68 の「かきもち問答」の手前まで読み進めて、そこに栞がはさんであったのだ。
ぼくは、机の上に置いてあった「物理の散歩道」をとって、まさに栞がはさんであるページをあけた。 ここで、まさにその問題が議論されているのですと。
しかし、まあ、こんな偶然ってなかなかあるものじゃないので、そっちのほうが面白いくらいだが、話をそらすのはやめておこう。
で、ロゲルギストエッセイに書いてあるのは、金属の板に穴をあけたものを暖める話。 この場合は、暖めると穴も大きくなるのが実験事実で、その説明も単純明快。 結晶の格子間隔が一様に大きくなると考えれば、もとの(三次元)図形をそのまま相似に拡大した形になるはずで、とうぜん、全体のサイズも穴の大きさもすべて同じ割合で大きくなるだろうということ(金属の穴はエッセイの枕で、「かきもち」なら焼いて大きくなるとき穴は逆に小さくなるというところから本題が始まっていく)。
同じ理屈を使えば、金属パイプの場合も、全体が一様に拡大し、パイプの外径も内径も同じ割合で大きくなるだろうと推測できる。 といっても、この類の話については、実験してみないことには、これで落とし穴がないか確信はもてないですな。
どなたか実験してみた方いらっしゃいますか?
T 君といえば、ぼくら(←誰っ?)のあいだでは
巨漢の T 君がゼミで黒板ですさまじい勢いで計算している途中で足の指がつって苦しみだした事件(2002/6/14 の日記)があまりにも有名である。 その彼が、学習院の修士課程を出て、別の大学の博士課程に入ったところ、なんと、同じ研究室の人に「この田崎さんの日記に登場する(足の指のつった)T 君とは君のことか?」と質問されたという。 その時点で既に三年近く前の日記だったわけで、よくまあ、T 君を特定できたものだと感心する。 というか、(多分、直接は存じ上げていない方に)それほどまでに徹底して日記を読んでいただいているというのは、もう、恐縮するばかりであります。ありがとうございます。いつでも目白に遊びにいらっしゃって下さい。
ちなみに、これを読んで「その T 君というのは、さぞかし足の指がつりそうな感じの弱っちい奴なんだなあ」と思われた方。 それは違います。強そうです。
妻が(自分で使おうと思って買ってきた)ヘアケア製品に、
ナノより小さいピコ・アミノ酸と書いてあるのをはっけ〜ん! 身の回りのプチ「ニセ科学」である。
説明をみると、
〜ピコ・アミノ酸とは〜ということらしい。
ナノサイズよりも小さいアミノ酸。高い浸透性で。髪の奥まで浸透する成分です。
一応、解説しよう! 普通「ナノ」というと「ナノメートル」の略。1 ナノメートルは、10 のマイナス 9 乗メートル。 通常の原子の大きさはだいたい 1 オングストローム = 0.1 ナノメートルくらい。 アミノ酸というのは、それなりの数の原子がくっついた分子なので、サイズはナノメートルのオーダーであろう。 いっぽう、長さの文脈で「ピコ」といえば、普通 10 のマイナス 12 乗メートルを指すピコメートル。 ピコメートルのスケールになると、もう、原子の内側に入り込んでしまう。 というわけで、ピコメートルの大きさのアミノ酸というのは、あり得ないことになる。
まあ、とはいっても、「ナノ」とか「ピコ」とかいうのが、別に「ナノメートル」や「ピコメートル」を指すわけじゃない。 「なんか、ピコピコした感じでかわいいから、ピコって名付けました」ってことかもしれない。 あるいは、二千ピコメートルだって「ピコ」には違いない。 ひょっとしたら、「容器がピコピコハンマーになってる」ってことかもしれない(←それはない)。
話のついでに、どういう解説をしているのか見てみようと思って web を検索したのだけれど、出てきたのはこのページくらい。
普通、「ニセ科学」で商売しようと思ったら、もっともらしい科学的説明や分子構造の図解なんかを並べ、教科書に載っているほんとうの話と新たに発明したインチキ与太話を上手に並べて混乱させ、無知な人を引っかけようと涙ぐましい努力をするものである。 しかし、ぼくが見た範囲では「ピコ・アミノ酸」はもっと軽やか。
がんばらない「ニセ科学」、という行き方って感じか。 説明とか図解とかには手間をかけず、ただ、それらしいネーミングと、短いキャッチコピー的説明だけでおしまいだ。
「ニセ科学」の世界も奥が深いのである(というか、浅いのかな?)。
あわただしく過ごしている内にどんどん日が経っていく。 連休だったが、まあ、普通に仕事。
休み明けで事務が動き出した今日は、一気に事務関連の仕事をたくさん片付けて、重要なメールもいっぱい書いた。 なかなか偉いぞ、おれ。
しかし、一年生の数学は休講にしたくないので、明日、午前中に講義をしてから夜の飛行機で熊本入りする予定。 学会には最終日までいます(戻ってきたら、予定びっしり・・)。
今回は、忙しいことを予見していたので、自分では発表は一つもしない。 話をするのは好きなので、発表しないと思うと寂しい気もするのだが、まあ、そこは、少し大人になったので我慢できるのである。 そのかわり、共同研究者の発表で名前を入れてもらっているのが五つかな? ちゃんと発表のときは会場にいます。
熊本はさすがに暑く、今でも 30 度を超す日々らしい。
「片付けてしまった夏服を出してきて旅行に持って行こう」といったことを書いている人もいるのだが、我が身を振り返ると、今日も、T シャツ、ジーパン、サンダルという、真夏と全く変わらない服装で出勤していた。 いくらインフォーマルな物理学会といえども、これ以上の薄着は社会通念から許されないであろう。どうすればいいんだ?
昨日は、夜の飛行機で無事に熊本に移動。
羽田空港での夕食は、お店のあるゾーンの三階の「アカシア」という、いわゆる洋食屋さんで。 前にもここで食べた。 カウンターが高くて座りにくいのではあるが、手軽に食べられて、美味しい。 次に羽田を利用するときに思い出しやすいように、ここに書いておくのである。
けっきょく、35 分で着いた。佐々さんにあったら自慢しようと思った(後で聞いたら、佐々さんのホテルは、ぼくより少し遠いらしい)。
一つだけはっきりしているのは、ぼくらは金属強磁性についての長い論文を絶対に書くべきだということ。
われながら、色々と書くべきものがたまっている。
こちらも書くべきものはたまっているはずなのだが、どう書くかは悩ましい。
ロバート・チャールズ・ウィルスン「時間封鎖」を買った。 空港での待ち時間、移動時間、ホテルでの空き時間に読み続けて、けっきょく、さっき読み終えてしまった。 英語で読もうかとも迷ったのだが、これは邦訳をさらっと読むのが正解だったね。 期待通り、素直な「SF を読む喜び」。
本来、学会の空き時間は、議論の続きや講演から拾った課題等について頭を使い続けるべきなので、まあ、ちょっとさぼり気味だ。 最近、こういう気楽な読書はほとんどしていなかったし(実は、Christian と三島の話をしたのがきっかけで、夏は三島由紀夫を読んでいた。決して好きではないが、しかし、きわめて才能のある人だという印象をまた強くした)、なんというか、少し精神的にリラックスしたかったのかもなあ、などと自分で分析して、言い訳としよう。
学会には朝のセッションからちゃんと参加しようと決めていたのだが、ホテルを出るのが思ったより遅くなった。
遅れを挽回すべく、昨日以上にひたすらスタスタと歩く。 信号待ちでロスを作らないよう、タイミングを見計らって太い道(三号線だね)を渡る。 途中も信号待ちをいっさいしないよう横断歩道の前では小走りに。 早足の若者たちに追いつき追い越していく私の姿はまるで何者かと競うようであったとも人は言う(別に聞いてないけど)。 会場に着いたときには汗が激しくふきだしていた。
しかし、スピン系の話は(未だに)よくわかる。喜んでいいことなのかどうか、よくわからない。
ともかく全てまったく知らない話だったので、そういう意味では、楽しかったし学ぶことも多かった。 ただ、シンポジウムにしては、一つ一つの講演が短かすぎたと感じる。 20 分では、丁寧にイントロをやると深い話ができないし、逆に新しい結果をメインに据えるとイントロが明らかに不十分になる。 後者のスタンスで話す人が多かったのだが、これは聴衆が話をある程度知っていることを前提にしているからだろう。 まあ、実際、近い分野の人たちが多かったようなので仕方ないのかも知れないが、シンポジウムの理想の姿とはちょっと違うよね。
シンポジウム提案者の坪田さんのお名前が、少なからぬ発表で共同研究者としてあがっていたのには、素直に驚いた。 学会のシンポジウムは「○○グループの発表会」みたいにしないための工夫があって、(同じ所属の人が話さないとか)色々とルールを設けている。 たしかに、このシンポジウムのプログラムはそういう基準はばっちり満たしているのだろう。 でも、蓋をあけてみると、堂々と坪田カラー。 潔いともいえよう。
ちなみに「量子乱流」という名前がついているけれど、実際に出てくるのは渦のパターンダイナミクスである。 もちろん渦ができるために量子性がきわめて本質的な役割を果たすのだが、渦が出た後は、量子力学はあんまり関係ない。 シンポジウム講演でも、量子力学っぽい話が出たのは最後の講演一つだけだった。
学会終了。
7 時発の飛行機で東京に戻るのだけれど、(びびりなので)2 時間前に空港に来た。
今は、一階のロビーで MacBookAir を b-mobile でネットにつないで日記を更新している。 なんか、かっこいい。 ていうか、空港のいすに座ってリアルタイムでネット上の日記を更新するのとかかっこいいなというだけの理由でこれを書いているのだ。 で、疲れていて特に書くことを思いつかない。終わりにしよう。中身がない。すんまへん。
セッションのあとは、田中さん、丸山さんと、研究打ち合わせを兼ねて昼食。 それから、田中さんと研究打ち合わせを兼ねて少し散策。
とはいえ、チビちゃんと遊べて素直に楽しかったし、小さい子と一緒にいることで、ビールもあまり飲まず、ちゃんと 9 時頃には切り上げてホテルに帰るという規則正しい生活を送ることができた。 そうなると、朝も早く起きられるし、体力的にはずっと楽。 もう若くもないし、今後の学会では、今までのように飲む日と、こういう風に健全に過ごす日を使い分けるのが正解かもね。