2001年度卒業生 共同研究 
1、アメリカ大統領選挙の仕組みと問題点
2、ジョン・F・ケネディと大統領選挙
3、アメリカ大統領選挙とキャンペーンマネー
4、2000年アメリカ大統領選挙とメディア
1、アメリカ大統領選挙の仕組みと問題点
  【基礎データ】

 大統領とはアメリカ合衆国の元首、行政府の首長、軍最高司令官を兼ねて全てを超越した権力を持つ人が求められている。さらに他にも知力、決断力、組織力、コミュニケーション能力も必要とされ、そのイメージに少しでも近い人が選ばれる。つまりアメリカ人はハリウッド映画に出てくる全てを上手くこなす大統領をイメージとして描いている(例えば、エアフォースワンやインデペンデンスデイなどに登場する大統領)。また大統領が決して統治者ではなく、国民の厳しい批判にさらされる行政官の長という色彩も帯びている。


  【資格】

 
35歳以上でアメリカ市民。14年以上アメリカに住んでいる(これは独立当時、移住者が多かったため)。また裁判で有罪が確定したものにはない。ちなみに1〜7代まではイギリス生まれである。


 また非公式の資格要件として白人男性、プロテスタントであること。実際、43代ブッシュ大統領まで全て白人男性で、宗教はケネディ、レーガン両大統領以外はプロテスタントである。そして好ましくない要件として黒人、ユダヤ系、カトリック教徒、女性、離婚者、独身者が不利といわれている。ただし、カトリック教徒のケネディ、レーガンが大統領になったことによりその要因からは離れつつある。


  【任期】

 4年(2期)。これ以上できないのは、ヨーロッパの世襲の王制に対する反発があったからである。32代、F・ルーズベルトのみ4選しているが、これは彼の時代が世界恐慌や第二次世界大戦など特殊な状況にあったからだ。


  【継承の順位】

 
副大統領→下院議長→上院臨時議長→国務長官→財務長官→国防長官   今までに副大統領から大統領に昇格したのは9人いる。そのうち4人が歴代大統領評価のワーストテンに、2人がトップテンに名を連ねている。


  【日程

 2月から6月にかけて予備選挙がニューハンプシャー州をトップに始まる。そこでは「ニューハンプシャーでトップに立たなかった候補は大統領に当選しない」というジンクスを作り上げてきた。この予備選挙でその政党の候補者が絞られる(この時点ではひとつの政党の中から複数の候補者がいる)。そして予備選挙で勝った候補が7、8月に行われる全国党大会で指名され、その党の代表となるのである(ここまでは党内部の戦い)。テレビの普及で全国党大会は盛大な祭りと化してしまった。しかしこの裏側には弱々しいところを国民に見せられないという意図も隠れているのである。全国党大会は野党が先にし、さらに副大統領の指名も行える。この大会で党内部の個々の対立をなくし、全党で結束をはかり、本選挙で戦う姿勢を整える。

 本選挙(ここからが政党間での争い)で一般の有権者は大統領候補者自身ではなく、選挙人に投票する。一般の有権者は選挙人の名前は知らず、その選挙人が支持する大統領候補に投票したことになるのだ。また大統領候補者も選挙人の数のみを重要視している。そして一般の候補者はこれ以降の選挙に関わることができなくなる。

 その後、12月第2水曜日の次の月曜日に選挙人が直接、支持する大統領候補に投票する。しかし実際は本選挙の時点で選挙人は誰に投票するのか分かっているのでこの選挙は形式的なもので、本選挙終了時にどの候補者が大統領になるか結果はわかっているのである。

 そして上院議長あてに送られ、翌1月6日上・下両院合同会議で開票され、1月20日の正午に就任するのである。


  【しくみ】

 *間接選挙制
 アメリカは直接選挙制だと思いがちだが、実際はその候補者を支持する選挙人に投票する、つまりアメリカ国民は彼らの大統領を直接選ぶのではなく、各州においてその州が合衆国議会に選出し得る上院議員および下院議員の総数と大統領選挙人を選ぶという間接選挙制である。ちなみに各州の選挙人の数は上(定数2)と下院議員(人口比で州によって違う)を足し合わせた数は全米で538人になる。直接選挙制の採用は小党乱立を招く恐れがあるため、また左派政党が育たなくするため、間接選挙を維持している。

 *二大政党制
 アメリカは二大政党制と思われがちだが、他にも政党はあり、大統領候補にも立候補している。しかし小党の候補が大統領になると、人種、言語、地域があまりに多様なアメリカを統一できなくなるという懸念があるため、民主、共和党の外から見ると不平等な選挙制度になっている。そのため、「二大政党制のための選挙」と指摘されている。例えば過半数ではなく、40%の一般投票を持って大統領に当選できる制度になったのも、もし当選に過半数を要求するならば小党がわずかな票で二大政党の前に立ちはだかり二大政党が当選できなくなる可能性も出てくるのである。

 *大統領予備選挙
 ひとつの州内で民主党、共和党が別々にそれぞれの党内で行う大統領選挙のようなもので、この予備選に勝った候補が全国党大会で指名される。

 長所として、
@全国的に知名度の高くない候補者に“はずみ”をつけさせ彼らを全国的な場へ押し出す。これは新し
  い指導者を生まれさせる役割も担っている。
A一般の党支持者がより好ましい候補者を選べる。
B政党に対する親近感が沸くということが挙げられる。

 反対に短所として、
@期間が長い。
A候補者の多くが現役の政治家なので、自身の業務の遂行が著しく害されること。
B費用がかかること。
C形態が各州で異なり、規則・手続きが複雑なこと。
D党内の派閥の対立、抗争などがある。

また改革案として全国予備選挙や地域的予備選挙が挙げられている。

 *Super Tuesday(3月8日)
 予備選挙のひとつで、南部主導で同時に行われる。これは予備選挙の流れを率先して南部で取ってしまおうという流れから始まった。


  【今回の選挙】

 今回の選挙が何故、接戦といわれたのだろうか。それは今まで見てきたアメリカ選挙制度のしくみにあった。








  第一に、選挙人獲得数である。そもそも4人しか違いがないが、過半数が270人なので、これ以下だと下院議会でもう一度投票のやり直しになる。第二に全米での得票総数がゴア氏のほうが獲得していることである。つまりアメリカが直接選挙制であったならばゴア氏が当選していたことになる。これは国民の声が届いていないということになるような気もする。まさに、フロリダでの約500人の差が運命を分けたといえよう。

 *問題点
 一つ目は長丁場になることである。そして相場は2年と言われている。
 二つ目に短式大統領投票用紙が使われていることにある。これは選挙人候補者の名前が省略され大統領と副大統領の名前だけが記されているので、直接選挙制と誤解される要因となっている。ここでは大統領候補に投票したのではなく、有権者が支持する政党の大統領選挙人候補者に対し投票したのである。フロリダ州のケースもこれである。反対の長式大統領投票用紙には大統領候補者、選挙人候補者が共に書かれている。短式大統領投票用紙の利点としては一つのグループとして大統領選挙人に一括して投票できることで、欠点としては選挙人の名前がないためその選挙人が違う候補に投票すると有権者は裏切られる形となることだ。実際このような事件も起きているのである。次にパンチ式投票システムである。これはフロリダ州において用いられた機械だが、数十年前のもので古く、現在では手に入らない代物だそうだ。しかし、4年に一度だけのために高額なシステムを導入できないのが現状なのである。また他の州ではマークシートやコンピューターの画面上で投票するところもあるそうだ。
 最後に公認候補者名簿制で、(Winner-take-all)。これはいかに少しの票で負けてもその州で最多得票を得た政党が全選挙人を独占できる制度である。今回ゴア氏はフロリダ州でまさにこの制度に泣かされたのである。つまり少しの差で負けても選挙人に数えなおすと、大差で負ける場合があるのだ。これが直接選挙を求める理由の一つである。

 *各国批評
@フランス・・・「アメリカは教訓をたれるのが好きだが、それを続けたいならフランスのように直接選挙  制に変えたらどうか」と州ごとの選挙人制度を皮肉り、さらにTVCMや選挙速報も批判した。

Aロシア・・・プーチン大統領は「票の計算で手助けが必要ならロシアはいくらでも協力するとジョークを言った。これはクルスクが沈没した時にロシアが他の国の援助を断ったことに批判されたときのことをかけている。また下院副議長は「アメリカの選挙は中世レベル」と言い、マスコミは「新大統領はクリントン」と言った。他では「これがロシアなら大変な暴力沙汰になるだろう」と、とことん票にこだわるアメリカを羨ましがったところもあったそうだ。

B中国・・・英字紙“China Dailyは「アメリカの選挙制度は彼らが自慢するほど公正でも完璧でもない」と言っていたが、一方で政府のコメントは控えめであった。

C韓国・・・アメリカに電報を打ったり、取り消したりで困惑をしたそうだ。

D日本・・・福田官房長官が「ミステリー」とコメントを発表した。このように各国が上のような反応を示しているのはそれほどアメリカ大統領の結果は国際政治、また世界経済において大きな影響があると考えられているからだと思われる。今回の選挙はアメリカが大国であることが改めて分かり、また世界中が振り回されたという結果になってしまった。


  【感想】

 
日本国憲法は成立してから一度も改正されていないという点で世界でも古い憲法のうちのひとつだと聞いたことがあるが、何度も改正されているアメリカはその当時の時代背景も見え、そしてそれ故に法律に縛られているような気がした。また同時に日常生活において法律が浸透していることもうかがえた。   今回の選挙では大混戦になり、日本でも大きく取り上げられた。それがアメリカ大統領選挙について勉強しようと思った理由だが、しくみがわかったことでどういう意味で接戦だったのか見えてきた。一方で接線になったために問題点もあからさまに出てきたのではないかと思う。   そして自由と平等のアメリカですらウラの要件なるものがあり、女性や人種などの差別があることを知った。次の選挙にヒラリー・クリントン氏が立候補するか楽しみである。


  −参考文献−

   『アメリカ合衆国大統領』    飯沼健真  講談社  1988年   詳しく
   『アメリカ合衆国大統領選挙の研究』    太田俊太郎  慶応大学出版会  1996年
   朝日新聞社    
http://www.asahi.com/home.html

   読売新聞社    http://www.yomiuri.co.jp/
   世界日報社    http://www.worldtimes.co.jp/
   Cable News Network    http://www.cnn.co.jp
   ブッシュ ゴア
 選挙人獲得数 271(30州) 267(21州)
 全米での得票総数 49,820,518人 50,158,094人
 フロリダでの得票総数 2,912,790人 2,912,253人
2、ジョン・F・ケネディと大統領選挙